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第三十一話「亡命」

俺は湯船から急ぎ出た。

入り口には大きな侍女さんが

槍を立てて守っていた。

大きな侍女に言って、

水の入った壺と杯と浴衣を用意してもらった。

屋根のある場所で2人は座っていた。

近づくと女性の泣き声が聞こえてきた。

侍女は急いで2人のそばへ行った。

俺はその場から静かに離れた。

大きな泣き声を背中に浴びながら。


しばらく経ってから

香さんの部屋に呼び出された。

部屋には香さんと銀ネェの2人。

浴衣のような格好で、

髪を乾かしていた。

全裸を見た後だけど、

湯上がりの女性もこれはこれで

とても美しい。


「謙信。

ありがとな。

来てくれて」


香さんは目尻を真っ赤にしてる。

銀ネェも目が真っ赤だ。


「香さん。

先ほどはごめんなさい」

「違うのよ謙信、

銀も。

もう大丈夫。

長い話になるけど聞いててくれる?」


「もちろんです」


「ウチね。

ずっと男に生まれたかった。」


香さんは部屋にも置いてある

弓を手でなでながら話し始めた。


「苦しかった。


ずっとずっと苦しかった。

イライラしてた。

策兄のように暴れたかった。

武功を立てたかった。

お茶や花、楽器には

何も興味ない。

狩りや弓、どつきあいが好きやってん。

血がたぎる争いが好きやねん。

喧嘩が大好きやねん。

戦場に出たかった。」


現代でいう所の

LGBTQの範囲になるのだろうか。

身体は女で生まれたけど、心は男。

性の不一致

ジェンダーギャップ

男女の格差

この時代では理解され辛い

とても生き辛いのだろう。

遺伝子の影響も強いのだろうか。

猛虎魂が宿っていそうだ。

阪神ファンだなきっと。


「ウチは江東の虎 孫堅の娘。

小覇王 孫策の妹

孫呉の3代目 孫権の妹

ハナから特別扱いや。


槍を振るうのも

戟を扱うのも大好きやった。

でも男達は良い勝負をしても

最後には必ず手を抜くの。

女だからって。

怪我させたら大変だから

顔には打ってこないの。

首を狙わないで何が勝負よ。

本気でどつきあいしてくれないの。

それがムカつくの。


そして女に負けるのは

面子に関わるから

大人の男は勝負すら避けられる。

『綺麗なお顔を傷つけては〜』

とか紳士ぶっちゃってさ。

真剣勝負してくれないのよ」


「わかる!

私も言われたことある。

一緒!

兄たちは最後に手を抜く」


銀ネェも香さんと同じ事で

悩んでいたのか。

全く解らなかった。


「お見合いの話はきたけど

私より弱い奴となんて

結婚したくなかった。

ウチ何もわかってない子供だったわ」


香さんよりも強い人なんて

限られちゃうんじゃないかな。


「17歳で玄ちゃんに会って

ウチ救われたの。

ウチのちっぽけな価値観なんて

一発で壊された。

本物の強さは

腕っぷしじゃないって

思い知らされたわ


35歳差なんて

全然気にならなかった!


