#99 アリスの悲劇③[赤いライトリリー]
前回までのあらすじ
オカンが帰ってこない
翌朝(マーシャ教団の来訪から4日後)
アリスの家
ジーク「じゃ、行ってくる」
アリス「あの、お父さん・・・」
ジーク「なんだ?」
アリス「お母さんは、どこに?」
ジーク「さぁな、知らねぇよ」
アリス「・・・心配じゃないんですか?」
ジーク「心配だよ」
アリス「とても心配しているようには見えませんが」
ジーク「うるせぇな」
アリス「・・・!」
ジーク「黙って留守番でもしてろ、お前は」
アリス(・・・)
アリス「あなたは、誰ですか?」
ジーク「あ、何言ってんだお前」
アリス「・・・お父さんは私のことを『お前』だなんて呼ばない。お父さんはそんなに冷たい人じゃない・・・!あなたはお父さんじゃない、お母さんの行方も心配せずにパチンコに行こうとする人が、私のお父さんなわけがな・・・」
ジーク「・・・パチンコ、だと?」
アリス「そ、そうですよ。どうせ今日もパチンコに・・・」
ジーク「俺がそんなくだらねぇことのために出かけるわけねぇだろうがボケナス!!」
アリス「・・・っ!?」
ジーク「じゃあな」
アリス「・・・」
アリス(パチンコに行くんじゃない?だったら、あの人は一体どこに・・・)
アリス(帰ってこない母、凶暴な父・・・これは一体、なんて悪い夢なの?)
理解しがたい状況に、病み上がりのアリスは、出かけていった父・ジークの後をつけることにした。
ジーク「・・・」
アリス「・・・」
アリス(これはパチンコ屋のルートじゃない。ということは、本当にパチンコに行くつもりではないということ。では尚更、どこに向かっているの?)
アリス(それにしても静かだな。家を出て以来、誰とも会わないし・・・みんなどこに行ったのかな?)
リーリカ「アリスちゃん」
アリス「っ!リ、リーリカさん!」
リーリカ「久しぶりだね。最近見かけなかったけど、どこ行ってたの?」
アリス「いえ、風邪をひいていて、ずっと家の中に・・・」
リーリカ「ふ~ん・・・」
アリス(・・・?)
リーリカ「治ってよかった。じゃあ私は行くから」
アリス「あのっ・・・!」
リーリカ「なに?」
アリス「リーリカさん、具合悪いんですか?」
リーリカ「・・・ううん、そんなことないけど、どうして?」
アリス「いえ、どこか言葉が重々しかったというか・・・」
リーリカ「そう、元気だから気にしないで。じゃあね」
アリス「はい・・・」
アリス(とても元気そうには見えなかったけど。というか・・・あの人は本当にリーリカさんだったのかな。とても冷たい、まるで、別人のような―――)
アリス(・・・とにかく、お父さんを尾行しないと)
ジーク追跡開始から15分経過
ミースギナ教会前
ジーク「・・・」
アリス(ん、お父さんの歩みが止まった?)
ジーク「こんにちは」
アリス「ん?」
教会の男「・・・お待ちしておりました、ジークさん。司祭様が中でお待ちです」
ジーク「はい」
アリス(・・・教会に入っていった。なるほど、お父さんは教会に向かっていたのか)
アリス(でもお父さん、教会に何しに来たんだろう?とりわけ、教会に行くような人でもなかったし・・・ん?)
若い男「・・・こんにちは」
老いた女「・・・こんにちは」
教会の男「はい、皆さんお待ちしておりましたよ」
アリス(次から次へと、街のみんなが教会に入っていく。一体中で何をしているんだろう?ちょっと、覗いてみようかな・・・)
ガーベラ「待て、アリスちゃん!」
アリス「っ、ガーベラさん!?」
ガーベラ「教会に近づいちゃいけない。君まで洗脳されるぞ!」
アリス「洗脳・・・どういうことですか!?」
ガーベラ「・・・アリスちゃんは大丈夫なようだね。とにかくここは危険だ、急いで離れよう」
アリス「は、はい・・?」
商店街・フラワーショップ「ナシィ・コーデ」
ガーベラ「ふぅ。とりあえず、ここなら安全だ」
アリス(安全・・・?)
ガーベラ「ところでアリスちゃん。君はどうして教会の近くにいたんだ?」
アリス「えっと・・・お父さんの様子がおかしいので、後をつけてたら教会に着いたんです」
ガーベラ「そうか。君のお父さんも、既に・・・」
アリス「ガーベラさんはなにか知っているんですか?私のお父さんのことについて」
ガーベラ「あぁ。大体の状況は把握しているつもりだ」
ガーベラ「・・・単刀直入に言おう。パイル教団とかいう胡散臭い集団がやって来てから、ミースギナの人々は洗脳されてしまった。アタシの両親も、恐らく君のお父さんも!」
アリス「・・・待ってください。さっきから洗脳洗脳って、一体何をどう洗脳されているんですか!?」
ガーベラ「それは分からない。しかし、君も見ただろう?ミースギナの人々が、あの教会に吸い寄せられている異様な光景を!」
アリス「たしかに。今まであの教会は誰にも使われていなかったし、誰からも足を運ばれない、廃墟のようなものだったのに・・・」
ガーベラ「そうだ。そして教会から出てくる人々はもれなく疲弊しきっている。まるで精気を奪われたかのように・・・!」
アリス「・・・!」
アリス(・・・最近お父さんの様子がおかしかったのは、そのせいだったってこと?)
