第三十八話「初陣」
「我は常山の趙子龍なり!
漢中王の道を切り開かん!!」
趙雲率いる騎馬隊が敵陣へと突撃した。
それは関羽軍と対峙する魏軍の一部隊であった。
「よっしゃー!
ついに実戦や!
武功を立てるで!」
孫尚香は趙雲に続き、
騎馬を駆って戦列に入った。
「林!山!香さんを守れ!」
俺は侍女二人に命じた。
「承知!」
二人は即座に香さんの左右に展開する。
「趙香の弓、見せたるで!」
香さんは矢をつがえ、敵陣へと放つ。
趙香の名は、出陣前に香さんと作った。
合肥奇襲前に呉との関係を伏せるためだ。
趙雲に香りで"趙香"にした。
趙香は矢を連続して放ち、
敵の前衛を撹乱した。
趙雲は騎兵を率い、鋒矢の陣で突入する。
本来なら一点突破を目的とした
楔形陣である。
しかし香さんが前進しすぎたため、
陣形にわずかな乱れが生じた。
それを見た趙雲は即座に馬を進め、
彼女の位置を補正するように前線へ出る。
戦場における判断は一瞬であった。
陣形は再び整い、
楔形を保ったまま敵陣へ突き進む。
俺たちは右翼側に位置し、展開していた。
趙雲が第一陣
香さんがその後方。
俺、銀ネェ、紹先がさらに後続に続く。
趙雲は敵陣を突破し、
戦線を分断するように切り裂いていく。
やがて部隊は左右に分かれ、
二手に敵を包む形となった。
趙雲が声を上げる。
「我は左翼を受け持つ!
右は趙香に任せる!」
「了解や!」
俺たちは香さんの後に続いた。
「弓を構え!」
彼女の号令に合わせ、
全員が弓を構える。
銀ネェも弓を構える。
「放て!」
弓は一斉に放たれ、敵陣へ突き刺さる。
香さんの矢は敵将の騎馬を射抜き、
混乱を誘った。
「突撃!」
林が敵将の武器を打ち払う。
続いて山が槍で敵将に突きを入れ、
趙香が首を跳ねた。
「徐商将軍ーー!!」
「徐商様ーーー!!!」
魏軍に動揺が走る。
「徐商の首、上がったで!」
敵の副将・徐商の死により、
魏軍の統制は崩れ始めた。
やがて後方の部隊は撤退を開始する。
これは徐晃本隊と連携していた部隊の一角であり、
前線崩壊の影響は大きかった。
関羽軍はその隙を突き、
徐晃本隊を後退させた。
戦闘後、俺たちは関羽の本陣へと合流した。
「子龍、援軍感謝する」
「関将軍、ご無事で何よりです」
関羽は本陣中央に立ち、
厳しい表情で周囲を見渡していた。
その視線は、
見慣れぬ人物で止まる。
孫尚香である。
「そなたは何者だ」
関羽は青龍偃月刀に手をかけたまま問う。
その殺気に、
周囲の兵は一斉に緊張した。
銀ネェが慌てて前に出る。
「父上!
この方は味方です!
香姉様です!」
「銀、下がれ」
関羽の声は低く、冷たい。
その一言で場の空気が凍る。
「我は漢中王・劉備の義弟、関雲長。
誰だ貴様」
その時、香さんが一歩前に出た。
「……久しぶりね、関さん」
静かな声だった。
関羽の視線がさらに鋭くなる。
青龍偃月刀は香さんに
向けたままだ。
「我が目は誤魔化されんぞ。
何処の犬だ。
正々堂々名乗れ!」
誰も動けなかった。
「バレちゃあしゃあない」
え?
意外なところから
意外な声が聞こえた。
香さんの後ろに控えてた侍女
異民族の山が仮面を取った。
「孫仲謀じゃ。
関羽
お前に会いにきたで」
第三十九話 つづく




