表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【百合ロマン小説】八咫烏の巫女  作者: 泉水遊馬
八咫烏神社

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/14

第三話 八咫烏神社 神主: 藤原 静(ふじわら せい)

奥の院の最奥「幽玄の間」。

深夜を過ぎた八咫烏神社は、表の灯りをすべて落としていた。境内を包む結界が淡く紫に輝き、帝都の喧騒を遠く遮断する。煤竹の行灯がぼうっと橙色の光を投げかけ、畳の香りと線香の煙が静かに立ち込めていた。

藤原 静は上座に正座し、純白の千早をまとい、長い黒髪を高く結い上げていた。銀の簪が灯りにきらめく。彼女の細く切れ長の瞳は、いつもの穏やかな微笑みを湛えながらも、今夜は底知れぬ重みを宿していた。


挿絵(By みてみん)



その前に跪く六人の巫女たち。

お蓮は黒の袴姿のまま、背筋を伸ばして座っていた。戦いの余韻でまだ瞳の端が薄く緋く染まっている。

千代はそのすぐ隣に寄り添い、お蓮の袖をそっと指で掴んでいた。

千鶴はモガ風の着流しを乱れさせ、煙草を指に挟んだまま片膝を立てる。

詩織は大太刀を横に置き、豪快に腕を組んでいた。

弥生は小さく縮こまりながらも、真剣な眼差しを神主に向けている。

小夜は盲目の目を静かに閉じ、穏やかな微笑みを浮かべていた。

静はゆっくりと息を吐き、一同を見渡した。


「今宵、皆を集めたのは他でもない……我ら『八咫烏』の、根源を再確認するためだ。」


声は低く、しかし奥の院の空気を震わせる響きを持っていた。


「明治維新より半世紀。帝都は表向き、近代の華やかさに沸いている。だがその裏で、男たちの利権と欲望が無辜の女たちを喰い散らかし続けている。戦乱で、工場で、家制度で、吉原で……無念の死を遂げた女たちの怨念は、いつしか『陰魔女』と化し、帝都を蝕み始めた。

我々は政府最高幹部と『血の密約』を交わし、国家が表立って手を出せぬこの闇を、影から狩る者だ。

表では穏やかな巫女として参拝客を迎え、

夜は裏巫女として、怨念の化身を斬り、浄化し、封じる。

これが我らの使命——『陰界の均衡を守護せよ』。」


静の瞳が、わずかに銀色に輝いた。


「詩織、お蓮。お前らは我が最強の斬滅の刃。

だがその刃は、常に自らを削る。

千代、お前は蓮の救いであり、浄化の聖水だ。二人の絆が、組織の要となることを忘れるな。」


お蓮は無言で頷き、千代は頰をわずかに染めながらも、しっかりと神主の言葉を受け止めた。

「千鶴。諜報の目は怠るな。軍部タカ派の動きが、ますます怪しい。

弥生。呪具の精度をさらに上げよ。次に蓮が持ち帰る陰呪は、ますます強大になる。

詩織。お前は戦場で蓮の背中を守れ。姉御肌の豪快さが、皆の心の支えだ。

小夜……先代の受けとして、千代を導き続けよ。」


静はゆっくりと立ち上がり、純白の袖を翻した。


「我らは決して英雄ではない。歴史に名を残すこともない。

だが、帝都の夜を守る影である限り、

一人の女の無念も、決して見捨てはせぬ。

……これが、八咫烏の意志。

これが、我ら裏巫女の、生きる理由だ。」


一瞬の沈黙の後、詩織が「へっ、相変わらず気取った言い回しだな」と笑い、千鶴が「了解、親分」と軽く手を挙げた。

弥生は小さく「は、はい……!」と声を震わせ、小夜は静かに頷いた。

お蓮は静かに目を伏せ、千代の手をそっと握り返した。

静は再び上座に戻り、柔らかな微笑みを浮かべた。

「今夜はここまで。皆、明日の表の務めもある。……だが、もし陰魔女の気配を感じたなら、即座に集結せよ。

特に、鶴の影が、近づいている。」

行灯の炎が、ゆらりと揺れた。

夜の八咫烏は、再び静寂の中に溶け込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