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第02話「転生」

気がついたときには部屋にいた。6畳の薄暗く汚い部屋だ。なんかジメジメしている。


「ここは?」


眠たい目を擦りながら俺は起きた。いつのまに眠ってしまっていたのだろうか。なんか体がおかしい。声も少し変だ。なんか少し高くなった気がする。


「エレーナのところに向かおうとして、、、そのあとの記憶があいまい?」


それにしても頭がずきずきする、吐き気もある。こんな状態になるなんて久しぶりだ。魔王の俺が状態異常になるなんて、いったいどういうことなんだ。


「それにしてもジメジメして暑いな」


でも、暑いなんておかしい。俺は天候による暑さは感じないはずだ、そんな脆弱な鍛え方はしていない。こんな暑いなんてことを感じるなんて本当に久しぶりだ。


俺はあたりを見渡した。ここは少し狭い部屋で、どうやら今まで寝ていたようだ。床になんかひいてある。


「夜営でもしたのか、床で寝るなんて久しぶりだな」


俺は再度、自分の置かれている周りを観察する。やはり汚い、ものが多い。こんな部屋なんて近くにあったか?


「一体ここはどこなんだ、前後の記憶が、、、エレーナがつれてきてくれたか?」


ここまでの記憶がぼんやりとかすんでいる。


「しかし、みたことないものばかりだ。この部屋は誰の部屋だ?」


自分の知らないものが多い、用途すらわからない。


「まあ、これは夢か。それにしても変な夢だな。こんなわけもわからいものがいっぱいあるなんて。俺はこれでも魔界の中ではかなりの知識量があったはずだけどな。最近仕事ばかりをしすぎて頭がおかしくなったのか」


俺はため息をつきながら頭を振った。なんか少し軽い感じがする。寝たことで体が軽くなったかもしれない。


「エレーナの言うことは正しかったようだ。最近は働きすぎていたからな、生き急ぐのはよくない。反省反省っと」


少し頭痛もしてきたし、また横になろう。そうすれば変な夢からは冷めるだろう。これからは休養もしかりととることでもっと仕事の効率を図ろうではないか。


俺は目をつぶってゆっくりと横になった。


    * * *


ピロリン!


あれからどのくらいの時間がたっただろうか、何か音がした。俺はさっきと同じ部屋にいた。


さっきまで変な夢を見ていたからあまり寝た気がしない。俺はそう落胆しながらその音の示す方向を見た。


何かが光っている、黒く薄い物体。そこにはこう記されていた。見慣れない文字だが意味は分かる。


『メッセージが1件あります』


俺は驚愕した、そしてすべてを悟った。まだ仮説の段階であるがほとんど間違いない。頭のいい俺だからこんなに早く気づけた。そしてその仮説を確かめるべく俺はあるものを探した。


「なんじゃこりゃー」


俺は部屋の中にある姿見のまえで大声で叫んでいた


俺、転生した。


    * * *


拝啓、エレーナ様


いかがお過ごしでしょうか?


魔界ではそろそろ感謝祭の季節でしょうか?


今年も部署対抗バトル・ロワイアルがあるかと思うと歯がゆい気持ちです。時の流れとは不思議なものです。そっちの世界がどのような時間で流れていたかなど今となっては思い出すことができません。転生してから早いものでもう1年になります。このからだになってからというもの、時が過ぎるのが早い気がします。


この世界はとても面白いです。毎日が新鮮でいつも楽しいです。あ、嘘です。毎日変わらない日々を過ごしております。


そうそう、名前が変わりました。というかはじめましてということになりますかね。


鈴木英雄すずきひでおです。二六歳会社員です。なんとも皮肉な名前ですね。これは勇者って意味もある文字なんです。勇者って名前だとなんだがすごそうな感じもしますが、なんの取り柄もありません。あっ借金はあります。


将来は絶望的です。


無能なやつでもあまり不自由なく生きていける世界が憎いです。いや素晴らしいのか。そっちではすでに死んでいるかもしれないです。生きているか死んでいるかもわからない毎日を過ごしております。こんなことなら前世で早く引退して余生を堪能しておけば良かったと後悔しております。


と愚痴ばかり言ってもしょうがないですね。


この状況で楽しむだけ、簡単な話です。


さあ始めますか、余生


P.S.


