第04話「仕事」
英雄「すいませんでした」
俺は深々と何度も何度も頭を下げた。こんなことは今までには一度たりともなかった。ましてはヒト族に頭を下げるなんて魔族としていかがなものか。
部長「まったく、ちゃんと責任を持って仕事をしてくれないと困るよ、これだからゆとり世代は」
そういったのは部長であった。俺の職場の上司にあたるヒト族だ。すこし小太りで背は小さく頭皮は少し薄くじっとりと汗ばんでいる。いかにもといった風貌をしている部長である。
そこから部長の小言は始まり、止まることを知らなかった。
今の世代は恵まれている。昔の時代はもっと過酷であった。若いときは休日がないのが当たり前で、会社に泊まっていた。飲み会には絶対参加で2次会だけでなく3次会、4次会とあった。もちろん、翌日は朝から仕事をしていたけどな、などなど
部長「今の若いやつらは気合いが足らん、気合いが」
そんな小言の嵐を食らっていた。俺の方は本当は年上だぞ、200年ほど年上だぞ。人間の一生に直したら、まだお前なんて首が座ってないし。うつぶせにしただけで勝手に息絶えるぞ。赤子の手を捻る方が難しいし。ってか赤子の手を捻るなんてそんな残酷なことをこの世界はしているのか。
これはこの世界のことわざらしい。以前英雄だったこの体にはこのような知識があり、適切な場所で出てくるようであった。
部長「おい、聞いているのか鈴木!」
物思いに浸っているとすぐに怒号が飛んでくる。この人も忙しいひとだなと感じた。
少しかわいそうにも思えてきた、やはり年配者としては年下に同情を隠せない。
部長「本当に申し訳ありませんでした」
いくら元魔王だからといって横柄な態度はとってはならない。出世するために学んだ処世術だ。俺は魔族の時から次のことを守ってきた。
・上司には気に入られろ
これは鉄の掟であろう。まあ、今の俺はマイナスからのスタートらしいが。どうも以前の俺はあまり上司とは合っていなかったようだ。ここから気に入られるのは難しいだろう。さらになぜかこの上司を見ていると嫌悪がわいてくる。初めて俺は会った
はずなのに、どうしてだろうか。これも以前の英雄の感情がまだ俺のなかに残っているためなのか。
しかし、なぜこんなに俺は怒られているのかって?それは簡単だ。全然仕事ができないからだ。
だってしょうがないじゃん。転生していきなり自分の仕事に行ってできる?仕事をしているかも、どんな職種かも、ましてや会社がどこにあるかなんて頭のなかにはない。けど不思議なことに会社につくとここで働いていた気もする。
あの尾崎からメッセージがあったあとに会社から電話があったが、そのときにはスマホを出ることができずに(決して怖かったわけではない)スルーをしていた。なんとか、体が覚えていたりと会社の同僚などに聞きながらとりあえず自分の会社の名前と場所を調べだした。
あっ、尾崎っていうのうは会社の同期ね。仲良くしてもらっている。
そして初出勤でかなり叱られた。まあこれは俺が無断欠席したからしょうがいない、俺が大人になろう。しかし、いきなり仕事をしろと言われても何をやればいいのかわからない。そもそも、なんの会社なのかもわかってないのである。ホームページとやらを見たがいろいろなことをしすぎていて自分の部署もわからないのです。
周りの人に聞きながら仕事を少しずつ覚えていく。そのときには「軽い記憶喪失なんです」なんて最初に言ったから本気で心配されたものだ。医者に行ったほうがいいとか、もう少し休んだらとか声をかけてもらった。
みんな優しい。
ちらほらと「部長にさんざん言われてついに心が壊れちゃったんだよ。自殺とかせずによかったね。みんなで優しく見守ってあげましょう。」なんて周囲の言葉がうっすらと聞こえてきたが気にしない。記憶喪失にかんしては都合がいいから使っていくことにした。そして何週間はたったが一向に仕事ができるようにはならない。そして俺はまた部長に怒られているのである、いまここね。
部長「まったく、これだからゆとり世代は」
部長の話は堂々巡りをしている。さっきと同じ言葉だ。ゆとり世代とは今の若者を指す言葉であるようだ。ってみんななら知っているか。
少しぐらい俺の気持ちも考えてくれよ。転生する前に職業体験などさせてほしいものだ、インターンシップでもいいけど。この世界を創造したものがいるとするならばそれは怠慢である。こんなハードモード転生は割に合わない。