これが王になる男だ

この人の子供が産みたい

英雄に育てたいって思ったわ」


父玄徳とはすぐに意気投合したのか。

良かった。

政略結婚だし、

親子ほどの年齢差。

色んな壁があるけど、

相性良かったんだね。


「子供は昔から大好きやった。

だって忖度しないんだもん。

本気で打ち込んでくるんだもん。

銀みたいにね」

「ねー」


楽しそうだ。


「阿斗も可愛かったわ。

将来、玄ちゃんみたいに

なるのかと思ったらもう

手を離すことが出来なかったの。

玄ちゃんはみんなの玄ちゃんだから

持って帰れないけど、

阿斗だけでも私は欲しかった。

気が付いたら誘拐みたいになって、

大騒ぎになっちゃってた。

あの時はごめんね。

勘弁したって」


「大丈夫です。

俺も香さんの事

大好きだったから」


たぶん。

その頃の記憶が俺にはない。

でもこんな綺麗なお姉さん

嫌いなはずがない。

胸も大きいし。


「ウチも玄ちゃんの子供産んで

策兄や関羽、趙雲みたいな

武人に育てるって思ってたわ

だけど3年くらいで呉に返された。

オカンが危篤だからって。

本気で心配して帰ってみたら嘘やったん。

許せなかった。

玄ちゃんとウチを引き離した」


そんな裏事情があったのか。


「呉に帰ってからは

玄ちゃんや関さんの悪口言う奴は

片っ端からノシてやったわ。

何も知らんで根性無しが!って。

そしたらもう腫れ物扱いよ。

だってここは孫呉やもんな。

『子さらいの香』って変なあだ名まで

つけられちゃってね。

前科モンや」


「酷い…」 銀ネェも怒ってる。


「ウチね。

何度も玄ちゃんとこへ

戻ろうと脱走してたのよ。

船や馬や人を使って。

玄ちゃんに会いたい

銀に会いたい

阿斗に会いたいって。

毎回連れ戻されるの。

10回以上捕まったわ」


「知らなかった…」 


銀ネェも俯いてる。

10回以上って、壮絶すぎる。

止める方も大変だっただろう。


「忖度ばかりする稽古には

嫌気がさしてた。

気を抜くと

玄ちゃん、銀、阿斗の事ばかり考えてしまうの。

それが嫌で心を無にしたい時には

弓に集中したの。

弓は忖度なんてせぇへん。

心に迷いが生じると必ずハズれる。

弓だけがウチの救いやった。

弦を弾いてる時だけは、

真っ直ぐでいられた」


心の安定剤だったのか。

それであんな達人レベルにまで。


「ウチの心は

もうほとんど死んでた。

ウチの住む世界やないみたいって。


いっそ戦場に出て大暴れしかった。

合肥攻めに参加して

張遼と戦いたかった。

弓で狙いたかった。

私なら当てる自信がある。


変装して志願兵に、

応募した事もあったん。

バレて連れ戻されたけど」


さすがの行動力すぎる。


「戦に出て全部薙ぎ倒して

忖度されずに殺し合いしたかった。

玄ちゃんと関さんの

悪口言う奴は全員ぶっ◯したかった。

武勲を立てて権兄の役に立ちたかった。

張飛のように

玄ちゃんを慕う民を守る武人になりたかった…」


香さんがあの場にいたら

本当に橋の上で仁王立ちしそうだ。


「そして戦死したかった」



「魯粛が居のう無ってからやろか。

孫権軍と劉備軍が

きな臭くなってきよった。

関羽を仕留める作戦を練ってる事を

侍女を使って探らせた。

何度か銀にだけでも知らせようと

隠れて手紙を送ったんよ」


「え!知らなかった」


「そらそうや。

全部バレてもうたから。

侍女の中にも内通者がたくさんいるの。

でも侍女からしたら、

ウチの方が内通やんか」


そりゃそうだ。

軍事作戦、

極秘作戦を知らせたら

死罪が普通だ。

機密漏洩即死刑。

孫権も陣中まで警戒しなきゃ

ならなかった。

ましてや妹。

妹を糾弾する家臣もいただろうに。

兄として妹を庇っていたんだろう。

それで孫権は妹に甘いと

噂が広まったって訳だ。


「関さんに何かあったら

銀に合わす顔がない。

もし玄ちゃんに何かあったら

ウチは生きていけない。

その時は死のうと考えてたの。

もうどん詰まりやったん。


暗い話ばっかで勘弁な」


香さんは弓を構えた。

弦を弾き俺に向かって射抜いた。

エアー射撃


「でもな

あの阿斗が

謙信が。


ウチの望んでた事全て

叶える言う…て…


玄ちゃんだって

ウチを将軍にするなんて

言ってくれんかった」


いつの間にか

香さんの目から涙が溢れ出した。


「ウチねホンマは

強くなんかないねん。

ほんまは泣き虫やねん。

1人で泣いてばっかやねん。

脱走して捕まって泣いて、

銀への手紙がバレて泣いて」


銀ネェが香さんを抱きしめる。


「阿斗に会いたくて会えなくて泣いて

男になれなくて泣いて

劉備軍の悪口聞いて泣いて

子さらい言われて泣いて

裏切り者呼ばりされて泣いて

ウチより弱い奴が

戦場行くの見て泣いて

泣きたく無いから弓を弾いて

真っ直ぐに心を保ってた」


銀ネェまでもう

ボロボロに泣いてる。


「でもそんな日々にはもう

オサラバや!」


香さんは顔を上げた。


「ウチがず〜っと夢見てた事

全部今日叶った!

謙信がウチを欲しい理由

全部受け取ったわ!」


香さんは立ち上がった。


「子供ぎょーさんつくる!

兄ちゃんにガツンと言うたる。

鬼将軍になる。

銀を天下無双に育てる

弓のコツ教える!」


鬼と天下無双までは言ってないよ。


「もう今この瞬間からウチは

劉備軍の家臣や!

