第十五話「商人」
「麋芳将軍、士仁将軍
ずっとお会いしたいと思っておりました!」
「若様。
勿体なきお言葉
身に余る光栄です。」
「有難き幸せッス」
諸葛瑾と会った後、
馬良が俺と両将軍を合わせる場を設けてくれた。
馬良が劉備の子
太子の劉禅だと明かした瞬間に
彼らは膝をついた。
「さぁさぁ、楽にしてください。
軍議の後で
お疲れのところ
申し訳ございません。」
「失礼します。」
「ッス」
2人を椅子にかけて貰った。
「荊州の最前線をお守り頂き
誠にありがとうございます。
日頃の働きに僅かながらですが、
お気持ちをお受け取りください。」
まずはプレゼント作戦。
前もって馬良に用意して貰っておいた。
「こんなにも!見に余る光栄ッス」
ご褒美先渡し作戦。
士仁には効果抜群のようだった。
目が釘付けになっている。
よしよし少しでも成功率を上げたい。
大富豪の麋芳にはそれほどの
反応を見せなかった。
そして更に畳み掛ける。
「どうか配下の方達にも
こちらで用意した酒を振る舞ってください。」
「ありがとうございます。
部下達も喜びます。」
「戦が始まるので
早めに振る舞ってください。
戦が始まれば忙しくなると思いますので」
何よりも配下の皆さんに
ビシバシ働いて貰わねばならない。
「関羽は個性が強いですからね。
色々と振り回されて大変でしょう。」
「いえ、関都督は稀代の豪傑。
曹魏と孫呉に睨みを効かせられるのは都督だけです。」
「そうッス」
2人は少し動揺している。
「関羽は真っ直ぐな武人。
非常に頑固で、
独断専行、
強引な側面もあるでしょう。」
「まあ、時には…」
「関羽の尊大すぎる性格や
物言いについては
父も私も心を悩ませてるところなのです。」
「そんな若君まで」
「2人にはいつも辛い思いをさせて
申し訳なく思っております。」
「いえいえ。」「そんなッス」
「この大戦が終わった後は、
大きな報酬と官職、
そして配置転換も
父に提案したいと考えてます。
どうか漢中王軍に
力をお貸しください。」
「勿論でございます。」
「当然ッス」
「関将軍にはこの作戦を伝えてません。
大いに暴れていただく為です。
両将軍にばかり負担がかかると思いますが〜
…
……」
関羽救出作戦の要。
というか、
関羽を失う要因となった2人には、
まずはヨイショでご機嫌を取る作戦にした。
呉へ簡単に降らせないために。
劉備軍全体を救うキーマンだ。
2人とも体育会系っぽい。
麋芳将軍は背が高い。
陸上部の鬼監督のようだ。
◯リーちゃんのパパのようなちょび髭。
大きくて髭も生やしててかなり怖い。
昔よく殴られた体育教師を思い出す。
ブルブルブル。
生活指導の主任担当で
生徒をビビらす鬼先生みたいだ。
威嚇、脅し係みたいな。
初対面には怖い。
もう一方の士仁将軍。
麋芳よりも若い。
柔道部の顧問って感じで
ズングリむっくりのクマ体型。
口数は少ない。
なぜか語尾にッスと付いてる。
昔はオリンピック代表候補に
選ばれてそうな猛者だ。
この人も裏切るのかな?
