#58 PTSDは、"かのように"
ミズキ姉さんは病弱でね、幼少時代から外で遊ぶことなく過ごしていた。そんな姉さんはある日、ものを造ることに興味を見いだしたんだ。退屈な日々を過ごしていた姉さんにとって、もの造りは自分の人生を支える大きな出会いだった。
姉さんは12歳のとき、父の知り合いの研究者に弟子入りした。研究のいろはを教わり、弟子入りして初めて造った槍・通称「ゲイボルグ」は高い攻撃力を誇るものの、重量は軽く扱いやすいという点において多くの賞賛を得た。その齢にして、この完成度・・・周囲は若き才能の開花に戦慄したという。『これは将来とんでもない科学者になるぞ』と。
その予想は、すぐに現実のものになる。姉さんが14歳で、俺が9歳の時だった。
「カズ、これを着てみてくれ」
姉さんはそう言って俺に変な装備を渡してきた。矯正ギブスのようなそれを、俺は何の躊躇いもなく身につけた。すると・・・
「あだだだだだだだ!!!!」
俺は痛みを訴えた。矯正ギブスが俺の身体を思い切り締め付けてきたんだ。筋肉を破壊されるような痛みだった。そんな痛みが10秒続いた。永遠とも思える10秒だった。締め付けがおさまると、姉さんは冷静な声でたずねてきた。
「どうだった?」
びっくりしたよ。目の前で痛みに悶絶する俺の様を見た上で「どうだった」って聞いてくるんだぜ?答えは痛い以外にないだろうに。俺は瀕死ながらに、受けた痛みをありのまま伝えた。そして、この装備は一体なんなのかをたずねた。
「拷問器具だ」
びっくりしたよ。この姉、実の弟を使って拷問器具の性能実験をしてたんだぜ?誰でもよかったらしいんだが、たまたま丁度いいのが近くにいたから、という理由で俺が選ばれたんだ。もはや犯罪者の発想だと思ったよ。一切の罪悪感なく弟を痛めつける姉。俺は9歳という若さで、ミズキ姉さんに対する恐怖の種を植え付けられた。
それからというものの、ミズキ姉さんは頻繁に俺を使って武器や装備の実験を行ってきた。クソ重い剣を使ってスイカ割りをさせられたり、拷問器具を身につけて遠方に鉱石を採掘してくるよう頼まれたりした。1番しんどかったのはアレだな、視覚と聴覚を奪われた状態で、次々と投げられる高速球を避けるっていう実験だったな。たしか、空気の変化を顕著に読み取れる防具を身につけてたから、それをヒントに避けるのが醍醐味だったんだが、そもそも幼き俺にはそんな身体能力ないから、バカみたいに硬球をぶつけられてたな。
どんな実験も断らずにやった。断ればもっと酷い目に遭わされるかもしれないと、幼いながらに思い込んでいたんだ。
やがて姉さんは独り立ちし、更なる高みを求めるために先進都市・インダストレージへと移住した。そこで、俺の地獄のようなモルモット生活は終わったんだ・・・
カズ「いや~、今じゃ俺もそこそこ強くなったから姉さんの実験に付き合わされたところでどうってことないだろうけど、やっぱり染みついたトラウマってのは拭えないもんだよなぁ。フラッシュバックってやつか、はっはっは」
ユイ(・・・なぜ笑えるんだ、こいつ)
マリア(ていうか、カズさんがお強いのはミズキさんの実験のせいでは・・・?)