この手紙が届いていたら私の部屋の掃除だけはやめてください。


敬具


(1年前)


「なぜ、この文字がわかる。そしてなぜ俺はこの言葉を自然と話している」


俺は自分の部屋にある本や何やら周りから聞こえる音を聞き、それが言葉だとわかることが不思議でしょうがなかった。こんな魔法は聞いたことがない。


そもそも星界と魔界には言語はひとつしかない、大戦後に統一されたのだった。


もちろん地方での方言はあるが、大体一緒だ。


たまに昔の言葉を話す大戦の生き残りなどはいるが、大体が老人同士でしか話さない。俺もかなりの年月を魔界で過ごしてきたがこんな難しい言葉は聞いたことがない。


しかし一つだけ、納得いく回答を俺は知っている。


それは“転生”だ


話は聞いたことがある。ごくまれに転生したものが生まれ世界を変えると。以前に起きた大戦争の亜人を率いていた勇者がその“転生者”であったと。その力は強大であり、魔族の長たちを何人も倒していったと。


その時の魔界の最強の魔族であった邪神と一騎打ちをして相打ちであったらしい。戦争が終わり、両者は深い傷を負い暗黙の了解で領土不可侵が約束された。


この戦争は世界にかなりのダメージを負わせた。その代償は進歩を二百年も遅らせるといわれている。復興に時間がかかり、終結直後は魔族も亜人も生きることで精いっぱいであった。


その時にできたのが魔族会である。魔族会が魔族全体の秩序を生み出したといっても過言ではない。世界征服が魔族の目標であったが、世界征服の意味そのものを変えてしまった。


とまあ話はそれてしまったが、転生者とはそれほどの人物であった。世界を変える人物、歴史を覆す人物、それが転生者というものだ。


しかし、転生する話は聞いたことがない。それもそのはず、転生したら前の世界には何も残らないし、連絡の手段がないからだ。そもそも前の世界から転生した魔族とかいるのだろうか?


だが、俺は転生した。


この世界に転生した。ってことは向こうでは死んだってことか?しかしまだ記憶があいまいで最後どうしていたかがはっきりと思い出せない。


「つまり魔王が勇者になるということか」


思わず笑みがこぼれてしまう、どんな皮肉だよ。


「これで人生勝ち組か、案外あっけないものだったな」


むなしい言霊が静寂な室内でこだまする。言葉を発した後に気づいたが、ここの部屋はとても狭く暑いことを再度感じた。外にはみーんみーんと何か音がしてそれがさらにこの暑さを助長させているようであった。


本当のところ、エーベルハルトの魔族としての素質はそこまでなかった。なぜそんなエーベルトハルトが魔王になったかというと、彼には他にはない才能が一つあった。それは出世欲が人一倍強いということである。


エーベルハルトは魔人だった時に考えた、どうやったら自分は上に上がることができるのかと。魔族会でも出世のために一生懸命働いた。時には卑怯とされることもした。そのため比較的早く魔王のポストに就くことができた、次の大魔王に一番近い存在ともいわれていた。ゆくゆくは魔族会のトップ、邪神になるという目標があっし、周りからもいづれそうなるだろうという期待は感じていた。その途中の転生である。


「俺の一生は順調に進んでいたのにとか最初は思ったけど。転生したら簡単に出世、トップになれるじゃん」


俺は心躍っていった。正直、邪神になれるかどうかはわからないし、なれるにしてもまだまだ時間はかかる。最低でもあと百年はなれそうになかった。今の邪神はまだまだ現役で最強であったからだ。


「これは不幸中の幸いというやつか」


この言葉を初めていったがなぜかしっくりくる。転生とはそんなものかもしれない。


「それにしても、この部屋や暗いし狭いしじめじめしているな、俺を転生させた奴らはどこだ」


周りを見渡してもそれらしき影はない。少し探してみたがこの部屋はそこまで広くない。


収納をするらしきスペースの扉があるだけだ。


俺はこの後、どのようにすればいいかわからなかった。転生したみんなはいったい最初にどうしているのだろうか。わけのわからない異世界に転生してさあやるぞっとなるもんだろうか。そう思える者が転生をしているのだろうか。


途方に暮れているとまたさっきの物体から音がした。


ピロリン


また光る


「この世界の魔道具は進歩しているな。音が出るのと光が出るのと同時にできるなんて」


俺はそうつぶやきながらその光る物体に手を伸ばした。光りのなからか文字が浮かびだした。


『メッセージが届きました』


さっきも同じ文字が出てきたな。そうすると使い方がなんとなくわかった、というより体が勝手に動いて操作をやりだした。体が覚えている感じである。


メッセージアプリまで開き、内容を見る。


From 尾崎『また仕事休みか?』


From 尾崎『部長怒ってるぞ、せめて連絡しとけよ』


やはり意味が分かる。どうやら俺は仕事をしているらしい。というか俺は誰かと入れ替わったみたいだ。


転生とはそういうことなのか、こんなことなら前の勇者のことを詳しく知っておくべきであったと後悔している。俺は少しの後悔をしながら今後の展望に思いを巡らせていた。

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