第二十五話「護衛」
「もうすぐ建業ね!」
銀ネェ(関銀屏)が声をかけてきた。
甲板で考え事していた俺の隣に立つ。
「そろそろ城が見えるって」
「ねぇ謙信。一つお願いがあるの」
「どしたん?」
「香姉様に会いたい」
「香姉様?」
「孫尚香姉様よ!
覚えてるでしょ?」
「うん、もちろん…」
「香姉様は私の憧れなの。
武芸もすごいし
弓も達者よ。
昔、稽古つけてもらった事もあるのよ」
「ああ、香さんね。
元気にしてるかな??」
孫尚香
孫権の妹で玄徳と政略結婚した。
しかし父が益州入りした頃、
呉に返されちゃったはず。
凄い歳の差婚で子供はいなかった。
女性の護衛隊も沢山いて
玄徳もビビりまくってたとか。
「何年振りになるんだろう?」
「7年よ。
あの時は泣いたわ
ずっと一緒に居たかったのに」
「綺麗な人だったよね」
記憶にはないけど、
話の流れに合わせてみた。
「ますます綺麗になってると思う。
それにね。
あの人は泣かなかったの。
私はずっと泣いてたけど、
政略結婚で来る時も不安だったはず。
玄徳様と仲睦まじかったのに…。
周りの都合で離れ離れにされて。
文句言わず笑いながら
堂々と帰って行ったのよ。
心が強いの。
色んな事が起きても動じない。
ずっと笑顔だった。
あんな強い人に私もなりたい」
「今の銀ネェなら
勝てるんじゃない?」
「ふふ!
剣だって心だって追い付いて見せるわ」
銀ネェの目も真っ直ぐだ。
俺も孫尚香に会ってみたい。
「あっ!そうだ。銀ネェ
孫権には会わないようにね。
香さんの兄上だから」
「なぁに、どうして?」
「いや、ほら、気に入られちゃうと
ね、
ほら」
「なになに〜?
ネェ、ちゃんと言ってくれないと
解らないなぁ〜」
全くこの人は、
ドSなんだから。
「いわゆる〜その〜
ひとつのですね…」
俺は目を泳がせてると
良い逃げ道を発見伝。
「あ、麋商人〜」
「もうっ!」
「これはこれはお二人方。
もうすぐ建業の城が見えますよ」
ちょうど良かった。
麋商人にお礼がしたかった。
それに聞きたい事もあったんだ。
「麋商人。
この度は度重なるご協力
感謝してます」
「いえいえ、
こちらこそ
今後とも御贔屓に、
我が商会を宜しくお願いいたします」
麋商人は麋竺、麋芳のいとこだ。
この時代の商人は
非常に身分が低い。
儒教的な考え方が影響してるらしい。
「こちらこそ金と物
そして人の流れは
何よりも大事だと思います。
末永く良い信頼関係でいたいです」
「謙信殿にそう言って頂けると
光栄です。
困った時は何でもご相談ください」
「では早速なのですが、
海外へも商売で行かれるのですか?」
「はい。楽浪郡や帯方郡との交易も行っております」
楽浪郡と帯方郡は朝鮮半島だったかな。
北平の先
公孫度とか、魏の端っこ。
「おおおお。
それでは、
もっと東の島国とはどうですか」
「島国…ですか?」
「倭国、倭の国とかはご存知ありませんか?」
「ワ…。存じ上げません」
そうか。
この時代はまだかな。
「卑弥呼とかも
聞いた事ありませんか?」
「ヒミコ?ごめんなさい」
「そうですか…」
「確か帯方郡の先には
小さな国があるそうです。
南端には伽耶という国と
鉄の交易があると聞いた事があります」
「カヤ…。聞いたことあります。
もしも良かったら
そのうち半島交易の際に
私も同行させてくれたら
嬉しいです」
「何か心当たりがありそうですね。
儲け話ならば
協力させてください」
「そうですね。
機会があれば是非」
麋商人と挨拶して
再び銀ネェと2人になった。
「ワの国ってなぁに?」
「う〜ん。
東の果てに不思議な島国があるって
聞いた事あるんだ。
そこでは女王様が支配してるってね」
「へぇえ〜!面白そう
私も行ってみたい」
「そうだなぁ。
天下泰平になって
落ち着いたら
行ってみたいね」
「異民族の島って事は
護衛が必要よね。
謙信は根性無しだから」
「そうだね。
俺はビビリだから。
その時は銀ネェお願いします」
「仕方ないわね」
「日の出づる国
東の果てに冒険の旅へ、
いざゆかん!ってね」
たしか
239年の魏志倭人伝に
卑弥呼が初めて出てきたはず。
邪馬台国がどこにあったのか。
日本がこの頃どうだったのか
俺、気になります!
劉備軍が天下を治めたら
蜀志倭人伝に漢倭那国王
とかって
印璽も出しちゃうのかな?
それはそれで見てみたい。
卑弥呼っているのかな。
近づいてきた建業の城を見ながら
そんな妄想で心が躍っていた。
第二十六話「十代」 つづく