ネロ(カズ殿は昔からMの素質を持っていたということか・・・)
カズ「お前らも気をつけとけよ、姉さんはいつお前らに無理難題を押しつけてくるかわからんからな」
マリア「・・・肝に銘じておきますわ」
ユイ「マッドサイエンティストの姉を持つと苦労するのだな」
ネロ「ココアおかわり」
カズ「余韻もクソもねぇな。まぁいい、俺のココアやるよ。飲みかけだけど勘弁な」
ユイ・マリア「・・・!」
ネロ「おお、恩に着るぞ!」
ユイ「ちょっと待て!!!(ココアを一気に飲み干す)」
ユイ「私もおかわりだ!」
マリア「ぐががが(ココアを一気に飲み干す)」
マリア「わたくしもおかわりですわ!!」
カズ「えぇ・・・なにその唐突な向上心」
ネロ「なんだと、最初におかわりを要求したのは私だぞ!」
ユイ「だがココアを飲みたいという気持ちは誰にも負けていないぞ!」
マリア「わたくしもですわ!ていうかネロさん自分のココアをわたくしたちの頭からかけていたではありませんか!飲み物を粗末にする人におかわりの資格はありませんことよ!」
ネロ「あれは人命救助だ!動かなくなった君たちを助けてやったのではないか!」
カズ「おいお前ら、せめて姉さんが戻ってくるまで待てないのか」
ユイ「それじゃあ意味がないだろうが!」
カズ「なんでだよ!!」
「バァン(銃声)」
カズ「ひっ・・・(カズの髪に銃弾がかする)」
ネロ「大丈夫かカズ殿!?」
カズ「だ、大丈夫。かすっただけだ・・・」
ミズキ「いや、すまん(隣の部屋から出てくる)」
ミズキ「なんだか騒がしいから、ついついグロックを撃ってしまった。改造したせいでドアをも貫通するほどの威力になってしまったようで。怪我はないか、皆」
カズ・ユイ・マリア「・・・大丈夫です」
ネロ「あ、ココアおかわり!」
3分後
ミズキ「待たせたな。ほれ、キャラメルマキアートだ」
カズ(ココアって言ってなかったっけ・・・)
ネロ「なんだこれ美味い!キャラメルみたいな味がするぞ!」
ミズキ「すまん間違えた、それ梅昆布茶だった」
カズ「どうやったら間違えるんですそれ」
ネロ「ほんとだ、梅みたいな味がするぞ!!」
カズ「味覚ないんかお前?」
ミズキ「さて、一息ついたところで、君たちに頼みたいことがある」
カズ(あ、そうだった・・・)
ネロ「なんだろう、タケノコ掘りか?」
ミズキ「ふっ、そんな可愛いものではないさ」
ユイ(まさか、これはカズの言う無理難題というやつでは・・・)
マリア(その可能性は大いにありますわね・・・)
ミズキ「簡潔に言おう、君たちに『伝説の聖杯』を手に入れてきてほしい」
カズ「・・・伝説の聖杯?」
ミズキ「うむ、実に特殊なものでな。正式名称は分からないが、界隈では『支配者の聖杯』と呼ばれている」
マリア「・・・聞いたことがありますわ。手に入れた者にすべてを支配する力を与えるという伝説の神具、と」
ミズキ「その通り。しかし、手に入れるだけではすべてを支配する力は授けられない。それには条件がある」
マリア「・・・条件、ですの?」
ミズキ「そこまでは知らないか。力を手に入れるには膨大な魔力が必要となる。人間の力では到底補うことのできないほどの魔力だ」
ユイ「じゃあどうやって・・・」
ミズキ「・・・明日の夜、なにがあるか知っているか?」
ユイ「さ、さぁ・・・」
ミズキ「『ロードレイジ流星群』だ」
カズ「・・・なるほど、その流星群のもたらす魔力を聖杯に用いるというわけですか」
ミズキ「そういうことだ。人間には成し得ない魔力でも、天の力であれば十分に補うことができる。ロードレイジ流星群のもたらす魔力がその聖杯が満たした時、すべてを支配する力が授けられるのだ」
ミズキ「あくまで伝説上の話であって、そんな聖杯が本当に実在するかどうかは分からない。だが、だからこそ実在するかどうかを確かめる必要がある。そこで身体が弱い私に代わって、君たちに確かめてきてほしい。そしてその上で、それを手に入れてきてほしい。私はそれが欲しい」
マリア「・・・ミズキさんは、それを手に入れてどうするおつもりですの?」
ミズキ「どうするって・・・面白いことを聞くのだな。決まっているではないか」
ミズキ「その力を新たな研究に役立てる。それだけだ」
カズ「・・・ふっ、姉さんらしい―――」
カズ「わかったよ。その聖杯、手に入れればいんだろう」
ミズキ「うむ、頼まれてくれるか」
カズ「あぁ、他でもない姉さんの頼みだしね」
ミズキ「ありがとう、カズ」
3人「いってらっしゃい!!!(他人事)」
カズ「お前らも行くんだよ!!!」
目指せ巨人の☆




