第二十七話「何もしてない」
「関羽を守りたいからここに来た」
俺は孫権の青い目を見て
ハッキリと断言した。
関羽救出作戦は
ここからが本番だ。
「なんやワレ、
ワシが関羽をイジメてるとでも
言いたいんか?」
「そうではありません」
「関羽が縁談話
蹴ったんやで。
散々コケにしおってからに
あの髭野郎」
今までの談笑ムードと違って
一気に険悪な空気に変わった。
「その事で直接
お詫びしたいと思って
ここに来ました」
「詫び?何やそれ」
俺は姿勢を整えた。
「この度は、
我が軍の関羽が
失礼な言動で
不快な想いをさせてしまい
誠に申し訳ございませんでした」
俺は頭を深々下げた。
「何で自分が謝んねん。
お前は何もしてないやろ」
「何もしてないのが嫌なんです」
「あん?」
「ボーッと生きてて
何もしないうちに
大切な家族が居なくなるのは
もう嫌なんです」
「うむ」
「関羽は親父同然。
関羽の言動は父玄徳の言動。
我々は孫権と争う気はありません」
「だから息子と結婚させよ
言うたのに
断ってきたんはそっちやで」
「おっしゃる通りです。
しかし関羽が断った理由は
2つあります」
「何やねん」
「1つは、
関羽が天下一の義侠心の持ち主だからです」
「…」
「同盟は君主同士で結ぶもの。
玄徳を通さないのは
関羽の仁義、道理に反する。
だから関羽は怒ったのです」
「ほう、筋を通せってか」
「はい。
兄を無視して勝手に話を進めれば
忠義に反すると考えるのが関羽です」
「ふん。
それでもう一っこは何や?」
「酒です」
「酒?」
「諸葛瑾殿が来た前の晩です。
関羽と一緒に遅くまで
盛り上がってました。
俺はさすがに先寝ちゃったけど、
関羽ともう一人の古株は
朝まで飲み明かしてました」
「二日酔いって事か」
「はい。関羽は言ってました。
『こんなに愉快な夜は
久方ぶりだ。』
ってガンガン呑んでました」
「酒かぁ。
そらぁあるわなぁ」
「荊州は三つ巴の要所。
関羽は8年間
一人で踏ん張ってくれてます。
気を抜ける瞬間が
少なかったのでしょう。
私達の責任です」
「酒での失態はワシにも山程ある」
「大人なら当然の事」
「しかし、
家臣をそこまで泥酔させたことはないねん」
孫権は部屋から庭を見下ろす。
「ワシが酔い潰れる事はあったがな。
…」
「美周郎(周瑜)と美味しい酒を飲み明かしてたのでは?」
「公瑾か…。
懐かしい…。
アイツと飲むと可笑しいんやで。
しこたま呑ませても、
他人の演奏が間違えてると
ピクって眉毛が反応するんや」
「え?気付くものなんですか」
「だから演奏者はビビりまくってんねん」
「見てみたかったですね」
「やろ?そう思うやろ!
だからアイツと飲む時に
ワザと
下手な奏者呼んだ時あってん」
「そしたら?」
「ピクピク祭りで顔真っ赤になったわ。
終いには貸せ!ってなって
自分で弾きよったわ。
それがまた上手くてなぁ」
「さすが美周郎。
多才だったんだすね…」
孫権はそんな話をしてたら
飲みたくなったのか、
酒器に酒を注いだ。
俺はお茶で。
「10年くらい経つかのぉ…」
「美周郎はどんな方だったんですか?」
「ワシにとって兄のような存在やった。
よぉ説教されたわ…」
…
……
………
周瑜の話でしばらく盛り上がった。
周瑜から大きな屋敷を貰って、
皆で家族のように暮らした幼少期
同い年の孫策と義兄弟
美人姉妹の嫁入り
兄孫策の小覇王時代
突然の死と孫権後継
反乱多発、
山越異民族問題
父孫堅の仇だった黄祖を撃破
赤壁の戦い
天下二分構想…
孫権陣営も
劉備玄徳に並ぶほど波瀾万丈だ。
周瑜の話はそのまま
孫家の話だった。
孫権も酒が乗ってきたのか
話が止まらない。
「美周郎は蜀攻めを考えてらしたんですか?」
「そうや。
蜀を取った後もな。
馬超と組んで長安を攻め。
関羽張飛を率いて襄陽から北上し、
ワシが合肥を攻略する。
3箇所から同時攻めで
曹操を倒す大計やった」
「そんなところまで…」
おそるべし周瑜。
210年に享年36歳の若さで他界。
潼関の戦いの前年だった。
馬超が実際に曹操を攻めたから
そのタイミングで
荊州から劉備軍
揚州から孫権軍が連携してたら
どうなってただろう?
周瑜は益州攻略に向かう
陣中で亡くなったらしい。
周瑜が長生きしてたら、
劉備の漢中王は無かったかもしれない。
英雄は時に神懸かり的な好機に恵まれる。
秀吉や信長の様に。
上杉謙信と武田信玄が
亡くなったタイミングが
ドンピシャ過ぎて
ラッキーだった織田信長のようだ。
周瑜がその頃の情勢で
ここまでの大計を練っていたとは。
驚きと尊敬を隠せない。
その周瑜が晩年に戦っていた相手が
曹仁だ。
樊城で今まさに関羽と戦っている。
しかしその大計に
今こそ乗っかろう。
「それやりましょう」
「あぁん?」
「うちらで今、
曹操やっちゃいません?」
「何やて?」
「曹操を倒す絶好の機会
いや、
最後の好機が来てます」
「最後って何やねん」
「奴の寿命はあと半年です。
ほっといても正月には亡くなります。
しかし、
曹操を戦場で直接倒せば
天下がひっくり返ります」
世界をひっくり返そうぜ!
ワンピース級に
Youも海賊王になっちゃいなよ孫権。
たたみかけるぞ。
甘寧の様にたぎってきたぜ〜
「このまま曹操に勝ち逃げなんて
させていいんスか?
奴は頭痛でクタばる寸前の
ヨボヨボジジイですよ。
江東の虎・孫堅殿と
我が父流浪の劉備が
ずっと争ってきた乱世の奸雄。
奴はきっとまた
前線に出しゃばってくるでしょう」
「たしかに。
奴はウザい出しゃばり野郎だ」
「美周郎が描いてた
馬超は漢中にいます。
関羽が襄陽を攻めてます。
そして合肥攻略の策を
我が軍師が持ってきました」
「曹操やっちゃいましょうよ。
赤壁みたいに」
「ワレ
こうやって関羽を酔わせたんかい」
「はい!
夢を語りました。
時間を忘れる程に」
「生意気なクソガキじゃ」
孫権は立ち上がって
俺の肩を叩かれた。
「ほな、軍師を交えて
合肥攻略の策とやらを聞いたろか」
「はい!
お願いします」
孫権と共に部屋を出た。
第二十八 「埋伏の毒」 つづく




