第三話「水稚魚の交わり」
夜に部屋で休んでいたら、
簡雍のおっちゃんに起こされた。
父の部屋に連れてってくれると言う。
途中で普段は父・劉備玄徳の事をなんて呼ぶのか。
どのように話しかければ良いのか。
簡単な作法も教えて貰った。
おっちゃんはちょくちょく茶化しながらも、
『大将にはこう言ったら喜ぶぜ』
と適切な助言をくれた。
おっちゃんも一緒なら頼もしい。
変な事を口走って、空気を悪くしても
笑い飛ばしてくれそうだ。
…
通された部屋には2人いた。
劉備玄徳と諸葛亮孔明その人だ。
お茶しながら作戦会議中みたいだ。
おっちゃんに教わった通りの言葉と作法で頭を下げた。
「父上、この度は漢中王即位、誠におめでとうございます」
ペコリ
「おおお!公嗣よ。
長い式典だったからお前も疲れたであろう?
何か甘いものでも食べるか?」
「いえ」
「頭うったって?大丈夫か?」
「少し記憶が曖昧ですが
身体は平気です。
父上こそお疲れのところ申し訳ありません」
「よいよい。どうした?
お前からわざわざ時間を作って欲しいなんて珍しいな。
んん?
孔明も一緒だが構わんよな」
「もちろんです」
「これから父ちゃん忙しくなるからな。
お前も正式な太子になったんだ。
しっかりとそばで見ておくんだぞ」
背の高い軍師孔明が礼をした。
「劉禅様、親子水入らずのところ邪魔してしまい申し訳ございません」
「いえいえ、こちらこそ
蜀漢の新しい門出の夜に
大事な時間をお邪魔してしまい
申し訳ございません。」
「お、おう?」
「おっちゃんもいますし、
孔明にも相談したいと思っていたのでちょうど良かったです。」
「「...」」
水魚が見つめ合っている。
諸葛亮の事を呼ぶ時は、
『孔明』と呼び捨てにしていると、おっちゃんに聞いた。
あの有名な天才軍師・諸葛亮を
コーメー呼びなんて気持ちが良い。
改めて考えるとすごい立場だ。
おそらく劉備と劉禅だけが孔明と呼んでいたのであろう。
おっちゃんといえば、
父の向こう側で勝手に部屋を漁ってる。
自由すぎるなぁ。
「公嗣、なんでも言ってごらん」
「ありがとうございます、父上。
ここのところ怖い夢を見ます。」
「夢?」
「何度も同じ夢です。
夢では関羽将軍が危機的状況になるんです。
漢中から荊州はあまりに遠い。
何かあった時にはすぐに駆けつけられません。
なにとぞ荊州へのご配慮をお願い申し上げます。」
「!?」 父は驚いて隣の孔明を見た。
「...」 孔明は無表情のまま。
「雲長か。うんうん。わかっておるぞ。
奴ならば大丈夫だ。
今も孔明とその話をしていた所なのだ。
明日には使者を出すところだったんだ。」
「そうなんですね。」
「お前が心配する事はないよ。
これまでオイラ達ァ
何度も激戦を共に乗り越えてきたんだ。
雲長の事は誰よりもわかっておる。」
「ですが父上、
私は何度も、何度も夢に見るのです。
天のお告げなのかなんなのか、
同じものばかりを!
関羽将軍は確かに万夫不当の豪傑です。
正々堂々と正面から戦えば関羽将軍に勝てるものなどいないでしょう。
しかし同盟国の呉が裏切って、
後ろから将軍を追い詰めるのです。」
「確かに孫権は油断のならない次男坊だ。
だからこそ一番大事なとこに雲長なんだ。
なぁ孔明、どう思う?」
「恐れながら申し上げます。
太子様の夢は天からのお告げがかもしれませぬ。
荊州には我が弟、馬良がおります。
私からも警戒を怠らぬよう手紙を送りましょう。」
しかしまだまだ甘い気がする。
「孔明ありがとう。
しかし、それだけでは足りないかもしれない。
もしも、もしもですよ。
天の知らせか何か分かりませんが、
夢のまんま呉が裏切って
関羽将軍を亡き者とした場合、
父はどうされるおつもりなのですか?」
「公嗣!!」
「ッ。」
「たとえ我が子であっても雲長がやられるなどと口にするなっ!」
「も、申し訳ございません」
小さくなって頭を下げた。
こ、怖い。
「大将〜。
雲長がやられちまったらどうすんだい?
