#104 四面楚歌と、三人の勇者たち
前回までのあらすじ
回想終了
パイル教の司祭・マーシャがアリスの故郷・ミースギナにやって来て、人々を洗脳した。アリスの母・ミレイユを『利用』したが失敗し、洗脳の証拠を消すために教会を燃やすとともにミレイユを殺害した。その後、怒りに溺れ暴走するアリスを止めるため、街の人々はアリスの記憶を改ざんした。そうしてアリスは、荒んだ心を消し去り『ネロ』として生まれ変わった。
現在
ミズキの研究所
カズ「名前を変えたのは、過去を捨てたからだったのか」
カズ「・・・いや『捨てさせられた』ってことでいいんですかね?」
リーリカ「はい、その通りです」
カズ「・・・」
マリア「ネロさんに、そんな過去が・・・」
リーリカ「・・・被害に遭ったのは私の街だけではありません。あの人は数年の間にあらゆる街を訪れ、その度に人々を不幸にしていると思われます。まさか私も、買い物で訪れたこの街で再会するなんて思ってもいませんでした」
カズ「じゃあマーシャは、この街でまた人々を洗脳しようとしているってことか・・・?」
リーリカ「多分、そうだと思います」
ユイ「何のためだ?」
リーリカ「えっ?」
ユイ「さっきから聞いていても、どうも解せん。マーシャは人々を洗脳して、何をしようとしているんだ?」
リーリカ「・・・私が洗脳されていたとき、言っていました。『神になるため』だと」
ユイ「・・・あぁ?」
リーリカ「私たちは、マーシャが神になるために利用されていたんです。教会での儀式は、神になるためのものだったんだと思います。理屈はわかりませんが・・・」
ユイ「・・・」
ユイ「笑わせてくれるよな」
リーリカ「えっ?」
ユイ「神になる素質もないくせに、神になろうとするなんてよ」
マリア「・・・ユイさん?」
ユイ「許せねぇんだよ。そういう自分のことしか考えねぇような勘違い野郎が」
ユイ「自分の理想のために、他人を利用し傷つける。神とは程遠いただの外道だ。そんなやつが、私たちのいるこのインダストレージにいて、あろうことかミズキさんを殺しかけた。よりにもよって、彼女を慕うネロを使ってよ・・・!!!」
マリア「・・・」
ユイ「で、どうすんだよ。カズ」
カズ「・・・決まってる。ネロを助けに行く」
ユイ「じゃあいつまでもこんなとこで湿っぽい雰囲気醸し出してねぇで、さっさと行くぞ。このままじゃネロも、あいつの母親と同じように殺されちまうかもしれねぇ」
カズ「だがこのまま行けば、ネロと同じように洗脳されてしまうかもしれない」
ユイ「・・・何が言いたい?」
カズ「何の対策もしないで闇雲に突撃するのは危険だと言ってるんだ。マーシャがどうやって人々を洗脳しているか分からなければ、マーシャがこれから何をしようとしているのかが分からなければ、返り討ちに遭うだけだ」
ユイ「事態は一刻を争うかもしれねぇんだぞ。そんな悠長なことを言ってる場合か!」
カズ「落ち着け。急げばいいってもんじゃない・・・」
ユイ「なんでそんなに落ち着いてられんだよ・・・お前はネロが死んでもいいって言うのか!!」
カズ「そんなこと一言も言ってないだろ!!!!」
マリア「やめて!!!」
カズ・ユイ「っっ!」
マリア「2人とも落ち着いてください。今はわたくしたちが争っている場合ではありませんわ・・・」
カズ・ユイ「・・・」
マリア「ユイさん、あなたは決して間違っているわけではありません。ネロさんを助けるのはもちろん大事です。ですが冷静におなりなさい。カズさんの言う通り、ただ行動しても良い結果に辿り着くことは難しいと考えます」
ユイ「・・・」
ユイ「そうだな。ありがとうマリア、少し落ち着いた」
マリア「いえ、こちらこそ」
