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【百合ロマン小説】八咫烏の巫女  作者: 泉水遊馬
八咫烏神社

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第一話:世界観と二つの極

大正という時代は、あまりに急速に、そして歪に回り出した巨大な歯車であった。

帝都・東京の街頭には文明開化の結実たるガス灯や電気の光が眩く溢れ、銀座のカフェーにはモダンガールやモダンボーイの笑い声が響く。

しかし、その輝かしい光の裏側には、煤煙に塗れたあまりにも深い闇が口を開けていた。

明治維新から続く急激な西洋化と資本主義の発達は、社会の底辺に生きる女性たちに凄まじい歪みと犠牲を強いた。

その無念の死と怨嗟が帝都の地下へと絶え間なく降り積もり、霊的な汚染となって街を蝕んでいく。

この「強すぎる近代化の光」と「濃密な闇」の二重写しこそが、本作の舞台となる大正帝都の本質である。



陰魔女いんまじょ」という絶望の具現

この時代が産み落とした最大の歪みであり、帝都を脅かす怪異の総称、それが『陰魔女』である。

彼女たちは、不条理な格差や虐げられた男社会の中で、凄惨な死を遂げた女性たちの怨念の集合体だ。

その怨嗟が帝都の霊的汚染と結びついたとき、かつて人間であった女たちは、男を破滅させるためだけの極上の「性的な罠」へと変貌を遂げる。

陰魔女は自らの肉体を淫らに変化させ、男たちの情欲を煽っては、その精気と命を啜り尽くす。

彼女たちが振りまく不浄なエロスは「陰呪いんじゅ」として帝都の精神を汚染し、心中ブームや猟奇殺人、凄惨な事件を引き起こす原因となっていた。

彼女たちは単なる怪物ではなく、この時代が産み落とした「虐げられた女たちの復讐代行者」に他ならない。



国家非公認の呪術組織「八咫烏神社」

帝都の片隅、鬱蒼とした古木に囲まれた一画に、その神社はひっそりと佇んでいる。

市民にとっては平穏な聖域であるが、その実態は、時の政府最高幹部と「血の密約」を結び、世の理を裏から守る国家非公認の呪術組織『八咫烏』の本拠地であった。

境内全体が帝都の霊的防衛線を担う巨大な隠蔽結界の起点となっており、陸軍のタカ派将校をはじめとする権力者たちが、超常的な力を我が物とせんと、常にこの神社の利権を巡って一触即発の縄張り争いを仕掛けてきている。

男たちの権力闘争と、それに伴う凄惨な隠蔽工作の数々を、八咫烏は闇から闇へと葬り去ってきた。



闇を祓う二つの血統「裏巫女うらみこ

この陰魔女の脅威に対抗できるのは、八咫烏神社にのみ伝わる特殊な血統と呪術を継承した『裏巫女』たちだけである。

彼女たちはその役割に応じて、明確な二つの系統に分かれていた。


一つは、【斬滅ざんめつの裏巫女】。

お蓮を筆頭とする、怪異を物理的・呪術的に「屠る」ための戦闘特化系統である。

夜の戦場では、露出の多い漆黒の戦闘装束を身に纏い、口元を黒布で隠した冷徹な暗殺者へと変貌する。

一族が遺した超絶的な暗殺術と、極限まで研ぎ澄まされた忍びの血統を操り、敵の結界を縫い止める『陰界穿ち』、弱点を見破る『緋眼視殺』、敵を容赦なく切り刻む『千斬解体』といった技で陰魔女を討伐する。

しかし、彼女たちには過酷な宿命があった。

陰魔女を完全に消滅させるためには、トドメの際、敵が放つ極限の不浄な怨念(陰呪)を自らの肉体へと強制的に逆流させ、引き受けなければならない。

そのため、討伐直後は自我が崩壊し、狂暴な発情の熱に浮かされた【受け手(依代)】へと精神が反転してしまう。


それを救うのが、もう一つの系統、

【守護・浄化の裏巫女】である。

千代のように、強大な霊的許容量を持つ者がこの任に就く。

戦闘能力は皆無だが、彼女たちの役割は、斬滅の巫女が命懸けで持ち帰ったドス黒い陰呪を、自身の肉体と深い愛の霊力によって「吸い上げ、調伏する」ことにある。

全裸となったお蓮の肉体を組み敷き、口内から呪詛を奪う『紅蓮の調伏接吻』、溢れ出る不浄の蜜を舌先で啜り上げる『聖不浄の極致』、そして呪具を用いて最奥の呪いを爆発させて放出させる『潮鳴の聖水責め』を行う。

これは単なる肉欲ではなく、怪異を調伏するための冷徹かつ神聖な儀式であり、同時に、相棒の魂を繋ぎ止めるための命懸けの【注ぎ手(調伏手)】の役割であった。

斬滅の巫女が命を賭して闇を切り裂き、守護の巫女がその身を挺して相棒の魂を繋ぎ止める。

明治の戦乱と大正の歪みによってすべてを奪われた二人の少女が、文字通り「肌を重ね、狂気と快楽を分かち合う」ことによってのみ、八咫烏神社は帝都の平穏を保ち続けているのである。


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