そんな中、この短期間でこんなにもこの場に馴染んでいる俺すごくない。これがもし魔界なら魔獣の餌になってるぞ。
そんなことを考えがら俺は叱られていた。
とまあ、転生事情など理解されるなど土台無理な話であろう。昨日まで普通に話していた相手が、今日話してみると転生している別人格なんて向こうの世界でも受け入れがたいものだ。
英雄「本当に申し訳ありませんでした」
俺はまた深々と頭を下げ、この場を何とかやり過ごそうとしている。スキル謝罪を得た。なんてね。
部長「だいたい、今の若い奴らは、、、」
部長には効果がないようだった。また始まった、俺はこんな攻撃を回避するすべを知らない。ただただ言葉という暴力を防御せずに受け入れるしかないのか。
~30分後~
部長「やっと解放された!」
俺はどっと自分のデスクに腰を下ろして、伸びをした。もう一日分の仕事をした気分だ。
時刻を見るとまだ午前9時前である。この世界では午後5時まで就業時間であり、そのあとは残業なるものが待っているらしい。どんだけ仕事が好きなんだよ、って俺が言えた義理じゃないけど。向こうでも仕事のしすぎてよくエレーナにおこられてたっけ。
「今日もこっぴどく叱られたね、まああれじゃあ仕方ないね」
隣のデスクの女の人が声をかけてきた。彼女の名前は大越詩織、俺の先輩に当たるひとだ。ちなみにこの会社には女性社員に対して制服はなく、私服で出社している人が大半であり、この人もその一人である。
この世界の服装にはまだ慣れてはいないが、強調された胸には目がいってしまう。顔はまあまあ整っている、というよりも美人だ。髪は黒髪ロング、切れ長の目、高い鼻、魅惑的な唇、唇の左下にチャームポイント的なほくろがなんとも妖艶さを醸し出している。そしてやはり胸、そこまで大きくはないが強調されている。この体になってからはこういったチャームの攻撃に弱くなった気がする、目が離せない。っというかこういった感情になるのは久しぶりな気がする。もともとの英雄ももしかしたらこのヒト族に好意を抱いていたのかもしれない。
英雄「ほんと、そうですよ」
尾崎「ほんと、もっと言ってやってくださいよ、しおりさん」
尾崎は俺の背後の席である、椅子を近づけながら会話に入ってきた。今はそのタイミングじゃない。もっと空気を読めっと目で訴えたが尾崎は完全にこちらを無視している。
とはいえ、尾崎は席も近いから何かと相談はしやすい。転生してからというもの、尾崎にはめちゃくちゃお世話になった。この世界のことや自分の状況など教えてくれた。
英雄「本当にもっとやるべきことあるだろ、部長」
そういった経緯も込めて一応会話にいれてやることにした。
短期記憶障害ということにして転生していることは秘密にしているがちゃんとごまかせているかは微妙なところだ。
尾崎「そういう設定ね、まあとことん付き合ってやるか。まあ、一応言うだけいうけど、病院にはちゃんと行けよ」
尾崎は意味深なことを呟きながら、いろいろと教えてくれた。もちろん病院には行っていないが。それにしてもすんなりと受け入れてくれすぎではないかと疑問が残る。周りに記憶障害の人は多いのか?この世界では記憶障害は一般的なことなのか。疑問はこの際は隅に置いておくことにした。
後で知ったが元の英雄はいわゆるアニメオタクであり、こういった設定?が好きだったらしい。いわゆる“中二病”だ。
尾崎もオタクであり、この中二病設定に乗ってくれたということだ。
詩織「そういえば休んでいた間はなにしてたの、鈴木君に限ってどこかに行っていたわけじゃないよね」
詩織さんが話しかけてくれた。
尾崎「どうせゲームばっかりしていたんだろ」
英雄「そ、そうだね」
尾崎の言葉にはあいまいな返事しかできなかった。
詩織「なんか休んだ後から人が変わった感じがするし」
詩織さんの発現に俺はギクッとした。この人は感の鋭い人だ。もしかして何かしらを知っているのだろうか。以前の俺がどのようであったかは知らない。何故ならあったことないからだ。だからどうふるまうのが良いかは全くわからない。
尾崎「詩織さんしょうがないですよ、詩織さんみたいな美人に動揺してるんですって」
すかさず尾崎のフォローが入る、ナイス尾崎!
