第四十一話「激突」
樊城・襄陽を占領した関羽軍の勢いは、
まさに天を衝くほどであった。
関羽軍の勝利を受け、各地で反乱が多発する。
天水、洛陽、許昌、鄴、下邳、広陵――。
各地で群盗が一斉に蜂起し、
関羽の威勢に中原は震撼した。
樊城を発った関羽軍は、さらに北へ進軍する。
すると新野には、漢中王・劉玄徳を支持する住民が多く、
戦うことなく城門が開かれた。
関羽軍は新野で兵を吸収し、
さらに許昌へ向けて軍を進めていくのであった。
一方、長安から許昌へ戻ってきた曹操は、上機嫌だった。
「関羽が新野に来たか。
ついに戦えるぞ!
曹丕に、鄴への遷都を伝えよ」
歩きながら、曹操は命令を下す。
「戦時中に遷都などされては、
董卓が長安へ都を移した時のように、
天下が混乱しますぞ」
家臣の司馬懿が反対した。
「董卓と一緒にするな!
ワシは都に火など放たん!」
司馬懿の横を通り過ぎながら、曹操は怒鳴った。
「お待ちください、大王」
「司馬懿!
首だけこっちへ向けるな。
気持ち悪い」
そう言いつつ、曹操は笑っている。
「戦時だからこそ遷都するのだ。
余計なものは全て移せ!
政治は鄴で行う。
献帝など、戦の邪魔じゃ」
「邪魔だなんて……」
「許昌の外城は五倍に増築した。
戦うために作り替えた堅城だ。
関羽を迎え撃つぞ」
再び歩き出した曹操を、司馬懿が追う。
「大王、お待ちください。
お身体に障ります。
どうか静養を」
「うるさい。
こんな時に寝ている奴がいるか!
ワシは戦場にいる時の方が調子が良い。
長安の兵も半分こちらへ回せ!
鄴の兵も持って来い!」
「天水の反乱はどうなさいます?
今、長安から兵を移せば、
漢中から狙われますぞ」
「天水など好きなだけ暴れさせておけ。
どうせ大人しく従う民族ではない。
韓遂が良い例だろう」
「漢中への警戒は?」
「あんな山奥から遠征できる兵力など、
劉備軍には残っておるまい」
「鄴では反乱が起きたばかりですぞ!」
「兵を半分にすれば、
反乱分子をまた炙り出せるではないか。
一石二鳥だ。
そして今は戦だ!
大戦だ!」
「直ちに動かします」
「張郃、黄鬚(曹彰)、
そして賈詡!
新野へ向かうぞ。
絶好調の関羽と戦えるぞ!」
「「「ハハッ!」」」
……
…………
…………。
一方、曹操のいる許昌から南西――。
新野の北側で、
関羽軍は曹魏軍と対峙していた。
樊城、襄陽、新野の兵を吸収した関羽軍は、
総勢七万にまで膨れ上がっている。
対する曹魏軍は十万。
主な将は、
夏侯惇、徐晃、曹仁。
副将に、
満寵、趙儼、文聘、呂建。
対する漢中王軍七万。
主な将は、
関羽、趙雲、廖化。
副将に、
関平、関興、関索、
陳到、趙累、馬謖、向寵。
さらに趙雲軍には、
趙香(孫尚香)、関銀屏(銀ネェ)
謙信(俺)、紹先(霍弋)、林、信玄(徐庶)が従軍していた。
やはり樊城の戦いで、
曹仁と満寵を討ち取れなかったのが痛い。
信玄の話によれば、
樊城時点で徐晃の十万は寄せ集めの新兵だったという。
今の魏軍十万も数こそ多いが、
練度は高くない。
急いでここを突破しなければ、
熟練兵を率いた張遼が、あと三日ほどで到着するらしい。
こちらも上庸から、
今日中に精強な援軍が来る予定だ。
早めに決着をつけたい。
上庸からは
おそらく劉封が来てくれるはずだ。
本来の歴史では、劉封と孟達は援軍を拒否し、
関羽をさらに窮地へ追い込んだ。
だが今回は、救援を出してくれたらしい。
良かったぁ。
劉封のお義兄ちゃんが、
劉備に処刑されずに済む。
戦闘が始まった。
夏侯惇は本陣を奥深くに置き、
西に徐晃、東に曹仁を配置する。
南から攻め上がる漢中王軍。
曹仁に関羽、
徐晃に趙雲。
そして廖化隊が南から支援に回った。
夏侯惇
徐晃 曹仁
趙雲 関羽
廖化
信玄の言った通り、
曹魏軍の練度は低かった。
戦況はこちらが優勢に進んでいる。
趙雲隊は徐晃隊の副将・呂建を破り、
傷を負った徐晃を北へ敗走させた。
そして次に、曹仁を狙う。
趙雲、廖化、関羽の三部隊が、
曹仁を追い込んだ。
夏侯惇
趙雲 曹仁
廖化 関羽
このままいけば大勝利だ。
やはり漢中王軍の勢いは天に届く!
