第三十七話「お礼」
趙雲らと共に江陵城に着いた。
一晩だけしっかりとここで休む。
明日には樊城へ出立する。
趙雲と信玄(徐庶)が深く話し合ってる。
紹先も信玄に付き、
諜報部隊をあちこち手配している。
麋芳将軍に麋商人のお礼を言った。
次は説得だ。
1ヶ月ほど前のこと。
江陵を出て道草する前に
父と孔明へ手紙を書いた。
捕縛した敵将説得の許可が欲しいと。
説得ならば好きにして
良いと父から返信が来た。
斬首は確認せよと言われたが、
斬首するつもりは無い。
俺と香さん(侍女2人付)
地下牢へ来た。
「于禁将軍。
劉備の子。劉禅と申します。
しっかり食事は貰えてますか?」
「ああ」
「名将に会えて光栄です。
今回の戦
見事な判断でした。」
「敗戦の将に言い訳は無用」
「今回の雨は、
于禁将軍のせいではありません。
そして速やかな降伏の判断で
兵を無駄死にさせなかった。
素晴らしい判断です。
三万の兵を救ってくれて
本当にありがとうございました」
「…」
「貴方は紛れもなく名将です。
三万の兵と降伏して
関羽の律儀な性格を狙って
兵糧攻めを狙っていましたね?」
降伏兵三万に食糧を出したところから
本来は樊城の戦いは苦しくなった。
関羽軍は呉の兵糧を奪って恨みを買い
呉に裏切られて窮地に追い込まれる。
「ふん。
関羽は我が策の遥か上をいった。
まさか裸にした三万を樊城に
気前よく全員返すとはな。
完敗だ」
「勝敗は兵家の常。
しかし
名将 于禁左将軍の降伏で
魏は大きく動揺した」
「殿に申し訳ない」
「魏への復帰は大変厳しいでしょう。
仮に戻れたところで、
非常に厳しい仕打ちに晒されます」
「…」
「私は貴方の名将の腕を買いたい。
許昌にいる家族も
できれば救って貴方を味方にしたい」
「...」
「私から3つの提案があります。
話を聞いてくれるだけでもいいです」
「...」
「1つ、
すぐに魏とは戦いづらいでしょうから、後方の異民族討伐などで武功をあげる。
2つ、
先月まで仲間だった魏将との
情報を活かして、
前線で戦い武功を立てまくる。
3つ、考える時間を作る」
「…」
「3番ですね」
「…」
「劉備軍は名将を求めております。
いつでも門番にお声掛けください」
「…」
「また来ます」
于禁とはまだ少し時間がかかるかもしれない。
しかし曹操が亡くなった後ならば
話が変わってくるだろう。
麋芳将軍に牢屋をしっかりと
守って頂くようお願いした。
翌朝、江陵を出発した。
俺たちは移動の速い趙雲と
先発隊一万で先に樊城へ向かう。
陳到が二万五千と兵糧部隊で後詰め。
関羽への援軍は合計三万五千だ。
樊城へ向かっている途中、
橋を渡った頃に香さんが声をかけてきた。
「この橋で張さんが仁王立ちしたんやろ!
しびれるわ〜」
「伝説になってますね」
「謙信も通ったんやろ?この橋」
「赤ん坊でしたからね。
さすがに覚えていません」
「私は少しだけ覚えているわ」
「ええっ!?
銀ネェ覚えてるの?」
「6歳だったから、うる覚えよ。
でもとても怖かったの。
みんなで逃げたわ。
阿斗もいなくて、
心配したんだからね」
そうか、
銀ネェ(関銀屏)は17歳。
俺の4歳年上だから
ギリギリ覚えてるらしい。
「そしたら子龍様が
阿斗を抱えて
私たちの所へ届けてくれたのよ!
カッコ良かったわ。
それだけはよく覚えている」
「謙信!
趙さんにちゃ〜んとお礼言うときんさい。
ほんま、おおきにって」
香さんがお母さんみたいな事を言う。
実際に義理のお母さんなんだから、
子供への教育として正しいのか。
「わかった。
ちゃ〜んと言う。
命の恩人だもんね」
俺は前方にいる趙雲将軍の元へ向かった。
この場所を反対方向に
11年前は移動してたんだな。
劉備軍は必死の逃避行として。
多くの民をつれながら。
「子龍。ちょっといいかい?」
「阿斗様。どうされましたか」
「いや、お礼が言いたくて。
11年前
ここで俺の事
単騎で駆けつけて
助けてくれたんだろう?」
「任務ですから当然の事です」
「幼い俺を助けてくれて
本当にありがとうございました」
「阿斗様。
勿体無きお言葉。
…。
ですが、
こちらからもお礼を申し上げたい」
「え!? 俺
子龍に何かしたっけ?」
「公安での軍議の件です。
全力で雲長殿の援軍に向かうと発言された事です」
「あの時か。
みんなの前で号令をかけるのなんて
初めてだから、
めっちゃ緊張した」
「御立派になられました」
「子龍のお陰です。
すぐに子龍が返事してくれたから
他の将も続いてくれたんだよ
きっと」
「城よりも人
これは貴方の父君も
同じ事を言ってました」
「父上も!
そうなんだ。
知らなかった」
「これより戦場では
私の側を離れないで下さい。
命に変えてもお守りいたします」
「ええ!
駄目だよ。
子龍の命が大事だよ」
「…」
「危なくなったら
一緒に逃げよう。
そしてもしも
敵に捕まった時は
降伏してくれ。
命に変えてなんて駄目だ!
気持ちは嬉しいけど、
絶対に死なないで欲しい」
「…」
「これは関羽にも約束させたんだ」
「雲長殿にも?」
「そうだ。
みんなにも言ってる。
香さんや銀ネェにも。
もし捕縛された時には
潔く斬首なんて決して望むな。
必ず助け出すから、
降伏して下さい。
関羽のように千里を越えても
徐庶のように12年の時を越えても
また会える可能性がある。
諦めないで欲しい」
俺は子龍の目をジッと見た。
「子龍も約束してくれないか?
絶対に生き残る選択をするって」
趙雲は馬上からこちらに礼をして
「常山の趙子龍。
阿斗様と我が命
共に御守り致します」
と断言した。
「ありがとう子龍。
時間ができたら
香さんと銀ネェに
将軍になる為の指導をお願いできないか?」
「承知」
「根性ある2人には
10年後、20年後の将来
劉備軍を支える女将軍にしたい」
「実践が第一です。
この戦が最上の経験となります。
今から私の副官に致します」
「それいい!
有り難う。
早速知らせてくる。
喜ぶぞぉ、あの2人」
趙雲隊の副将に組み込まれ、
遂に俺たちは戦場に到達した。
関羽軍が野戦で敵とぶつかっている。
趙雲が前に出た。
第三十八話「初陣」 つづく