アッシも知りたいねぇ」
おっちゃんが助け舟を出してくれた。さすがおっちゃん。ナイスアシスト♪
「漢中王になった途端
縁起でもねえ事いうな」
玄徳は不機嫌になった。
「恐れながらわが君
進言申し上げます。
太子様は国を大事に想ってのこと、
家臣を思ってこその心配はごもっともです。」
孔明先生も乗っかってくれた。
良いかな、良いかな。
もっと言って!
「孫権の立場に立てって考えれば、
充分に選びうる選択肢の一つにございます。
合肥・濡須口には張遼もおり
孫呉は手痛い敗戦が続いてます。
そんな孫権にとって
徐州豫州よりも荊州奪還を優先するかもしれません。
仮に孫権が曹操と裏で手を組み、
奇襲をかけ関羽将軍を討ち取った場合、殿はどうなされますか?」
「孔明まで、むむむむ。
…
ん〜。
…
想像したくもねぇが、考えただけでハラワタが煮えくり返ってきたぞ。雲長の仇を取るに決まっておろう」
「孫呉に侵攻すると?」
「当たり前だ!」
「父上、それでは天下三分の計が成り立ちません。
孫権が争えば曹操が利するだけです。」
「そんな事は知ったことか!
私と雲長益徳は同じ日に死ぬと誓った仲だ。我ら一人でも亡き者とした者は誰であろうと許しはしない!」
父は酒を仰ぎながら強い口調で断言した。
孔明といえば、目を閉じて反論も同調もしない。
おっちゃんは何か勝手に飲んでる。
予想通りの答えだ。
俺はチャンスと思い、
畳み掛けるなら今だ。
「劉三兄弟の絆は何よりも強い。
だからこそ
だからこそ今この時が
漢王室復興の鍵となります。
天下分け目の大一番です」
「なに?」
「関羽張飛が居なければ我が劉備軍の命運は尽きる。
今こそ全力で荊州を守るべきであります。
軍が動かせないのであれば、
せめて私を荊州に行かせてください!!』
「お前がか!?」
もう勢いだここは。なるようになれ!
「はい。
漢中を取ったばかりで、
まだ軍が動かせないのも充分承知しております。
私であれば戦力が下がる事もないでしょう。
私はいてもたってもいられないのです。
毎晩のように関羽将軍が追い詰められる悪夢を見てうなされるのはもう沢山です。
まだまともに剣も振れませんが、
関羽殿に、雲長おじさんに孫権を充分に警戒して欲しいと言いたいのです。
私にも何かさせてください。
成都でじっと待ってて悲報を聞くのは嫌なのです。」
パンっと劉備は自分の膝を叩いた。
「よく言った公嗣よ!
そこまで考えていたとは!
雲長にも久しく会えてない。
奴は結構頑固もんだ。
お前の顔を見れば喜ぶだろう
明日、荊州の使者にお前を同行させようか孔明。どう思う」
「良い策と思います。」
劉備は後ろを振り返って簡雍を探す。
「憲和(簡雍の字)、おいケンカ
お前も公嗣に着いてってやってくれ。」
「アッシも!?やだよ面倒臭ぇ」
「俺の代わりに雲長と会って発破かけてこい。
っておいおめぇ!
そりゃ孫権から届いたばっかの最上級の酒だぞ!
勝手に飲みやがって!!」
「道理で美味いわけだ。ヒック」
「あああぁああ
全部飲みやがってこのク◯野郎!!
ぶっ◯す。
漢中王の名において◯刑に処す。」
劉備と簡雍は追いかけっこを始めだした。
「良いじゃねぇか。また貰えばよぉ。
いくらでも呑めんだろ漢中王様はよぉ。」
「うるせぇ憲和!
