第十一話「孔明の手紙」
➖時間は3週間遡る➖
謙信が漢中を旅立つ前夜の漢中にて
孔明は馬良に宛てる手紙を書いていた。
『…かの如く
荊州は天下三分の要の地となる。
義弟よ。
くれぐれも孫呉の動きに警戒せよ。』
…
孔明は一旦筆を止めた。
先程の太子様の発言には驚愕した。
天下三分の計
一番の弱点を突いてきた。
劉孫が手を組み
魏へ同時に攻めねば
圧倒的な戦力差を打破など不可能。
まして劉孫で争っていては
魏が利するのみ。
曹操が漢中から撤退したこの機を逃してはならない。
魏が敗北を喫したこの機に
涼州、宛、弘農、鄴、許で
同時反乱を促す。
そして漢中から長安を
江陵から襄陽を、
さらには新野、宛と進み、
洛陽までを目標とする大戦の始まり。
孫呉の裏切り
孔明は背中に冷たい汗をかいていた。
本日の漢中王即位式典の最中。
劉禅様が転倒し、頭を強打された。
まるで別人のようだと報告を受けていた。
これまで、爪を隠しておられたか?
そんな次元ではない。
あれは別人である。
話し方も姿勢もまるで違う。
玄徳様も気づいているご様子。
あの者の正体は一体?
しかし
肝要なのはそこではない。
別人であろうとなかろうと、
果たすべき事は変わらない。
刮目すべしは
ずば抜けた戦略的思考と危機意識の高さにある。
荊州が落ちれば天下三分は破綻する。
呉の都督だった魯粛のような
先を見据えた思考だ。
眼前の利は後に回せども、
大局を見渡しより大きな利を得る。
この戦略眼を持って
実行に移せる者はなかなかいない。
孫呉が合肥よりも荊州に拘れば、
曹魏を覆す策は瓦解するだろう。
齢13歳にしてあの才気。
そして関将軍を救いたいという義侠心。
成都から出ようともしなかったのに、
突然荊州へ行かれた行動力。
成人する頃にはどのような
君主となるのであろうか。
これは天啓か、はたまた罠か、地獄の扉か。
孔明は再び筆を取った。
『義弟(馬良)よ、
この手紙を運んでくれた劉禅様は、
孫呉が裏切り背後から関将軍を
亡き者にすると確信を持って予知されている。
よく相談し望むままに補佐しなさい。
13歳という先入観を捨てるべし。
我らと違った視点からの思考をお持ちである。
劉禅様は我らの未来、
希望となる聖君になるか否か。
よくよく見守るように。』
孔明は馬良への手紙を書き終えた。
"あの人"にも手紙を送っておこう。
更に諜報部隊へ指示を出し、
劉禅様の予想の情報確認をせねば。
さらに絹の袋を3つ、
机の上に置き
次々と策に取り掛かかるのであった。
第十二話 茶 つづく。