尾崎「素人童貞だからね、なんだって鈴木は」
しかし余計なことまで追加している。素人と童貞の意味それぞれわかるが、素人童貞ってなんだ。馬鹿にされていることだけはわかるぞ。
詩織「そうだったわね。このお姉さんの美貌も拝めてないなんてとても残念だものね。レンタルで借りてきた連続ドラマを母親が持ってたぐらい残念ね」
英雄「そこまで残念なのかよ!」
詩織さんに対して俺は自然と突っ込みを入れていた。
詩織「お、いつもの鈴木君に戻った。立ち直りも早いのね、さすが早漏」
英雄「あなたは僕の何を知っているんですか、素人童貞ですよ!まさか、俺の素人を奪ったのは詩織さんですか?いつの間にか童貞の前に素人がついてがっかりしていたのにその相手が詩織さんだったらなんで無料じゃなかったんですか?無料じゃなくてもいいからちゃんと童貞もとってってくださいよ」
俺はテンポの良い突っ込みをしていた。それも自然に。素人童貞など初めて聞いたがこの鈴木英雄の中ではすでに知っている言葉であったらしく、すぐに使うことができた。しかしこんな言葉があるこの世界はなんて平和なんだと思ってしまう。
それにしても俺の突っ込みスキルはなかなかのものだな。
乗り突っ込みなるものを初めてやった
もしかして鈴木英雄の能力は「乗り突っ込み」なのか
これはこれでありだなと思っていたがそれはありえないか
詩織「さっきまで怒られていた人とは思えない元気さだね、少年よ。さあ少年は少年らしく外で元気に遊んできなさい!」
英雄「仕事をさせてください、これ以上怒られたくないから仕事をさせてください!」
とこれぞ社畜という言葉で俺は詩織さんに懇願した
尾崎「鈴木は仕事が相変わらず好きだな、そんなに仕事が好きならこれも分けてあげよう」
英雄「それはただの委託じゃねーか」
尾崎「ではお主に試練をやろう」
英雄「言い方をかっこよくしただけじゃん」
尾崎「このクエストの報酬は、、、仲間だ」
英雄「なんかすごい仲間が手に入りそうだけど、そのクエスト受注したらそいつの舎弟になりそうなんだけど」
尾崎「その仲間は俺だ」
英雄「舎弟ではなく奴隷にする気満々だった」
そんなこんなで仕事はなんとなく始まった。
俺の仕事は主に営業がメインである
といってもいわゆる足で稼ぐといういうよりも電話を掛けたり、相手先をリストアップしたりする仕事である
基本的にはマニュアルがあり、そのマニュアル通りに行っていれば問題ないらしい
電話対応のマニュアルもあるがこれはあまり役に立たなかった
俺は転生した当初は自社製品を知るところから始まった
事前に尾崎に会社のことを聞いていたため、何をしている会社かはわかっていた
実際はよく理解はしていないが
通信だとか、アプリだとかB to Bの会社であるなどさっぱりわからん
もちろん元英雄の記憶があるため知識としてはあるが本当にそんなものが会社として成り立っているなんて信じられなかった
最初の方は時間をほとんど自分の会社のことを調べて終わった
はたから見たらとても仕事熱心な感じに映っただろう
そういうスキルは心得ているという自負がある
とりあえず電話をかけているふりをするという特殊技能はかなり上がった気がする
電話するふり検定1級だな
そんな訳もわからないことを思いながら俺は最初の方を過ごしていた
そして、電話をするふりでなんとか今日も終えた
時刻を見るとすでに19時を回っていた
尾崎「今日は飲みに行くか」
英雄「いいね!久しぶりに飲みに行きたい気分だわ」
そして俺は行きつけの居酒屋に尾崎と2人で向かったのであった