てめぇはどんだけ俺の酒を飲んできたと思ってるんだ。
今日という今日は」
「天下の大徳様は、なぁんてお優しいお人なんだぁ。
アッシのような下っ端までお酒を奢ってくださる。」
「うるせぇ!お前だけはゆるさねぇ。憲和、自害しろ」
いい年したオッサンの胸ぐら掴んで
喧嘩してるよ。
俺はつい笑っちまった。
「仲が良いですねぇ。」
孔明は優しく答えてくれた。
「全くです。
同年代の友は欠けがいの無い存在です。
もしかしたら劉備四兄弟だったのかもしれませんね。」
「桃園の誓いの時、
あのおっちゃんは何してたんですかね?
まったく」
「太子様、改めましてこの孔明、感服いたしました。
悪夢の話にする事で不安を煽り、
ご自身の望む結果に誘導する交渉術。
素晴らしい策でございます。」
「えっ、あ、いやぁ」
全部バレてましたー。
「明日からは荊州への長い旅路。
しばらくは馬車泊となります。
今夜ばかりは自室でゆっくりとお休みになってください。
孔明が全て準備しておきます。
あの2人はいつもの事なのでお任せください。」
「ありがとう孔明。また相談させてください。ではお言葉に甘えて、おやすみなさい。」
俺は2人の追いかけっこを邪魔しないように、
部屋からそっと1人退出した。
勢いでついつい、
荊州に行きたい!
と口走ってしまた。
結果的に良かったかもしれない。
難易度マックスの
関羽救出作戦
まずは1stミッション!
コンプリートかな
ワクワクしてスキップしながら自室へと戻った。
.
..
...
部屋に残った3人はさらに盛り上がっていた。
「ハァ、ハァ、、、グビッ。
ったくよぉ〜。
孔明、憲和、驚いたな!
俺たちがいつも心配していた通りの話をしてたな。
ゼェハァ
孔明に並ぶ天才かもしれんぞ!」
「おっしゃる通りです。
私など足元にも及びません。
齢13にしてあの話し方。
まるで見てきたかのような先見の明。
感服いたしました。」
「だよなぁ。すっ転んだ時は冷や汗ものだったが、
正式に太子と発表した瞬間にアレだよ。
今まで阿呆のフリをしていたんじゃないか?
親バカと言うかもしれんが、
今夜の奴の目は違っていた。
譲れない覚悟の目だ。
今が天下分け目の大一番って言いやがった。
あそこまでぐるっと見渡して
雲長の事を思っていたとは。
嬉しいネェ!
こいつは目出度い。
もっかい乾杯すんぞ。」
「一杯だけお供致します。
太子様が同行されるのであれば、
それなりに準備も必要となりますので。」
「そうだよな。いつも済まないな孔明。」
「とんでもございません。」
「憲和も頼んだぜ。もう引退したいなんてほざいてたが、高い酒飲んだんだから働いてもらうぞ。最後のご奉公として公嗣に色々と教えてやってくれ」
「しゃあねぇなぁ。
アッシも行くとすっか。
雲長の顔見んのも久し振りや」
「そんじゃ漢王室復興、
そして公嗣と雲長の無事再会を願って」
『『『乾杯』』』
第四話 旅の始まり つづく
三国志人物紹介③
劉備リュウビ 字は玄徳ゲントク
59歳 幽州涿郡出身 生161〜223年没
漢の中山靖王・劉勝の子孫。蜀の昭烈皇帝。劉禅の父。
三国志演義では桃園の誓いで関羽、張飛と義兄弟となり、黄巾賊や董卓の討伐戦で活躍。徐州牧・陶謙から請われ地位を譲り受けるが、呂布に奪われ曹操を頼った。献帝から皇叔の呼び名を賜り、曹操暗殺計画に参画するも露見。袁紹や劉表を頼って落ち延びた。三顧の礼で諸葛亮を迎えた後は、荊州益州を支配する一大勢力圏を築く。曹操から漢中を奪って漢中王となり、221年には蜀を建国。関羽の仇討ちのため呉を攻めるが、陸遜に大敗し病死した。
正史では書より狩猟音楽を好み、身だしなみを整えていた。
統率76.武力73.知力74.政治78.魅力99.
主人公の父親。一人称はオイラ
荒くれ者を束ねる任侠の親分気質。
各地を渡り歩く傭兵隊長。
趨靖、公孫瓚、陶謙、呂布、曹操、袁紹、劉表、劉章らに
一時的に身を寄せていた。




