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第三十ニ話「強襲」

「軍師殿。 

この孫尚香。

本日より劉備軍の傘下に入らせて頂きます。

弓には自信があります。

張遼を射抜き

玄ちゃんの子を産み

孫劉の絆を深める為に来ました。

宜しくお願いいたします」


「妹君から孫権殿を説得する策でしたが…。

まさか登用して来られるとは」


お風呂で口説いた翌日。

香さんを連れて

信玄の部屋へ報告に行った。


「まずかったかな?」

「いいえ。

想定以上の結果です。

さすが若君です。

感服いたしました」

「良かったぁ」

「孫夫人。

訳あって今は信玄と名乗っております」

「あんたが信玄さんか!

12年越しに玄ちゃんち帰ってきたんやろ?」

「はい。

玄徳様を信じたいと書いて信玄です」

「ええ名前やな!」

「謙信殿が名付けてくれました」


香さんが頭を撫でてくれた。


「張遼の狙撃を策に組み込んで

良いのですね?」

「任しとき!外さへんで」

「これは頼もしい。

作戦の幅が広がります」

「どんどんコキ使ってや。

武功を挙げるのが夢やったんや」

「では早速相談したい事があります」

「なんでも聞いてや」

「呂蒙殿が関羽救出作戦の

最重要人物となります。

今はどちらに?」

「昨夜、建業に着いたところや」

「なるほど。

若君から予知夢の天啓については

聞かれましたか?」

「何やそれ?知らんわ」

「ここだけの秘密ですが、

宜しいでしょうか?」

「守る」

「若君は

曹操と呂蒙が正月に天命を終える

予知夢を見られてます」

「えっ!!?

謙信、そんな事わかんの?」

「少しだけね。

確実とは言えない。

でも呂蒙は病気を抱えてる。

だから無理をさせないで欲しい」

「ほな!兄ちゃんとこ行こか。

呂蒙も無理させたくないし、

劉備軍に行くって報告せな」

「え!今から会えるの?」

「わからん。出たとこ勝負や」


孫尚香と俺と信玄(徐庶)は

孫権の自室へ向かった。

屋敷は大きすぎて部屋も多い。

2つ部屋をノックせず開いた。

誰もいない。

次へツカツカ歩いてく。

さすが妹。

兄の部屋にフリーパスで入れるんだ。

これじゃ不意打ちというか

強襲やないか。

強行軍とかガンガンやりそう。

やはり香さんの決断と行動力は早い。

将軍向きだ。


3つ目の扉がドンピシャだった。

バターン!


「兄ちゃん。

話あんねん」

「香!今は大事な軍議中じゃ」

「ウチ、劉備軍の将になるから

さよなら言いに来た。

ぎょーさん世話なりました。

おおきに」

「なんやて!

おい!劉禅。ホンマか!?」

「いいえ。少し違います。

孫権殿の許可が得られたら

劉備軍の将として登用したいと

相談しに来ました」

「同じ事やろ?

ウチはもう決めたで。

樊城行って張遼を射抜いたる!」

「なんやそれ!

お前はいつも勝手に」

「勝手は権兄も一緒やろ?

勝手に縁談決めて、

オカンの危篤やパチこいて、

ウチを監禁して」

「アレはお前の為思うて」

「ウチの為やったら

いま許可ちょーだい。

どうせ『子さらいの香』

でウチ有名人や。

貰い手も無い妹なんて

おらん方がええやろ!」

「香さん」

「なんや権兄っ!文句あんな…

えええ!?

