#91 罪深き者に血染めの報復を
前回までのあらすじ
ネロが帰ってこない
ネロが帰ってこない。
頭痛薬が見つからずに今もまだ探し回っているのか・・・いや、だとしてもこんなに時間がかかるわけがない
じゃあ、誰かに誘拐でもされたか・・・いや、あんなバーサーカーがみすみす誘拐されるとも思えん
だとすると、あいつは自分の意志で俺たちの目の前から姿を消したということになる。
詳しい理由は分からない。しかし理由がどうあれ、あいつが帰って来ない原因が『今朝の詮索』にあるとしたら・・・
カズ「俺の責任だ―――」
それから6時間、カズは街を駆け回った。しかしネロの姿はどこにもなかった。街の人々に尋ねてみても、ネロ発見に至る有力な情報は何一つなかった。
疲弊したカズは研究所に戻ると、『ネロがいなくなった理由は自分にある』とだけ言い残し、自室に引きこもった。責任と無力さから来る精神的苦痛を抱えたまま、ネロが帰ってくることもなく、夜は明けた
ネロ失踪から24時間後
研究所
マリア「・・・ネロさん、帰ってきませんわね」
ユイ「・・・」
マリア「ミズキさんは、どこに?」
ユイ「ネロを探しに行くって、朝早く出て行った」
マリア「そうですか。無理していなければよいのですが」
ユイ「・・・カズは、まだ寝てんのか?」
マリア「えぇ。昨日6時間も探し回っていたので、疲れているのでしょう」
ユイ「そうだな」
マリア「責任も、感じておられるのかと・・・」
ユイ「昨日、自分がネロの過去について言及したからいなくなった・・・って言ってたしな」
マリア「仕方が無いことです。誰だって、過去を忘れることなんてできませんから」
ユイ「過去を知りたいカズと、過去を知られたくないネロ・・・今回の件がなくても、どのみち直面する問題だったのかもな」
マリア「・・・そうですわね」
ユイ「無事でいろよ、ネロ―――」
インダストレージ・北エリア
ミズキ「すまない、この少女を見なかったか?(ネロの写真を見せる)」
街人「いや、見かけないですね・・・」
ミズキ「そうか、ありがとう」
ミズキ「・・・」
ミズキ(一夜明けても目撃情報は何一つない。もしかして、もうこのインダストレージにはいないのだろうか・・・?)
ミズキ(私がネロにおつかいなど頼まなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない・・・)
ミズキ(カズは自分の責任だと言っていたが、真の責任は私にある―――)
インダストレージ・クローディア教会前
ミズキ(・・・教会か、研究所に戻る前に寄っていくか)
ミズキ「・・・」
ミズキ「どうかネロが、無事でありますように―――」
ミズキ(神なんて存在しない。科学的根拠が無いからだ。だから神に祈るなど、愚かな世捨て人のする行為だと思っていた)
ミズキ(しかし、人間というものは不思議だな。不安や恐怖に襲われると、何かにすがりたくなってしまう。自分ではどうしようも出来ない状況に陥ると、特にな)
ミズキ「神、今だけはお前の存在を信じてやる。だから絶対にネロを私たちのもとに返せ。さもなければこの世にある全ての教会を燃やして回るからな」
???「誰だ」
ミズキ「っ!」
???「ここは部外者の立ち入りを禁じている」
ミズキ(・・・不気味な仮面をした女だな。この教会のシスターか?)
ミズキ「おいおい、おかしなことを言うのだな。教会というものは、誰もが立ち入ってよいものだと思っていたのだが?」
仮面の女「知ったことではない、今すぐ立ち去れ。これは警告だ」
ミズキ「いま祈りを捧げているんだ。それが終わるまで待ってくれまいか」
仮面の女「待たない、今すぐ立ち去れ。三度は言わんぞ」
ミズキ「はぁ・・・神を信じてやろうと思った矢先に信者から出て行けと言われるとはな。やはり神を信じるなんて愚かしい。まったくもって不快だよ」
仮面の女「お前の感情などどうでもいい」
ミズキ「・・・先ほどから黙って聞いていれば、気に入らんな。神を信じると、人は礼儀すら忘れてしまうのか?」
仮面の女「・・・」
ミズキ「弁明の言葉もないか。自ら神の名に泥を塗るなんて、実に嘆かわしいな、シスター・・・って」
ミズキ「いない・・・どこに行っ」
仮面の女「ここだ(ミズキの背後に立つ)」
ミズキ「・・・はっ?」
ミズキ(いつの間に背後に・・・シスターとは思えぬ速い動きだ)
ミズキ(どんな奴か、その仮面を剥がして顔でも拝んでやりたいところだが・・・どういうわけか身体が動かん。何故だ・・・)
ミズキ「・・・って、あれ?」
ミズキはふと、視線を下にやった。腹部に謎の違和感をおぼえ、その正体を確認するためだ。
彼女はここで、信じられない現実を2つ目撃することになる。
1つは、自分の右腹部を、赤い血に染まった剣が貫いていたこと。それは彼女自身の血であった。背後に立つシスターが貫いたものであり、そのせいで身体が動かなくなっているのだという辻褄を合わせることができた。
このような事故に巻き込まれた経験などないミズキは、あまりに現実離れしたこの状況において、貫かれた痛みを実感するまでにしばらくの時間を要したのだった。
ミズキ「ぐ、がはっ・・・」
仮面の女「言ったはずだ、三度は言わんと」
ミズキ(お、おかしいな・・・。どうして、私がこんな目に・・・!!)
ミズキ(私はただ、神に祈りを捧げていただけなの・・・に・・・)
ミズキ「やっぱり神なんて、くそ・・・食らえだ、ちくしょうが・・・!」
仮面の女「まだ生きているのか、しぶといな」
ミズキ「ふ、ふん・・・研究者ってのはしぶとさが・・・命なんでな・・・」
仮面の女「鬱陶しいな(剣を抜く)」
ミズキ「ぐぅぅぅぁぁぁっっっっ!!」
剣を抜かれ、ミズキの腹部からおびただしいほどの血が噴き出す。自分では立っていられなくなり、支えられなくなった身体は重力に従って床に倒れようとする。しかし彼女は、ただでは倒れなかった。
ミズキは、背後のシスターの仮面に手を伸ばしたのだ。手が滑ったとか、偶然だとか断じてそういうのではない。その仮面の下の顔を拝むために、故意に手を伸ばしたのだ。
なぜわざわざそんなことをしたのか、それは彼女が興味の生き物であるからだ。興味のあるものには手を出さずにはいられない。だから仮面を剥がしたのだった。
そしてここで彼女はもう1つの『信じられない現実』を目撃した。
ミズキ「お、お前は・・・」
その仮面を剥がし終えると、ミズキは倒れながら震えた。教会に立ち入ることを禁じ、その警告ののちに剣を突き刺してきたシスターの正体に。このシスターの正体が、まさか・・・
ミズキ「ネ・・・ロ・・・?」
探していた少女『ネロ・ミカエラ・フェザーライト』だったなんて、思ってもいなかったからだ。
血は苦手




