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第四十四「死地」

ついに――乱世の奸雄。


戦の天才、曹操孟徳が大軍を率い、

戦場へと姿を現した。

その瞬間、

魏軍の士気は言うまでもなく頂点へと跳ね上がる。


「曹操様だ……!」

「これで勝てる……!」


熱狂する兵たちを前に、

曹操は一切の迷いなく戦況を見切った。


「黄忠の軍が最も脆い。そこを突く」


次の瞬間、魏軍は一斉に動いた。


曹操は自ら主力を率いて黄忠軍へ突撃。

老将・黄忠は踏みとどまろうとするも、圧倒的な圧力の前に後退を強いられる。


そこへ――


「曹仁隊、突撃開始!」


側面から魏の精鋭が雪崩れ込む。


戦線は一気に崩れた。



――戦場配置――


 徐晃   夏侯惇  賈詡

 趙雲 張郃 張遼 曹操 曹彰

    張飛 関羽 黄忠 曹仁

      劉備  


――――――――――



劉備本陣へ、次々と伝令が駆け込む。


「報告します!」

「劉封将軍――討死!」

「黄忠隊――敗走!」


「なに……っ」


ざわり、と空気が揺れた。


黄忠軍の副将・劉封が討たれたという報告に、

本陣の緊張が一気に跳ね上がる。


さらに追い打ちのように、

もう一通の報告。


「曹操軍より書状です!」


開かれた文には、

信じがたい内容が記されていた。


――孫呉侵攻、襄陽・江陵陥落――


「……っ!?」


背筋が凍る。


俺の視界が一瞬、白く弾けた。


なんだって……!?


劉備は軍師・信玄と目を合わせると、

わずか一拍の沈黙ののち、決断した。


「撤退だ!! 一旦、新野まで退く!」

「雲長にも下がるよう伝えろ!」


その命が下るや否や、

劉備軍は一斉に後退を開始した。


それを好機と見た魏軍が、

怒涛の追撃を開始する。


俺と香さん(孫尚香)、

銀ネェ(関銀屏)、

紹先も合流し、

劉備軍とともに南へ駆ける。


背後からは、魏軍の怒号。


近い――!


金属音、悲鳴、馬の嘶き。


香さんは馬を走らせながらも、

振り返り矢を放ち続ける。

後方の敵を牽制しながら、馬を前へ進める。


「チックショーーー!!」


頭の中がぐちゃぐちゃに絡まる。


なぜだ、孫権!呂蒙!

このタイミングで裏切るのか!!


このままじゃ関羽どころか、

劉備まで……!


蜀の五虎将が四人も揃いながら、

新野の大敗北だと?

208年――長坂の再現かよ……!


「チックショーーー!!」


叫びが喉を裂く。


気づけば俺は、

涙を流しながら馬を走らせていた。


全部、失敗だった。


他人を信じすぎた。

甘かった。

肝心なところで、また裏切られた。


陸遜に会った時、嫌な予感はしていたのに。


英雄譚の続きなんかじゃない。

これは――最悪の結末だ。


俺が……俺が全部壊したのか……!


涙が止まらない。歯が軋む。


………。


もう何も聞こえない。


「……信殿」



もう何も聴きたくない。


……



「阿斗!!」


銀ネェが俺の馬に飛び乗ってきた。


俺の体を後ろから包み、

手綱を持つ手に、銀ネェも一緒に持つ。



「阿斗!聞こえてる!?」

「しっかりして!」


涙が止まらない。


「でも……俺のせいで……みんなが……」


「泣き虫ね、阿斗は!」


叱るようでいて、声は優しかった。


「いい? ちゃんと見なさい」


ええ?

俺は後ろを振り返る。


俺の汚い涙が

綺麗な関銀屏の頬に当たる。



「ちゃんと見なさい。

あなたが信じた軍師を」


指差した先。


いつの間にか、信玄が並走していた。


「これは策です」


「……さ、く……?」


「曹操をここで討つための策です」


「なに……!?」


信玄は淡々と続ける。


「紹先の諜報部から

荊州が奇襲を受けたりした情報は

届いていますか?」


「いや……そういえば……」


「これは、孫権が印綬を使い、曹操へ誤情報を流した偽報です」


「ええっ!?」


「ここから、私と孔明の策が動きます。ご覧なさい」


その言葉の意味が、まだ理解できない。




だが――戦場は、まだ終わっていなかった。




「黄忠!討ち取ったァァァ!!」


曹彰が首級を掲げる。


「やったぞ、惇兄ィ!」


曹仁が喜びの声をあげる。


「見事だ若君!」


夏侯惇も曹彰の武功を讃える。


魏軍の士気が爆発する。


「次だ!次は誰だ!!」


曹彰の咆哮が戦場を揺らす。


だがその瞬間――


森が裂けた。


「曹、即、斬!!」


甘寧の奇襲。


「なぜ呉がここに……!」


賈詡が目を見開く。


「孫権軍が、ここに……?」


混乱する魏軍。


だが曹操は笑っていた。


「なるほど……裏をかいたか。孫権め、面白い」


許褚が叫ぶ。


「殿ォオオオ!逃げるだァ!!」


「黄髭!!行けぇ!!」


曹彰が吠え、甘寧へ突進する。


激突。


刃と刃が火花を散らす。


甘寧が笑い、曹彰もまた笑う。


「面白ぇ……!」


「叩き潰す!!」


戦場は、もはや混沌そのものだった。


そこへ――


紅蓮の矢雨。


陸遜の火計が戦場を焼く。


「曹操の退路を断て!」


「まずい……包囲されるぞ!」


さらに――


「関羽軍、接近!」


北からも圧力。


そのとき賈詡が叫ぶ。


「大王!!北西、苑方面より敵軍!」


「今度は誰だ!」


「馬超の軍旗です!」


「馬超ぉぉ!? また貴様かァ!!」


――戦場は、完全に包囲された。


つづく


【配置図】


  ↑苑          許昌↑


      諸葛亮 馬岱

        馬超

           炎炎炎

            炎炎炎

 徐晃   夏侯惇 賈詡     陸遜

趙雲 張郃 張遼 曹操 曹彰 甘寧

   張飛 関羽 曹仁   孫権

        劉備

        劉禅

               →江夏

     ↓新野



三国志人物紹介


甘寧カンネイ 字は興覇コウハ

年齢不詳

益州巴郡出身 生年不詳-222年没

呉の勇将。元は錦帆賊の頭目。腰に鈴を帯びていた。

三国志演義では黄祖の部下となる。孫権軍と戦い凌操を討つが重用されず、同僚の蘇飛の勧めで孫権に投降。孫権軍の将として黄祖を追いつめ、蘇飛が捕らえられると命乞いした。その後、赤壁、南郡、合肥などで呉軍の先鋒として奮戦。濡須口では百人で夜襲を成功させ、魏の張遼に匹敵する活躍と称賛された。凌操の子・凌統から仇として命を狙われるが、楽進に襲われた凌統を戦場で助け和解。後に夷陵の戦いで、沙摩柯の矢を受け戦死した。

正史では夷陵で戦死したという記述はない。


統率87.武力94.知力76.政治18.魅力55


益州出身で劉焉、劉璋とも争って荊州に流れてきた説も興味深い。

生年も150年以前という説もあり、

60歳超えた老将が215年濡須口で奇襲したとしたら黄忠に並ぶ元気なおじいちゃんだ。



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