第八話「関雲長」
「ふざけるなぁああああああ!!!」
ドカン!!
バリィイイイイイン!」
関羽の咆哮が大広間にこだまする。
こだまする。
こだまする〜。
する〜。
「あんなジジイと我が同列な訳あるかっ!!!
なんであんな老ぼれと!」
こわいこわい怖いこわい。
デカいデカい。刑事ドラマかよ。
デカすぎるよ。
ショーヘー・オオターニーですか?
赤い。紅い。赫い。
顔が真っ赤すぎる。
広島カープファンですか?
頭から湯気出てますやん。
瞬間湯沸かし器ですか?
そこまで怒ることなの?
あんさんの方が前将軍で
おじぃちゃんが後将軍だから
別にええやん……。
関羽は広間をウロウロ歩き回り、
さらに拳で壺を叩き割った。
ドガァン!!
ひょえええええええ。
激おこぷんぷん丸で、
おしっこちょびっとチビッチャリーナだ。
なんて沸点の低い、
プライドマウンテンおじさんなんだ。
夷陵の村を出て二日。
荊州・江陵城にて、
関羽将軍は顔をさらに真っ赤にして怒っていた。
……いや、あなたも充分白髪混じりですよ、
雲長叔父さん。
俺は費詩先生の従者として、
まだ目立たぬように後ろに控えていた。
「我を前将軍は当然至極!
馬超なんぞ、なんぼのもんかい!
あのジジィが後将軍とはおかしいだろっ!!!」
漢中王からの新たな任命書である。
関羽雲長 前将軍
張飛益徳 右将軍
馬超孟起 左将軍
黄忠漢升 後将軍
趙雲子龍 翊軍将軍
魏延文長 督漢中(漢中太守)
鎮遠将軍
定軍山にて黄忠が夏侯淵を打ち取り、
さらに曹操本隊を撤退へ追い込んだ。
219年(建安24年)7月1日
劉備玄徳は、ついに漢中王へ即位した。
漢の高祖・劉邦が
この漢中から項羽をやぶり、
漢王朝を打ち立てた。
この伝説の地で、
およそ四百年の時を経てーー
再び劉姓を継ぐ者がら
漢中王を名乗ったのである。
民衆も幕僚たちも、期待感は最高潮だった。
しかし費詩先生はら
こうなることを予想していたのだろう。
顔色ひとつ変えず、柔らかく応じた。
「君侯(関羽)のお怒り、
ごもっともです。
長き苦難を共にしてきた張右将軍らと
新参の馬左将軍、黄後将軍2人を
同列とするのですから」
「当然だ!
いきなり出てきた馬超など、
名家生まれのボンボンではないか!
どれほどの者だと言うのだ!」
「たしかに、まだ測りかねます」
「益徳はっ!
黄忠などという老将に武功を奪われおって!
しかも漢中太守が魏延だと!」
ドンッ!!
「そこは益徳だろう、どう考えても!
あやつは何をしておった!」
「張右将軍も大いに活躍されました。
しかし、
それ以上に黄後将軍の武勲が見事だったのです。
魏軍西方都督・夏侯淵を討ち取った功績は、
極めて大きいかと」
「ふん!