なんで謙信が止めんのん」


「おらん方が良い家族なんて

一人もいません」


「え…謙信…」


「落ち着いてください。

ちょっと香さん座ってて。

お願い」

「う、うん」


いきなりの兄妹喧嘩に

ヒートアップした

室内をスローペースにしたい。

香さんはしぶしぶ座った。

孫権の前には一人先客が座ってる。

徐庶は俺の後ろに立った。


「孫権殿。

突然の訪問失礼しました」


頭を下げる。


「それはええ。

今呼ぼうとしてたとこや」


「俺の本音は呉と仲良くしたいんです。

昨日、お義母様に会って良いと許可をいただきありがとうございました。

お陰様で香さんに久し振りに会えました」

「こんなじゃじゃ馬

ホンマに連れて帰りたいんか?」

「はい。

樊城におびき寄せた張遼を

射抜ける腕があるのは彼女だけです」

「将軍にするんか?」

「父の許可が得られれば」

「玄徳が死んだら?」

「俺の判断で将にします」

「ワシと戦うことになっても?」

「孫権殿と戦わせたくは無いです。

曹魏軍や異民族にぶつけるつもりです」

「ふん!」


「孫権殿。

大事な外交戦略の話を今から

しても宜しいでしょうか?」

「勿論や

ちょうど良い。

こっちは都督の呂蒙じゃ」


やはりそうか。

部屋に入った瞬間、

そうであったら良いなと思ってた。


「はじめまして呂蒙殿。

劉禅、字を公嗣

漢中王軍の太子ですが、

あまり目立ちたく無いので

普段は謙信と皆には呼んでもらってます」


「お目にかかれて光栄です。

呂蒙 字を子明と申します。

都督の任を預かり孫呉の未来を

殿と画策しておりました。

以後お見知り置きをッス」

「こちらが我が軍師の信玄です」

「宜しくお願い致します」


座った位置はこんな感じに。


  孫権

呂蒙  孫尚香

  謙信

    信玄


俺の後ろに信玄が立って控えてる。


「さて、孫権殿。

もうぶっちゃけた

話し方でいいですよね?」

「勿論じゃ。

ワシもその方がええ。

子明もそうせい」

「ハッ。殿。助かりやッス」

「では遠慮なく俺の考えを話す。」



「今から2年間の不戦協定を

結ぶのはどうでしょう?」


これは信玄と移動中に

何度も話した作戦だ。


孫権、呂蒙、孫尚香の顔を見る。


「荊州は天才周瑜都督の頃から

色々あった。

あり過ぎた。

孫呉にも劉蜀にもそれぞれ

言い分がある」


この辺の言葉運びは

信玄と打ち合わせた。

孫権と呂蒙が同席してる時を

狙ってこの話をしようと準備していた。


「どうだろう?孫権殿。

戦は下作。

外交が中作。

人が理解しあえば上作と言う。


俺と孫権殿で

荊州は無血解決にしないか?」


孫権は机に広げてある地図を

チラリと見てから、

俺の顔を見た。


「玄徳にはまだ言ってないんやろ」

「そうです。

道草中に俺が話してるだけです」


「2年っちゅーのはなんでや?」


俺は信玄に視線を送り、

後の説明をお願いした。

バトンを受けた軍師信玄が

前に出ながら話し始める。


「この2年間で天下の行末がほぼ決まるでしょう」

「どうなる?」


信玄が机の地図を指しながら答える。


「曹操の天命と樊城の戦いで

その先の決着が2つあると考えます」

「聞かせぇや」

「1つは、樊城で関羽が破れる結末。

孫呉が荊南、荊北は曹魏。

劉蜀は荊州を取り返そうとしてる間に

曹魏は曹操から曹丕へ世代交代が完成」


「もう1つは?」

「樊城で関羽が勝ち刑北制覇。

孫呉は合肥奇襲、豫州、徐州と制覇。

曹魏は混乱し鄴へ遷都。

後継者争いが勃発」


「ほう、

子明の意見は?」


「ハイッ!

どちらも孫呉は利になりヤス」


確かにそうだ。

孫呉は特にマイナスは無い。

ハイリスクハイリターンを取るか

ローリスクローリターンか


「なるほどのぉ……」


「孫権殿、

宜しいでしょうか?」


信玄が発言した。


「ええで」


信玄が持ってきた全体地図を広げ、

駒を十個並べた。


「現在の三国の戦力差は

魏が七、呉は二、蜀は一です」


駒の数をそれぞれ三国に配置した。


「玄ちゃんとこはたったの一個なん?」


香さんが質問する。


「残念ながら。

呉の二と、蜀の一を足しても三。

魏の半分以下です」

「なら樊城で勝ったらなんぼ?」

「魏が五、呉が三、蜀が二。

呉蜀を足して五。

やはり呉蜀同盟あって五分五分です。

更にその先勢いに乗って

呉が徐州から許昌まで抑えたら四

蜀が西涼長安までとれれば三

魏が三まで減って魏呉蜀が三四三

ようやく三国の争いができるかと思います」


呂蒙が質問する。


「三と四の違いは許昌と天子様ッスか?」

「そうです。

この一つが大きいです」


地図のど真ん中だけ

許昌の駒だけを白から赤に変えた。


「しかし、

仮に四になったとしても

残り2つの三三陣営が

組むでしょう。

「そんなんずっと駄目やん」

「その通りです。

なので樊城に勝った直後

五三二の時が好機です」

「内部崩壊っスね?」

「その通りです。

五の魏はちょうど曹操が死にます。

ここで後継者争いを誘発します。

袁紹や劉表のように

争えばあっという間につけ込めます」

「後継者は早い時期から決めて

盤石にしておかないと

国がバラバラになるッス」


勉強になるなぁ。

だから13歳の俺を太子にしたのか。

親父に長生きして貰って

太子の期間は長い方が良いって事ね。

孫権も後継者争いで

10年間くらいドロドロの二宮事件に

発展してたなぁ。

ちゃんと聞くんですよ孫権さん

呂蒙の有り難い助言を。


「五の魏が少しでも割れたら一気に

魏呉蜀はニ四四に持ち込めます」


「絵に描いた餅やな!」


孫権が饅頭に喰らい付いた。

ムシャムシャムシャムシャ

香さんも釣られてムシャムシャ

この辺は兄妹なのかよく似てる。


「その通りです。

まずは荊州問題です」


信玄が話を元に戻してくれた。


「2年間の不戦協定があれば、

荊州の国境沿いの兵を

全て曹魏に当てられます」


俺は呂蒙の目を見て話した。


「呂蒙殿。

貴方の軍略は関羽撃破に達している。

しかし関羽を失い呉蜀が争えば

魏の勝ちが確定してしまう」


「そうかもしれないし、

そうでないかもしれないっス」


呂蒙もジッと俺を見つめ返してる。


「どうかその軍略の才で

呉蜀二国を救ってほしい。

魏を倒す軍略を

一緒に編み出してほしい。

お願いします」


呂蒙は孫権の方を向く。

その時、わずかに扉が開いた。

部屋にすすっと密偵がきた。

孫権に耳打ちした。


孫権は呂蒙をまず見た。

呂蒙も力強く頷いた。


「子明、

お前の荊州作戦

没にしてまうわ。

堪忍な」

「大丈夫ッス!

新しくどデカいのを考えるっス」


「劉禅

于禁が降伏し、

魏から書状がきた。

お前の策に乗ったるわ!」



第三十三 「 門 」 つづく

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