権兄ちゃんには悪いけどええねん。

死んだように生きるのは

もう辞めや!」


心の枷が取れたからか、

香さんは晴れ晴れした笑顔になった。


「でも謙信

一つだけお願い。

孫家と殺し合いはしたくないねん。

ちゃんと武功は立てるけど…」

「わかってます。

香さんを前線に配置して

牽制役には利用させて貰います。

孫呉と劉蜀が争わない為に。

孫権は妹に手は出し辛いでしょうから。

直接、孫家と殺し合う事はさせませんよ」


「でも呉郡四姓とか、

面倒な頑固ジジイやったら

ガンガンいったるで!」


「わかってます。

香さんには曹魏や

異民族相手に

大暴れして貰いますからね」


「任しとき!

うぉおおおおおお!

やっと戦場に立てる。

戦える。

今までの鍛錬がやっと

陽の目を浴びる。

張遼を射抜ける!

シャーーー

タギってきたぜぇ!!」


それは甘寧のセリフでないの?

香姉様?


「そうだ香さん。

俺からお願いを

もう一つしてもいい?」


「6つ目かい?

いくつでもいいけど、

甘えん坊やねぇ。謙信は」


「お願いというか約束してほしい事なんだ。

これは銀ネェにも

ちゃんと守って欲しい事なんだ。」


「なぁに?」


涙を拭きながら銀ネェも応える。

ちょっと…


美人の涙目は反則ですよ。


「香と銀を武人として登用する。

命の保障は出来ない。」


「当たり前や!

死ぬ気で武勲を立てて

劉備軍に天下取らせるんや」


気炎万丈、血気盛んだ。


「うん。それは頼りにしてる。

でもね。

もしも敗れて敵に捕まった時は

潔く武人としての斬首は

絶対に望まないでください。

潔く投降してください」


「なんでや!

武人として負けたなら

潔く切られるのみ。

二君に仕えるなんて

マッピラごめんや」


「そうよ!忠義に反するわ!」


「そこです。香さん。銀ネェ」


「どうしてもダメな時だってあります。

勝敗は兵家の常。

親父なんて負けた方が多いかった。

そんな時は降伏してください。

必ず助け出します。

人質交換だって出来ます。

一度降伏したって

千里を越えて再び主君の元に

戻った義侠者だっています」


「父上の事ね!」


「そうです。

関羽の事です。

それだけじゃありませんよ。

信玄という軍師だって、

母親を盾に魏に無理矢理降伏させられた。

でも12年ぶりに今、

仲間になって

合肥攻略作戦を持って

帰ってきてくれました」


「12年!

そいつァは男の中の男やで」


信玄さん。

知らないところで

男気 上がってますよ。笑


「たとえどんな恥辱を受けようとも

生きてて欲しいのです。

女性の場合、

本当に酷い目に遭うかもしれない。

想像するだけで嫌なのですが。

それでも!

