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【百合ロマン小説】八咫烏の巫女  作者: 泉水遊馬
八咫烏神社

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第四話:近代兵器の無力と、裏巫女の神速

赤煉瓦の紡績工場の外では、怪異を隠蔽し利権を貪ろうとした陸軍の歩兵小隊が、すでに全滅の危機に瀕していた。

「撃て! 撃てェ! 化け物め!」

指揮官の絶叫とともに三十年式歩兵銃が一斉に火を噴くが、鉛の弾丸はお召の周囲に渦巻く黒い蒸気に触れた瞬間、ドロドロの鉄屑となって地面に落ちる。

近代の科学も、男たちの軍隊も、この不条理な怨念の前では児戯に等しかった。

お召の背中から伸びた錆びた鉄線が、兵士たちの肉体を次々と絡め取り、工場の壁へと叩きつけていく。

「ア、ァ、熱イ……痛イ……男タチノ、血デ、機械ヲ、潤セ……」

お召の陰魔術『黒煙鉄死街』の熱量が最高潮に達し、工場全体が生き物のように脈打ち始めたその時、赤煉瓦の窓を突き破って、一筋の緋色の閃光が舞い降りた。

本殿一等巫女、お蓮である。

「退きなさい。

その玩具(銃)では、彼女たちの『無念』には傷一つつけられない」

お蓮の放つ冷徹な声とともに、緋色の忍び刀が夜闇に一閃する。


挿絵(By みてみん)


男の弾丸を容易く溶かしたお召の呪詛蒸気が、お蓮の刀身が放つ神気によって、真っ二つに切り裂かれた。

陰魔女に対抗できるのは、国家の裏で理を守る、八咫烏の「裏巫女」の術理だけ。

「小娘ガァッ!」

お召が吠え、無数の蒸気管を槍のように変形させてお蓮へと突き出す。

お蓮は緋眼を極限まで発光させ、その刺突の隙間を、肉眼では捉えきれない神速の歩法で潜り抜けていく。

しかし、陰魔女の執念も凄まじい。

空間全体に充満する呪詛の熱気が、お蓮の処女の肌を焼き、その五感をじわじわと麻痺させていく。

肉体を直接苛む陰魔術の波動に、お蓮の足運びに、ほんの一瞬の乱れが生じた。

その隙を逃さず、巨大な鉄の歯車がお蓮の頭上から容赦なく振り下ろされる。

「ちっ、だから単細胞は困るんだよ。

少しは頭を使いな、お蓮!」

爆音とともに、工場の天井そのものが崩落した。

割って入ったのは、帝都最強の裏巫女、詩織。


挿絵(By みてみん)


彼女が手にする大太刀の一振りは、お召が展開していた陰魔術の空間そのものを、物理的な質量ごと強引に叩き潰す。

激しい火花が散り、お召の強固な鉄の身体が、詩織の圧倒的な神気の前に大きくのけぞった。

「今だ! 処女の意地を見せてみな!」

詩織の怒号に呼応し、お蓮は地を這うような姿勢から、限界を超えた跳躍を見せる。

緋色に燃え盛る忍び刀が、お召の胸中に隠された、女工たちの怨念の核——紅く輝く歯車の心臓へと真っ直ぐに突き刺さった。

「あ、が、あぁぁぁあッ!!」

裏巫女の刃によってのみもたらされる「滅び」の痛みに、陰魔女は断末魔を上げ、黒い灰となって霧散していく。

しかし、討伐の代償は重い。

消滅の瞬間、お召が最期に放った濃密な陰魔術の残滓が、至近距離にいたお蓮の全身を包み込んだ。

「く、あ、っ……はぁ、あ、っ……!」

男を知らぬ清らかな体内に、押し寄せるのは女たちのドス黒い愛憎の嵐。

お蓮は刀を落とし、激しく胸を掻きむしりながらその場に頽れた。

肌は異常なほどに紅潮し、瞳の緋色は、すでに理性を失った情欲の光へと変貌しつつある。

裏巫女以外には倒せない強大な怪異を屠るたび、彼女たちはその身に、同じ女の狂気を宿していかなければならない。

これを受け止め、調伏できるのは、神社の奥の院で待つ、あの見習い巫女の指先だけだった。


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