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努力は恋を裏切らない  作者: 杷木 うきは
第一部 高校1年生編

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20/26

16話 ”可愛い“ の代償



夏休みが明けて、登校日がやってきた



今年は課題が早めに終わっている事もあり、心に余裕がある


清々しい気分で教室のドアをくぐると、黒板を懸命に消している大江と柚香、それを遠巻きに眺めるクラスメイト達という異様な光景広がっていた



「おはよう...どうしたの?これ」

とりあえず2人に近付いて声を掛けると、柚香がこちらを見て、何て言おうか悩んでいる

目には涙を浮かべている


「國塚さんは何も見なくていいですから。」

大江の方は、こちらを見向きもせず一心不乱に黒板を消しながら答えた


見るなと言われると気になる


消し残りの文字を読んでいくと、何となく自分の悪口が書かれていたことが分かる


2人だけにやらせる訳にもいかずに、くるみも文字を消し始めた



HRまでに一通り消せたが、消し跡で黒板が汚い

「おーい、黒板汚いぞー。夏休み初日だからって日直サボるなよー。」

担任が教室に入ってきて呑気にそう言うので大江が物凄くイライラしていた


(大江くんが怒ったとこ初めて見た...)

当事者ではあるが、自分より怒っている人を見ると逆に冷静になってくる



休み時間に柚香に呼び出された


「ちょっと大江が居ないとこで話そ」

「うん。分かった」



人気の無い場所まで行ってから柚香が話を切り出した

「朝のやつ、くるみの悪口が書いてあった。」

「...何となくそうかなって思ってた」


「証拠にもなるし写真撮ってあるんだけど、くるみは見たい?大江には止められてるけど、くるみが決める事だから」

どうやら大江と一悶着あったらしい



悪口を言われているのに、何を言われているのか分からないのは落ち着かない

ありがたく柚香が撮った写真を見せてもらう



書かれている事を見て、そういうことね、と腑に落ちた



“國塚くるみは男に告白させて笑いものにしている“


“次のターゲットは大江和“



他にもあること無いこと沢山、もっと表現を悪く、悪意たっぷりに書き連ねられていた


噂に尾ひれは付きまくっているが、本を正せば自分の行いが招いた事態だ



(あ〜あ。大江くんに性格悪いことバレちゃったな〜...)


大江のイライラは、これを書いた人だけでなく、大江をターゲットにしたくるみにも向けられていたのだろう



「柚香、ありがとう」

「ううん...全然なんにも出来なくてごめん」

柚香が歯を食いしばる


悔しそうな表情をしてくれる友達がいるだけで、どれほど救われることか


(1人じゃないんだ...)



可愛くなるために努力をし始めてから、実は今までにも “こういうこと” はよくあった


全く知らない男の先輩から、俺のこと好きって噂で聞いたと言い寄られたり

友達の友達の彼氏を取られたという、身に覚えのない理由でいちゃもんをつけられたり


”可愛い“ には弊害が付きものだと割り切っている



でも今回だけは、大江とのことがあるのでダメージがデカい




周りからの目線が冷ややかだったので、大江に話しかける事が出来ないまま放課後になった



大江は帰りのHRが終わると1番に教室から出て行ってしまった


(私とはもう関わりたくないよね...)


あの内容を全て読んだのだろうから納得の反応だ


くるみも諦めて帰路に就く




なんとなく家に帰りたくなくて、近くの公園で時間を潰す

本来だったらルーティンを始めないといけない頃だが、今日はサボろうと思い、公園の隅でうずくまった


中学の頃から一度も休む事なく続けてきた習慣なのに、今日だけはどうしてもそんな気になれない



(この公園で一緒にサッカーしたなぁ...)


大江と過ごした時間は楽しい思い出で彩られていて、その分失った痛みで涙が溢れた



ーーーーーーーーーーーーーーー



「くるみ。」

しばらくの間、下を向いてしゃがんでいたが頭上から声をかけられ、そちらを向く



そこには大江が立っていた



「くるみ。こんな所で何してるの。」

「こっちのセリフ...」

大江もしゃがみこんで、くるみと目線を合わせながら、いつもよりも優しい声色で問いかけられる



怒っているか嫌われているかの2択だと思っていたので、心配している様子の大江を見て、涙が洪水のように流れて止まらなくなった


「本当にごめん。辛いときに何も声かけなくて...最低だった。」

くるみが悪口を書かれて泣いていると思っているらしい



「そんなのどうだっていい!大江くんに嫌われちゃうのが嫌だった!」

泣きすぎて鼻水まで出ているが、大江は気にせず抱きしめてくれる



「嫌いにならない。噂じゃなくてくるみ本人を見てるから。」

「うん...」


大江は書かれている事を全く信じていない様子だ





だが、本当の部分もあるので騙しているようで心が苦しい



「あそこに書かれてたこと......少しホントのとこもあるの...」

ポツポツと話し始めた


自尊心を保つために告白ゲームをしていたこと

次のターゲットは大江だったこと



告白させて笑いものにしてた訳ではないが、相手からしたら同じ事だろう



大江は何も言わず黙って真剣に聞いていた


沈黙が肌を突き刺すように感じる


大江の方を見ることが出来ない



(騙したまま付き合うんじゃなくて、正直に言って振られよう...)

本当は騙してでも付き合っていたいが、自分を信じてくれた大江に嘘はつけない














「遊びだったなら申し訳ないけど、俺は別れる気ないから。」

「えっ...!」


急な大江の発言に驚き、少し口が開く


それを押し広げるようにキスをされた


「んっ...?!ん...」

抗議の言葉も出せないように口を塞がれ、手首も掴まれた




どれだけそうしていたか分からない

ようやく解放され乱れた息を整える


ボーっとする頭で何か言おうと考えるが、それより先に大江に手を引かれて、公園の隅よりも目立たないところに立たされる



「続きはこっちでしよっか。」


言い切らない内にまた口を塞がれた



今度は大江の手が服の中に入ってくる



下着のホックを外され、大江の手が直接胸を触る



電流が走るような知らない感覚に思わず突き飛ばした




「...嫌ならもうこういう遊び辞めないと。俺みたいなのに勘違いされるよ。」


諦めたような顔をしながら大江が離れる


「嫌とかじゃ...!」

「まぁ、手を出す方が全面的に悪いか......すみませんでした。」



突き放すような態度をとられ、止まっていた涙がまた出てくる


それを見た大江も泣きそうな表情になる



「ごめん...國塚さん。傷つけたかった訳じゃないんだ...」


涙が一粒落ちた


「泣き止んでほしい。やっぱり國塚さんには笑っててほしい。俺にして欲しいこと何でも言って。」

消えろって言われたら転校でも何でもするから、とつづける




まだ何か言おうとする大江を思いっきり抱きしめる



「私も遊びなんかじゃない!別れないもん...!」



2人の涙が枯れるまで、しばらく抱き合ったまま過ごした





ひとしきり泣いて疲れたので2人で並んで地面に座り込む


「ねぇ。俺なんかに本気って、本気?」


「俺なんかって言わないで。だいすき...だもん」


照れながら伝えると、大江は嬉しそうに笑って額をコツンと合わせてきた



(可愛い...!!!)

大江のイタズラっぽい笑みに胸がキュンとした

















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