アリス「じゃあどうすれば、お父さんたちは元に戻るんですか?」
ガーベラ「恐らく、あの教団を潰すしかない。マーシャ率いるパイル教団を・・・!」
アリス「マーシャ・・・?って、まさか!」
<ひとつ聞きたいのだが、この街に教会はあるかい?>
ガーベラ「ん、アリスちゃん。彼のことを知っているのか?」
<アリスか・・・いい名だね>
アリス「・・・はい」
<私はマーシャ。グロステリア・マーシャだ>
アリス「先週、私に教会の場所を聞いてきた人です・・・!」
ガーベラ「なるほど、マーシャは教団を率いてくる前に、ここに下見に来ていたのか」
アリス「下見・・・なんのために」
ガーベラ「さぁ、あいつらが教会で何をしているのかは分からない。でも、良いことをしているわけではないのはたしかだ。人々から精気を奪うようなやつらの、どこに正義がある?」
アリス「そうですね、なんとかその教団を追い払わないと・・・ガーベラさん、私はどうすればいいですか?」
ガーベラ「いいや、君は何もしなくていい」
アリス「っ、どうして?」
ガーベラ「君のような女の子に、残酷なものは見せられないからね」
アリス「・・・何をするつもりなんですか?」
ガーベラ「君は知らなくていい」
アリス「・・・」
ガーベラ「安心しなよ、人殺しをするわけじゃないさ。しかし、少々乱暴なことだということだけ言っておこう」
アリス「・・・わかりました。でも、1人で大丈夫なんですか?」
ガーベラ「ん、誰がアタシ1人でやると言った?」
アリス「え、だってみんな洗脳されてしまったって・・・」
ガーベラ「あぁ。だが、まだ洗脳されていない人はアタシたち以外にも何人かいる。彼らと協力するのさ」
アリス「なるほど。なら、大丈夫・・・なのかな」
ガーベラ(・・・)
ガーベラ「決行は明日。明日あの教団を追い出す。アリスちゃん、念のため今日はアタシの家に泊まっていけ。もしもの時、アタシが君を守れるように・・・」
アリス「・・・はい」
翌朝
ガーベラの家(フラワーショップ『ナシィ・コーデ』)
アリス「Zzz」
アリス「・・・ですから爆弾低気圧はもういいですって。・・・ん、ふぁっ!今何時!?」
時計「10時だよん」
アリス「もう10時!?しまった!!」
アリス(ガーベラさんが教団を追い出しにいくから、見送ろうと思ったのに・・・もう行っちゃったかな?)
ガーベラ「・・・ぁぁ」
アリス「っ、ガーベラさんの声!まだ出発してなかったのかな。よかった、これで見送ることができる・・・」
アリス「ガーベラさ~ん、どこにいるんですか~?・・・って、なにこれ?」
アリス(床が汚れてる?赤い液体・・・ペンキでもこぼしたのかな?)
アリスは床に染みついた赤いペンキの行く先を辿った。先に進むほど、だんだんペンキの量が増していく。と同時に、アリスは息が詰まるような思いに襲われていった。まるで自分が行く先に、見てはいけないものでもあるかのような・・・
アリス「・・・これは、ペンキの匂いじゃない。なんだっけ、この匂い。鉄のようで、嫌な匂い・・・」
アリスはすぐに理解した。断じて赤いペンキなどではない、これは人の血であると。いつの間にかアリスは、不快な血生臭さの空間の中に迷い込んでしまっていたのだ。そして、血を辿っていった先で、アリスは最悪の光景を目の当たりにする。
アリス「・・・ガーベラ、さん?」
店先で、ガーベラの姿を見つけた。しかし彼女は、教団を追い出す準備をしているわけでも、はたまた元気に店番をしているわけでもなかった。
彼女は全身を赤い血で纏い、ただ床に仰向けで横たわっていた。いっさい動くこともなく。
アリス「・・・」
アリスは何も言葉が出てこなかった。再びガーベラの名を呼ぶことも、悲鳴をあげることもせず、ただ残忍な光景から一瞬目をそらした。しかし、そのそらした視線の先に、見覚えのある何かがあった。
ライトリリーだ。以前ここに来店した際、母の誕生日にプレゼントするために、レジの横に取り置いてもらっていた白く輝く百合の花束。
その白百合が血の赤で染まっているのを見たとき、ネジが外れたかのようにアリスは断末魔の声をあげて叫んだ。
えらいこっちゃ