外見に反して心は繊細なのかな。
2人とも体育会系っぽい。
そのトップがあの関羽だからなぁ。
三国一のパワハラ上司。
関羽は都督だし、
部下への処罰権も与えられたから
そりゃ怖いわ。
2人は基本的に上の指示には従いそうだ。
でもだいぶ不満は溜まってそうである。
可哀想に。
次は2人だけに特別扱い作戦だ。
「実は父と孔明から
2人にだけ
密命を伝えに来ました。」
「なんと!」
「これは関羽にも
知らせて無い作戦です。」
「関将軍にも…。」
2人は顔を見合わせる。
「よく聞いてください
麋芳将軍、士仁将軍。
樊城攻めには
孔明の策で内通者がおります。
開戦まもなく
三万の降伏兵が加わります。」
「三万も!」「驚きッス」
「左様です。
その為にも兵站がこの戦のカギとなるのです。
そしてその任務を遂行できるのは
お二人の他におりません。」
頼ってばかりで申し訳ございません。」
「私達にお任せください!若君。」
「何でも頼ってくださいッス」
馬良がさらに加わってくれた。
「さらに孫呉が兵站を邪魔しようとしてます。
火を放つ工作班が暗躍してると
情報を掴みました。
充分に警備を強化してください。」
「承知致しました。」
馬良が具体的な兵站強化と火事対策などを両将軍と打ち合わせしてくれた。
「2人は漢王室復興のための大事な柱。
私を長く支えてくれますか?」
「勿論でございます。」
「何かありましたら、
すぐに私に伝えてください。
私の直属の者を2人につけます。
何でも言ってください。
関羽が理不尽な事を言った場合でも、何でも構いません。
将軍らの声はすぐに聞ける太子でありたいのです。」
監視役と連絡係として
紹先の諜報部隊から
1人ずつつけた。
両将軍のすぐそばに張り付く。
そして
裏でもう1人、
監視役との連絡係も配置してある。
将軍が部屋から退出する際に
商人について聞きたい事があるからと
麋芳将軍には残ってもらった。
「麋芳将軍、
残っていただきありがとうございます。
父・玄徳から
いつも聞かされておりました。
我らがいるのは麋兄弟のお陰だと。」
「王がそんなに私達の事を。」
「はい。
徐州にいた頃からずっと私たちに尽くしてくれたと。
徐州を失った後も
安定した曹操配下の地位を捨て、
我らの元に来てくれました。」
「はい。
兄も私も玄徳様こそが
主であると同じ道を選びました。」
「麋夫人が居なければ私も
こうして生きていませんでした。
「妹を誇りに思っております。」
「ずっとお礼を伝えたいと思っておりました。
私たちがここまで生き延びてこれたのも
麋一族のお陰です。」
俺は両手でガッチリ握手した。
「若様。
なんでもこの麋芳に言ってください。
我ら麋一族がずっとお支えいたします。」
「ありがとうございます麋芳将軍。
お言葉に甘えて
もう一つお願いしたい事があります。」
「なんでもおっしゃってください。」
「実はこれから徐州に潜入したいと考えております。
どうしても果たしたい極秘任務がありまして、お力を貸してもらえませんか?」
「勿論です。
徐州でしたら、
我が一族が昔から商売をさせていただいてます。
ずっと使っている親族の1人が私の元におります。
甥っ子の商船に乗れば、徐州に潜入できます。」
「ありがとうございます麋芳将軍。
なんて頼もしい存在なのでしよう。
あなたに相談してよかった。
できるだけ早く立ちたいのですが…。」
「解りました。
お任せください若君。
明日には出立できるよう
手配いたします」
「ありがとうございます。
麋芳将軍。」
その後も馬良と打ち合わせして、
何とか樊城の戦い前に打てる手は
打てたと思う。
俺はウキウキ気分で廊下を歩く。
関羽に会って
徐州行きと孫権に会いに行く事を伝えないと。
廊下を歩いてると突然後ろから。
「おい!阿斗!」
第十六話「修練」 つづく
三国志人物紹介
麋芳ビホウ 字を子方シホウ
51歳 徐州東海県朐県 生没年不詳
糜竺の弟。兄と共に劉備に仕える。
三国志演義では
徐州で呂布や曹操と戦い、徐州陥落後も兄と共に劉備の下へ駆けつけた。劉備が益州に入ると、荊州に残って関羽を補佐。関羽が襄陽に進攻する直前、失火で物資を損ない、傅士仁と共に罰せられる。間もなく、呉の呂蒙に攻められ、傅士仁と共に降伏。222年、劉備が荊州に侵攻すると、関羽を捕らえた馬忠の首を取って劉備の下へ帰陣するが許されず、関興に斬られた。
正史では
夷陵の戦い後も孫権に仕え、223年、魏に寝返った晋宗を賀斉と共に討伐している。
統率54.武力61.知力31.政治23.魅力18.
主人公を若様と呼ぶ。
麋一族は先祖代々徐州一帯で豪商の一族。部下も一万人越え。
呂布の後、曹操が徐州を占領した時に彭城相に任命されている。兄の麋竺も嬴郡太守の地位を与えられた。その地位を捨てて兄弟共に劉備に付いた。麋芳は曹操、劉備、孫権の三国に仕えた珍しい経歴を持つ。