ユイ「・・・だがカズ、その情報はどうやって集めようって言うんだ。直接教団の人間に聞きでもするのか、『どうやって洗脳してるんですか?』って」
カズ「それは・・・」
???「揉め事は収まったか?」
カズ「っ!?」
ユイ「誰だ、いつの間に室内に・・・!?」
カズ「お前は、アイン・・・!」
アイン「久しぶりだな、クロエ・カズ。と言っても、一昨日会ったばかりだが」
ユイ「何の用だ腰抜け。ミズキさん家から金目の物でも盗もうとしてんのか?」
アイン「ふ、まさか。そんな下品な真似を白昼堂々するわけがないだろう。わざわざ話の腰を折ってまで」
マリア「じゃあ何をしに・・・って、まさか!」
アイン「やはり、君は勘が良いらしいな。流石は私に銃弾を撃ち込むことができただけある」
マリア「『教団についての情報』を、知っているんですのね?」
アイン「そうだ」
ユイ「・・・本当か!?」
アイン「嘘などついてどうする」
カズ「どうして、お前が知ってるんだ?教団のことも、俺たちがその情報を欲していることも・・・」
アイン「盗賊は耳が広いんだ。舐めてもらっては困る」
カズ「・・・らしいな」
アイン「簡潔に言おう。マーシャという男は、『魔眼』の持ち主だ」
ユイ「魔眼・・・?」
アイン「そうだ。怪訝な能力を宿す魔力の眼。奴の魔眼は『侵食』の力を持つ。いわば『侵食の魔眼』を使って、マーシャは人々を洗脳しているのだ」
カズ「・・・!」
カズ(さっき教会の中で、マーシャの目から感じた嫌な予感は『魔眼』によるものだったのか・・・!)
アイン「洗脳する条件は、『洗脳する相手の目を見て魔眼を発動させる』こと。逆を言えば、目をあわせさえしなければ魔眼は発動しないし、洗脳されることはない」
リーリカ「・・・っ!じゃあ、ミースギナの時も?」
アイン「恐らくそうだ。ネロが最後まで洗脳されずに我を保てていたのは、それまでマーシャと目を合わせていなかったからだろう」
リーリカ「・・・そう、ですか」
マリア「アインさん、洗脳する条件は分かりましたわ。その他に、なにか危惧すべきことはありますか?」
アイン「敵はマーシャだけではない、ということだな」
マリア「・・・というと?」
アイン「マーシャを信仰する者は多くいる。インダストレージだけでおよそ数百人」
リーリカ「そ、そんなに!?」
アイン「まあその大半は洗脳されている者だろうがな」
カズ「・・・」
アイン「しかし、洗脳されるわけでもなく自らの意志でマーシャを崇拝する者もいる。その中でもとくに『教団幹部』には要注意だ。幹部は皆、何かしらの能力を持っている。能力の詳細までは分からないがな」
リーリカ「『能力』って・・・無理ですよ、カズさん!こんな恐ろしい集団を敵に回すなんて・・・殺されてしまいます!」
カズ(・・・)
カズ「アイン。幹部ってのは、全部で何人だ?」
アイン「6人だ」
カズ「・・・なんだ、それだけか」
リーリカ「え、何を言っているんですか?」
アイン「リーリカさん、といったか。どうやら彼らは、君が思っているほど弱くはないようだ」
リーリカ「えっ?」
アイン「そうだろう、クロエ・カズ?」
カズ「・・・あぁ、良くも悪くも能力者との戦いにはもう慣れたよ。俺たちは4人で、脱兎九族9人を相手したんだ。それに比べりゃ、6人を相手するなんて楽勝もいいところだ」
リーリカ「な、何を言っているんです!?たしかに幹部は6人かもしれませんが、そのほかに数百もの敵がいるんですよ!?とてもじゃないけど、勝てるわけ・・・」
マリア「造作もないことですわ」
リーリカ「・・・は?」
ユイ「昔ならまだしも、今の私たちが人間程度に負けるわけがない。たとえ何人いようがな」
リーリカ「『人間程度』って・・・なんなんですか、あなたたち一体何者なんですか!?」
カズ「勇者ですよ、俺たちは」
勇者ですよ(真顔)




