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第十七話「船」

江陵の城を旅立つことになった。


まずは馬良に念を押しに行く。

今は建安二十四年七月下旬。


月末には関羽が出陣する。

八月に入れば長雨で漢水が氾濫し、

樊城周辺も水浸しになるはずだ。

船の用意と兵糧の確保が必要になる。

関羽に直接言っても、

軍事に関しては口出しできない。

ならば周囲のフォローを強化するしかない。


樊城攻撃部隊には息子の関平、

家臣の趙累、王甫、廖化らが従軍する。

馬良から彼らへ、

長雨への備え、船の準備、兵糧の確保について伝えてもらった。

さらに江陵と公安の後方部隊も、

しっかり固めるよう頼んでおく。

関羽には思う存分、大暴れしてもらうためだ。


次は情報把握。

紹先の諜報部隊との打ち合わせである。

頭領である叔父さんには江陵に残ってもらう。

情報の集約役と司令役だ。

関羽軍への従軍班を一つ。

最新の戦況把握を担当。

呉の呂蒙と陸遜の監視班を一つ。

魏の張遼の動向監視班を一つ。

荊州の麋芳、士仁の監視班を一つ。

さらに父上と孔明への連絡班を一つ。

俺が徐州と建業へ向かうこと、

そして桃園で花見をする約束を書いた手紙を託した。

馬良の手紙も一緒に送ってもらう。


そして諜報部隊の中から三名、

俺たちに同行してもらうことにした。

何かあれば即座に連絡役として動いてもらうためだ。


使者の費詩先生ともここでお別れだった。

漢中から護衛についてきた兵士の中で、

最も経験豊富な隊長が引き続き護衛を担当してくれる。

呉の諸葛瑾には、

建業へ入る際の免罪符ももらった。


そして最後は麋芳将軍だ。

くれぐれも兵站任務には細心の注意を払うようお願いした。

さすが豪商一族。

すぐに船を手配してくれた。

さらに麋竺と麋芳の親戚にあたる商人を紹介してもらう。

彼が徐州まで案内してくれるらしい。

俺たちは商人用の白い服をまとい、

その商人の部下という形で旅をすることになった。


俺たちのパーティーは――

【子供組】

勇者・十三歳 玉ねぎ謙信

義弟・十二歳 紹先 見習い戦士

銀姉・十七歳 関銀屏 武闘家

【大人組】

相談役・五十四歳 簡雍 遊び人

案内人・三十歳 麋商人 商人

護衛・四十九歳 漢中兵 熟練戦士

大人三人、子供三人の六人パーティーだ。

むむむ。

魔法使いポジションの軍師がいない。

これは苦戦しそうである。

もっとも、おっちゃんと麋商人が頼れる大人だから、

なんとかなるだろう。



最後に関羽将軍へ挨拶した。


「漢将軍! ご武運を!」


「ふむ。銀を頼むぞ」


「父上! 私が謙信を守るんだからね!」


「そうだ。決して離れるな」


「はい!」


「関将軍。

樊城を落とす頃には戻って参ります。

どうか私にも説得する機会を残しておいてください」


「ふふん。強欲な奴だ」


「半年後のお花見、楽しみにしてます」


「ふむ」


「えっ!? 春にお花見やるの!?」


銀ネェも乗り気になった。


「では、行って参ります」



俺たちは江陵を出ると、すぐ船に乗った。

かなり立派な船で、

商品も大量に積まれている。

甲板へ出ると、

銀姉が大きく伸びをした。


「気持ちいいー!!

ねぇ謙信、

天下を見に行くって言ってたけど、

どこへ行くの?」


「まずは魏だ。

どうしても会いたい人がいる」


「男?」


「そうだ。絶対に仲間にしたい人だ。

そのためにおっちゃんにも来てもらった」


「ヒャッヒャッヒャッ!

徐州なんて久しぶりだなぁ。

二十年前だったかな。

曹操にやられて、

みんなバラバラに逃げ回ってたんだぜ」


「よくアンタ生きてたわね!」


銀ネェの容赦ないツッコミが飛ぶ。

この二人は昔から顔なじみらしい。

銀のオシメも替えてやったんだぜ――

などとおっちゃんが言った瞬間、

銀姉がボコボコに殴っていた。


「大将は逃げ足だけは速かったからなぁ。

付いていくのに必死だったぜ」


本当によく生き残ったと思う。

幽州から徐州へ。

徐州から荊州へ。

そして益州、漢中へ。

長い旅路だった。

漢中王を名乗ったことで、

今、劉備軍には大きな追い風が吹いている。

だが、それまでは敗北の連続だった。

徐州では家臣も家族も散り散りになった。

長坂では趙雲の一騎駆けがなければ、

俺も死んでいた。


あれから十一年。

定軍山でついに夏侯淵を討ち取った。

曹操軍相手の歴史的大勝利である。


四百年前。

漢の高祖・劉邦が項羽を倒し、

天下統一への道を開いたのも漢中だった。

そして今、

同じ劉姓を持つ劉玄徳が漢中王を名乗った。

劉邦の再来か――。

人々の期待は高まるばかりだ。

そんなことを考えながら、

俺はぼんやりと川面を眺めていた。



船旅では銀ネェが大活躍だった。

俺たちは船酔いでダウンしたが、

銀姉だけはケロッとしている。


「根性なしだなぁ、お前たちは」


そう言いながらも、

俺に膝枕をしてくれた。

おおおおおお!!

だが見上げても、

胸に遮られて半分顔が見えない。

眼福である。

顎をぷにぷに触られながら、

俺は完全にされるがままだった。

気持ち悪い。

でも気持ちいい。

そんな不思議な感覚に包まれながら、

意識が遠のいていった――。

水路と陸路を使い分け、

ニ週間ほどで徐州へ到着した。

麋商人の案内で、

俺たちは大きな屋敷へ泊めてもらう。

さすが麋一族。

その財力は伊達じゃない。


翌朝。

俺とおっちゃんは、

とある屋敷の前に立っていた。

この人を口説き落とすために、

わざわざ徐州まで来たのだ。

玄関の前で深呼吸する。

そして――

コンコン。

静かに扉を叩いた。



第十八話「賢人」へ続く

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