第03話「ハードモード」
「ま、転生したからには俺にはすごい能力が備わっているのだろう。とりあえず現状の把握が大事だな」
それから俺は現状把握に努めた。周囲にある本やさっきの光ったものも使えることがわかった。調べたりするのにものすごく便利である。すぐに終わるだろうと思っていたが、その予想は大きく外れた。どうやらこちらの世界はかなり複雑であるらしい。現状把握など不可能だということが把握できた。
とりあえず、ここまでわかったことをまとめよう。
俺の名前は鈴木英雄である。英雄という名前は転生にふさわしいと最初に感じていたが、結構同じ名前の人がいるとのこと。種族はヒトで年は25歳、ある会社での営業という職業をしている。といってもこの世界には文明を持っているのはヒト族だけのようだ。住んでいる場所は日本という国の首都なる東京だ。
最初にメッセージを送ったやつは尾崎慎一で会社の同僚のようだ。
俺の生い立ちはまだ把握しきれてはいない。そもそも把握している者など自分以外では家族しかいないが、まだ家族には連絡をしていない。
おいおい自分のことは把握していくことになるがこの世界につてもざっくりと把握はしたつもりだ。前世との違いを自分なりにまとめてみた。
・主に知性のある種族がヒトしかいない、魔族やその他の亜人族は実際には存在しない
・戦争や争いは身近になく、基本的に平和である
・魔法や魔力はない
・科学の発展が早い
正直これには一番驚いている
前の世界でも魔道具による生活の改善は進歩してきたが、そのスピードが段違いだと思われる。スマホは特にそうである。いろいろな機能がついてこのコンパクトさ。本当にすごい、これさえあれば何でもできる。もし元の世界に戻れたらこれと同じものを作ろう。
他にもまだ前世との違いはある。
・娯楽の種類など豊富である
ラジオやテレビ、マンガにライトノベル、動画に音楽、ゲームなど様々だ。そしてこれらが本当におもしろい。時間を忘れて没頭してしまう、ここは天国ではないかと錯覚してしまうほどだ。前の世界の娯楽はチェスみたいなものしかなかった気がする。
以前の俺、俺が生まれ変わる前の俺、、、
なんかややこしいな。以前のこの体の持ち主は特にマンガやライトノベルが好きだったらしく、これらの本がたくさん部屋にあった。俺はまだまだ全部を把握しきれてはいない。このスマホの中にもどうやらあるらしいと直感でわかる。どういう原理か全くわからない。
面白いのは転生した話がいくつかあることだ。ほとんどが転生先で活躍している、中には勇者になったり国を作ったり、悪魔を退治したりする話が多い。
最初にこれを読んだときには震え上がった。この世界ではこんなにも転生しているヒトがおり、転生先で活躍しているのかと。
もちろん、あとでこれらがファンタジー、物語、フィクションであることを知りがっかりした。でも話の内容は面白く、スカッとするためついつい読んでしまう。これらから学べることは多い。どのようにみんな行動しているかはそれぞれだがみんな活躍をしていることは間違いない。
マンガやライトノベルだけではなく、知識や技術などの本も充実している。前の世界ではこれらはとても高価なものであり、なかなか手には入らなかった。
手に入れても、それが使えるものかどうか、読めるものかどうかがわからないことが大半であった。
それがこの世界では比較的安価で手にはいるようだ。それも印刷術なる技術が進歩したためであろう。
・お金
前世ではお金はあったがあまり使う機会はなかった。亜人の世界でもそうであろう。ほとんどが物々交換で済んでいたのである。というよりも魔力を交換して取引をしてた方が多い。魔力がお金としての価値を見出していた感じだ。
ここでは物々交換という概念はほとんどない。仕事の給料はお金で支給され、食事や物を得る歳にはお金がいる。そして俺にはどうやらお金がないらしい。いや実際にないわけではなくあるが日々の生活をしていけるかどうかというギリギリのラインのようだ。給料の大半を趣味に使っている気がする。まだ金銭感覚とやらは身に付いてはいないが、食事をするだけでも、30日と持たないかもしれない。
そしてなんと英雄には借金がある。借金って?そんなもの前の世界には存在しなかった。魔力を一時的に借りることはあるがそれはもう譲与してるものと同じだ。もしかしたら亜人の世界ではあったのかもしれないが、少なくとも俺はしらない。
さて、その借金とやらはどのくらいあるかというと、、、それはわからなかった。借金のシステムは煩雑でよくわからない。利子?なるものがややこしくしている。とにかく俺には借金があることがわかった。
ここまでの確認を終えるまでに3日以上かかった。インターネットなるものを使えば簡単に情報は手にはいったので簡単だった。ただ、情報量が多すぎてどの情報を信じていいのかを取捨選択するのは一苦労した。
そして、俺は最後に重要なことに気づいた。もっとも最初に気づくべきことであったかもしれない。この転生そのものを覆す大きな発見である。
「俺には何の特殊能力もない」
ほとんどのライトノベルでは何かしらの特殊能力があるのに、不公平だ。これでは転生損ではないか。なんのための転生なんだ。未来が見える魔眼だとか、ドラゴンが封印されている左腕だとか、そういったのはないのか。まあ、ドラゴンはこの世界にはいないようだが、あいつらは隠れるのがとてもうまいからまだ見つかっていないだけかもしれない。
俺は色々と試した。向こうの世界でのいろいろな呪文を言ったりした。なんならスプーン曲げにも挑戦してみたが全く曲がる気配すらしない。この魔法は何の意味があるのだろうか。ただただ貴重な資源を無駄にしているだけではないのか。そもそもスプーンが曲がってもなんの得にもなりそうにないが。
俺は我慢できず、6畳一間で叫んだ 。
「特殊能力のない転生なんてただのハードモードじゃねえかよ!!」
こうして英雄のハードモード人生は始まった。