残酷かもしれませんが

最後の最後まで諦めないで下さい。

絶対に自ら死を選ばないで下さい。

生きてさえいれば又逢えます」


俺は2人の肩に手を置く


「香さんと銀ネェに

逢えなくなるのは嫌です。

そしたら泣きますよ俺。

2人に会えないと

めっちゃ泣きますからね」


「ふふ。根性無しなんだから、

謙信は」

「阿斗は昔から泣き虫やね」


「泣き虫阿斗は無能で有名なんですよ。

弓も槍も2人に今は敵いません」


「鍛えたる!」

「今はって言ったわね!特訓よ」


体育会系の鬼教官に火をつけてしまった。


「そしてここからは

劉備軍としての願いです。

捕まっても斬首は望まない。

これは敵将にも当てはまります。

捕縛した武人が斬首を望んでも

切らないで下さい。

牢にぶち込んで下さい。

俺が説得しますから」


「今みたいに?」

「人たらしや」


「名将は得がたい存在です。

国の宝です。

『人は多いけど名将は少ない。』

"淮南子(エナンシ)"の言葉です。

劉備軍の人材不足を舐めないで下さい。

優秀な人材は過労死するくらい足りません。

女性だって戦場に立たせる

鬼畜野郎なんですからね。

二代目は」


「ええよ。わかったわ」

「ふふふ。謙信らしい」


「戦場や一騎打ちでは、

全力で戦ってください。

斬り殺しても構いません。

捕まえようとして、

こちらが怪我したら

本末転倒ですから。

捕縛した時に限ります。

仮に逃げられても

それはそれで仕方ありません」


「遠慮なく暴れてええっ

ちゅーことやな」


「その通りです。

あと、銀ネェ」


俺はまっすぐ関銀屏を見た。


「なぁに?謙信」


「このお願い

自ら斬首を望まない。

敵将も斬首しない。

関羽にも言いました」


「父上はなんて?」


「斬首を望む敵将も

牢に繋いでくれる約束をしてくれました」


「父上が約束したなら、

私も誓うわ。

関銀屏は謙信の矛となり

強い子を産み

敵将もバンバン牢に入れてあげる。

片っ端から口説き落とすといいわ」


「ええ!強い子って」

「私だって謙信の子を産みたいもの。

父上からも謙信を一生護れって」


「ええてえええあえええええ!」


銀ネェと子供作り…

肩に置いてた手が震えて、

つい銀ネェの胸に手を置いてしまった。


バチィイイイン!


お手を平手打ちされた。


「まだ早いわよ!

ちゃんと父上に挨拶して

婚儀を済ませてからよ

このすけべっ!阿呆阿斗!」


「ハッハッハッ!

今すぐ作ればええやん。

ウチは外したるで」


「香姉様、何言ってるの!

ちゃんと順序を踏んで。

玄徳様とだってちゃんと婚礼の儀を

済ませたでしょ?」


「ハッハッハッ

玄ちゃんとなんて、会ってすぐやったで」


「もう!!」


「銀、やれるうちにやっとかないと

子供授からんで」


「お、終わったら!

樊城の戦いが終わってから!

父上が必死で戦ってるんだから今は」


「よし、

樊城終わったら

どっちが先できるか勝負やな」


「負けないわよ!」


「ウチは呂布みたいな弓の達人育てるで」


「私だって父上のような……

香さんは銀ネェをからかってるだけなのに、

銀ネェは反応しちゃうから

ますます盛り上がってる。

呂布はやめてよ香さん。

いくら強くても

裏切りそうだから。


でも

銀ネェの言う通り。

全ては関羽を救ってからだ。


銀ネェは本当に真っ直ぐで

可愛くて、

からかいガイがある。

香さんに遊ばれてる。


銀ネェは何か言われて

顔が真っ赤になってる。

色白な肌に

ほっぺが真っ赤になって

本当に可愛い。

銀ネェと子作りかぁ。


「私、着替えてくる!」


あっ、逃げ出した。

さすが香さん。

罵声、挑発レベルも高そうだ。

煽るの好きそうだもんなぁ。


香さんは


「謙信の1つ目の願いは

玄ちゃんと子作りやな

やるぞーー!!!!!」


天空の城でも見つけるのかな。


「はい。

たくさん弟や妹

作ってくださいね。」


「最強の一門衆が必要なんやろ?」


「はい。お願いします」


「なら玄ちゃんの後は

謙信ともたくさん子供作らな」


ほっぺにキスされた。


「今日、謙信に逢えなかったら

ウチの命は亡くなってた。

おおきに、ほんま助かりましたわ」


香さんも着替えに部屋を出て行った。

後ろ姿も本当に綺麗だ。


えええええええ!

孫尚香と劉禅!!?

親子丼……って逆の?

アリなの?

この時代

香さんは27歳の完熟トマト

玄徳と香さんは32歳差で、

香さんは俺の14個年上で…

夷陵の戦いは4年後だから…

えっ!!

銀ネェとは樊城が終わったら…

どっちが先にって…

あ、アタマが追いつかない……



江東の虎の血

肉食獣すぎますよ香さん…




第三十ニ話 「強襲」 つづく




三国志人物紹介

孫尚香 ソンショウコウ

27歳 生没年不詳

孫堅の娘。母は呉国太。孫策、孫権、孫翊、孫匡の異母妹。孫朗の実妹。武勇に優れ、「弓腰姫」とも。

三国志演義では209年、劉備を呉に囲い込むための策略で、劉備と結婚させられる。しかし、本人も母の呉国太も劉備を気に入り、劉備が荊州に帰還する際は付き従って、劉備を捕らえようとする呉将を退けた。212年、孫権から呉国太危篤との偽りの報を受け、劉禅を連れて呉に帰ろうとするが、劉禅は趙雲と張飛に連れ戻される。後に劉備が夷陵で戦死したと伝えられ、長江に身を投げた。

正史では呉に戻った後の記述はない。


統率67.武力80.知力57.政治56.魅力80.

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― 新着の感想 ―
孫尚香は真・三國無双というか、その前の1997年の三國無双の時から貂蝉と並んで最初の女性プレイアブル武将だったので、武将として使わないイメージが無かったな。 小喬、大喬、祝融、甄姫、月英、星彩。みん…
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