12話 夏の悩殺大作戦
「夏休みって予定空いてる?」
柚香のアドバイスに従って、さっそく約束を取り付けに来た
大江はケータイを持っていないらしいので、今のうちに予定を合わせないといけない
「基本勉強しかしてないので予定はいつでも空けられますよ。」
大江はいつも通りの調子で答える
(良かった...嫌われては無さそう)
「じゃあ一緒に海に行きたい!」
悩殺大作戦を素直に実行する訳ではないが、海で遊ぶのはあまりお金がかからないと思い採用した
「海...ですか...」
うーん、と真剣な様子で考え込んでいる
「あんまり好きじゃなかった...?」
「いや、行ったこと無くて、水着とか中学の指定水着しか無いです。」
断り文句を悩んでいた訳ではなく、行くにはどうしようか悩んでくれていて嬉しくなる
「海でがっつり泳ぐ訳じゃないから、Tシャツに短パンとかで大丈夫だよ!」
「そうなんですね。それなら行きたいです。」
約束を取り付けられたので、スマホのカレンダーに予定を入れる
大江も忘れないように日時をメモしている
これだけだと夏休み中に1回しか会えないので、花火大会と、夏休みの課題をやっつける勉強会を4回分お願いした
(これで夏休みも毎週会える!)
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1週目
最初の予定は海だ、9時に駅に集合した
大江はくるみの言った通り白い無地のTシャツに黒い短パンといったシンプルな服装で来た
初めての私服姿に胸がおどる
学校では勉強ばかりしているが、別にメガネをしている訳ではないので、私服姿で合うとガリ勉キャラには見えない
くるみはというと、今までに無いくらい気合いを入れて来た
普段は露出控えめな、デザイン重視の水着を愛用しているが、今回はこの日の為にわざわざ買った新品のビキニを来て、その上から短めの白いTシャツと柄物のロングスカートを合わせている
お腹を出す格好は初なので、おかしくないか不安だったが、集合して早々に大江が安心させてくれた
「おはよう。...今日の格好も素敵です。」
これはもう疑いようもなくデートなのでニヤニヤが止まらなかった
電車に揺られて2時間ほど、ようやく海に着いた
「おー。凄い、海だ。」
大江が初めての海に感動している
水を差すようで悪いが、先にご飯を食べようと提案する
海の家で食べると高いので、弁当を持ってきている
腐らないうちに食べてしまいたい
砂浜にシートを敷いて、風でシートが飛ばないようにカバンを置く
中から弁当を取り出して大江に渡した
「え...!わざわざありがとうございます。今日もお弁当用意してくれてるなんて思ってませんでした。」
凄く嬉しそうな表情だ
「夏休み中も勉強会してもらうもん!これはそのお礼だよ」
大江が気後れしないように伝える
毎回驚くが、大江は細身の体に似合わず凄い量を食べる
徐々に量を増やしてみているが、今回もぺろりと食べてしまった
感心しながら片付けをしている時に気が付いた
(食後だとお腹出ちゃうじゃん!)
気合いでお腹に力を入れ続ける
へそ出しの服なので、もうこうなったら水着姿でも関係ない
半ばヤケになって服を脱いだ
「國塚さん...?!」
「じゃーん!水着着てきたのっ!どう?似合ってる?」
大江は一瞬顔を逸らしたが、すぐにこちらを向いてくれた
「あー、うん。初めて見ました。えっと...その...水着の人間を。」
「???」
何を言っているか分からないが、急に水着の感想を求められて混乱していそうだ
話を逸らしてあげる事にした
「私は水着着てきたけど、泳がないよ!浜辺の方行って遊ぼ!」
コインロッカーに荷物を全てぶち込んで、海に駆け出すと、大江も走って着いてきてくれた
「えへへ!なんかすっごく楽しい!」
まだ海水に辿り着いてもいないのに、楽しさで満面の笑みになる
「俺も楽しい。誘ってくれてありがとう。」
大江も笑顔で答えてくれた
浜辺に着くと、2人で海水に足を浸ける
「冷たっ!ねぇ國塚さん、海水がどのくらいしょっぱいか確かめたいけど、飲んじゃダメですよね?」
「...うーん、辞めといた方がいいかも」
口に入る事はあっても自分から飲むのは衛生的に抵抗がある
その後も大江は初めての海に興奮していた
「見て!カニがいる!」
「わぁ、ほんとだ〜」
カニを追いかける大江の後に着いていく
こうしていると年相応の男の子って感じだ
しばらく探索をして疲れたので、浜辺に足を投げ出して並んで座り込む
波が来るたびふくらはぎまで水が来て気持ちが良い
「あー...波の音って心地いいですね。」
目まで瞑って完全にリラックスしている
まったりしていると、一際大きい波が来て下半身全て水浸しになってしまった
「うわっ!やばっ、パンツまで濡れた...」
あまりに慌てた声を出すので、くるみは思わず声を上げて笑ってしまった
大江はムッとした表情で軽く肩をぶつけてきた
そして肩を触れ合わせたまま見つめてくる
「手、貸して。」
そう言いながら手を繋がれ、そのまましばらく海を眺めた
触れ合っていると緊張で体温が上がる、気温も上がってきているので喉が渇いた
「...喉渇いたね、ロッカーに飲み物入れてるから取りに行ってくるね!」
ここで待ってて、と言って立ちあがろうとするが腕を引かれてバランスを崩す
抱きつくような体勢になってしまい、慌てて離れようとすると更に抱き寄せられた
「國塚さんにとっては関係ないことだけど...」
大江の指がくるみの首筋を撫でる
その指が鎖骨の少し下で止まる
「國塚さんが他の人から狙われてるの、俺が耐えられない。」
そう言って、くるみを立ち上がらせる
「だから、これ着て。飲み物も一緒に取りに行きたい。」
大江は着ていたTシャツを脱いでくるみに着せた
わがままでごめん、と言いながらくるみの手を引く
着せられたシャツから大江の匂いがする
触られたところが熱をもって、体がむずむずする
(あぁ〜どうしよ...もっと触って欲しかった、なんて考えちゃう...)
その後も手を繋いだまま海を散策し、帰路に就いた
大江はズボンが海水で、シャツがくるみの汗で濡れたが着替えが無いので、電車の中では立っていた
くるみも立とうと思ったが、疲れているだろうから、と座らされた
くるみの前に立つ大江をじっと見つめる
「なに?」 と声を出さずに口が動いたので
「すき」 と同じく口だけ動かして答える
大江が笑って口を動かす
「俺も」と言ったように見えた