その時――
恐れていた事態が起きた。
『遼来! 遼来!』
怒号と共に、一軍が東から突撃してきた。
関羽軍の側面へ強襲を仕掛ける。
もう来たのか!
三日後ではないのか。
早すぎる。
「よっしゃー!
待ち人、ついに来おったわ!」
香さんが興奮している。
「趙香! あの丘を」
信玄が高台を指差した。
戦闘前、信玄は趙香(孫尚香)と
弓の狙撃について確認していた。
馬上よりも、地面に立ち、
さらに高所から狙えば命中率が上がる。
香さんはそう話していた。
「弓部隊、ついて来い!」
香さんは丘へ駆け上がる。
狙撃地点へ向けて。
林、銀ネェ、信玄、
馬謖率いる弓部隊が続いた。
――馬謖。
お前、本当に山登りが好きだなぁ。
嫌な予感しかしない。
「紹先!
関平将軍に、香さんと銀ネェが
丘へ登ったことを伝えろ!」
「わかった!」
紹先が東の関平隊へ向かって駆け出した。
俺も香さんを追い、馬で丘を駆け上がる。
香さんは丘の先にある岩の上へ飛び降りた。
「弓部隊、構え!」
二十名ほどの弓兵が、一斉に弦を引く。
張遼が叫びながら、丘の下を右から迫ってくる。
「放てぇ!」
張遼軍の側面へ、矢の雨が降り注ぐ。
先頭の張遼がこちらを振り返った瞬間、
香さんが矢を放った。
ヒュウッ!!
矢は張遼の目に突き刺さる。
「眉間を狙ったのに、避けよったわ」
いや、目に当てただけでも凄い。
「姫ェ!!」
林が香さんを突き飛ばした。
次の瞬間、張遼が投げた槍が
林の腹部に突き刺さる。
「林ッ!!」
「林さん!!」
香と銀が叫ぶ。
張遼は馬ごと飛び上がった。
腹に槍を受けながらも、
林はなお香を守るように前へ出る。
「弓隊、撃てぇ!!」
馬謖が叫んだ。
だが張遼は矢を全て薙ぎ払い、
林を真っ二つに斬り殺す。
さらに青龍偃月刀を振り回し、
弓兵を十人以上斬り伏せた。
「銀ネェ! 危ない!」
俺は叫ぶ。
銀ネェは、林の亡骸のそばから動けずにいた。
張遼は全てを斬り捨てながら迫ってくる。
ヤバい。
銀ネェが死ぬ――!
張遼が武器を振りかぶった、その瞬間。
関平が銀ネェを庇った。
だが、その武器は
関平の身体に深く食い込む。
「兄さん!」
関平は刺さった武器を、
両腕でがっちりと掴んだ。
「謙信、行けぇ!! ガフッ!」
俺と紹先は、銀ネェを両脇から抱えて走り出した。
信玄も香さんを抱えて走る。
張遼は絶命した関平の身体を
青龍偃月刀で放り投げた。
これが張遼か。
俺は完全に飲まれていた。
マズイ。
全滅する。
そんな俺の後ろから声が聞こえた。
「銀は任せた」
関雲長が張遼と対峙した。
第四十ニ話 「青龍偃月刀」 つづく。
三国志人物紹介
張遼チョウリョウ、字は文遠ブンエン
51歳
并州雁門郡馬邑県 生169-222没
呂布の武将。後に曹操に仕える。張虎の父。
三国志演義では
呂布が下邳で敗死した時に捕らえられ、劉備と関羽の勧めで曹操に登用される。曹操軍が関羽を下邳に包囲した時は関羽に降伏を説いた。官渡の戦いの後、烏桓討伐を指揮し、白狼山で蹋頓を討つ。赤壁の戦い後は合肥に入り、魏呉国境を守る。215年、李典、楽進と共に逍遥津[ショウヨウシン]で孫権軍を大破し、その名を聞けば泣く子も黙ると恐れられた。224年、曹丕に従って呉を攻めた際に丁奉の矢を受け、間もなく死亡した。
正史では222年、曹休と共に呉の呂範を破り、直後に病死。
統率95.武力92.知力78.政治58.魅力77
遼来!遼来!
孫呉にトラウマを与えた言葉。