荊州に来ておれば、
我が青龍偃月刀で斬ってくれたわ!」
「君侯ならば容易いことでしょう。
ですが、高祖劉邦もまた、
若い頃より親しかった蕭何や曹参より、
後から仕えた陳平や韓信を上位に置かれました」
「むむむ……高祖様も、か」
さすがは費詩先生だ。
過去の英雄になぞらえ、
関羽を持ち上げていく。
立ち上がってた関羽も、
ようやく席へ腰を下ろした。
「だが、漢中太守は益徳だろう。
なぜ魏延などという小童に……」
「王(劉備)と君侯は一心同体。
旗揚げの頃より苦難を共にしてきた、
至極の義侠です。
今さら官職や爵位の高低を
気にされる必要がありましょうか」
「たしかに。むふぅ〜」
関羽はようやく落ち着きを見せた。
「黄将軍、魏将軍は共に荊州出身の猛将。
その二人へ恩賞を与えること、
王がいかに荊州人材を
重視しているかが分かります。
そして、その荊州を守れるのは
関前将軍をおいて他におりません」
「当然だ」
「さらに、他の将も、
"老若を問わず、
新参であろうと戦功次第で出世できる"
そう知れば士気も高まります。
これより長安攻略となれば、
張右将軍もますます武勲を挙げられましょう」
「ほほう。
つまり、我が荊州出身者が破格の出世という訳か」
「左様です。
これから涼州・雍州を治めるには、
王の両腕たる関羽・張飛だけでは足りません。
漢中王とは、もはや蜀一国の王ではない。
君侯が荊北を制し、
やがて洛陽へ至る頃にはーー
さらなに多くの将軍が必要となりましょう」
「たしかに」
費詩先生は酒を注ぎながら続けた。
「そして王は君侯にのみ
『符節』と『斧鉞』を授けられました。
これは軍権を示す証。
現地での独断専行、
さらには処断権まで認められた、
特別な権威です。
唯一無二。
それは君侯だけに許されたものなのです」
「うぅむ!!」
関羽は盃を一気に飲み干した。
うまい。
うますぎるぞ費詩先生。
上司との飲み会で好かれる。
完璧な持ち上げ方だ。
さすがです。
痺れます。憧れます。
その時、広間の端から声が飛んできた。
「好きに大暴れしろって事だろ雲長」
いつの間にから簡雍のおっちゃんが話に混ざってきた。
……どこから湧いてきたんだアイツ。
「憲和ァ!まだ生きとったんかい!?」
「いよっ!
乾杯しようじゃねぇか」
「それはワシの部屋にあった酒じゃ!
また盗みおって!」
「ヒャッヒャッヒャッ!
漢中の酒も待って来たぜ。
どっちが美味いか飲み比べしようや」
おっちゃんは懐から酒器を出した。
「応。兄者はどうしてる?
もう八年会っておらんのだ。」
「そんなになるんかぁ……。
早いねぇ、大将も……」
……。
…………
………………。
このおっちゃん、
酒が飲める空気になるまで隠れてやがったな。
関羽がキレてる間、絶対どこかで様子見してたろ。
やがておっちゃんも関羽の隣に座り、
完全に飲み会モードへ移行した。
食台や椅子も運び込まれ、
費詩先生や文官たちも自由に酒を飲み始める。
「ワーッハッハッハッハッハッ!!
益徳が計略を使ったのか!?」
「ホントだってばよ!」
……
「そしたら、益徳と馬超が
大喧嘩始めやがってさァ…」
関羽の笑い声が大広間に響き渡る。
さっきまでの殺気が嘘みたいだ。
費詩先生も他の文官たちと杯を交わしている。
その時、おっちゃんがこちらを見た。
"ここは任せとけ"
そう言いたげな目配せだった。
視線の先には紹先がいる。
俺も小さく頷き、
ここをおっちゃんに任せることにした。
そして次の行動へ移る。
「馬良先生、少し宜しいでしょうか」
第九話「別室にて」つづく。
三国志人物紹介
費詩 ヒシ
44歳 益州出身 生没年不詳
蜀の官僚。もとは劉璋の配下。
三国志演義では劉璋が劉備に降伏すると、そのまま劉備に仕える。漢中王になった劉備が関羽を五虎将軍筆頭に任じた際、老将の黄忠と同格にされて不満を漏らす関羽を説得し、受領させた。後に諸葛亮が北伐を起こすと、郤正と共に秘書を命じられ、成都に残った。
正史では劉璋配下で、綿竹の令。劉備が攻め寄せると率先して臣従した。劉備の皇帝就任に反対して永昌に左遷されるが、諸葛亮に重用され、南蛮征伐にも従軍。蒋琬が政権を握ると、諫議大夫に就任した。
統率14.武力28.知力63.政治71.魅力66
一人称は私。主人公を謙信君と呼ぶ。
歴史の先生みたいで真面目で物腰が柔らかい。
何事も褒めて伸ばす教え上手。




