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努力は恋を裏切らない  作者: 杷木 うきは
第一部 高校1年生編

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12/26

10.5話 大江の想い



---大江(おおえ) 和(やまと)の話---



5月


前期中間テストのためにノートを貸していたが、わざわざテストが終了した直後に返しに来た


「大江くん♡ノートのおかげで、良い点取れそう!ありがとね♡」

「それなら良かったです。」

心の底から嬉しそうな様子に思わず笑みがこぼれる



(役に立てたみたいで良かった。次のテスト前にも貸したら喜んでくれるかな。)


そんな事を考えていたら、課外授業のグループに誘われていた


適当に人数が足りないところに収まろうと思っていたが、知っている人が居た方がありがたいので入れてもらう事にした



「他には〜柚香と相良くんが居るよ♡」

律儀にメンバー紹介をしてくれているが、まだ入学して1ヶ月、よくノートを借りに来る人以外は覚えていない


(全然知らねー。)

どうでもいいな、と思いつつお茶を飲んでいると

「あっ!あと、課外授業のお弁当、私が作ってきてもいい?」


まさかの提案に、飲んでいたお茶が気管支に入って咽せてしまった


(やばい。また弁当食べたいって思ってたのが顔に出てたかな...?)




課外授業当日


貧乏腹ペコ成長期の大江はこの日の弁当を楽しみにしていた

ワクワクしながらバスに乗り込む


行きのバスの席は相良と隣だ

だが相良は移動中ずっと寝ており、大江も自分から話しかけるタイプじゃないので終始無言だった



バスを降りる直前、後ろの席に座っていた國塚と小松がヒソヒソと話していた

「やばい。もしかして2人仲悪かったかな?」

「水族館の中入ってから別れて行動した方がいいかもね」


ヒソヒソ話に割って入る勇気も無く、そうじゃないんだ...!と心の中で弁明するが、もちろん伝わらない


中に入るとあくまで自然に二手に別れさせられた



(ごめん...國塚さん。小松さんと回りたかったよね...)

気を遣わせた上に、友達と別行動させてしまい罪悪感が募る



だが國塚は予想外に楽しそうだった

(水族館好きなのかな?)



「大江くん...はぐれないように手繋いでいい...?」

水族館の中でも特に暗い深海コーナーで可愛くおねだりされた


あまりに言われたことの無い台詞すぎて爆笑しそうになった

「ん?あはは!デートみたいだね。」


何とか爆笑するのを耐えて手を繋ぐ

手を繋ぐ前はくるみが沢山話しかけて来ていたが、今は黙りこくっている


(もしかして暗いのが怖いのかも。手を繋ぎたかったのも怖いからか。)

出来るだけ話しかけて気を紛らわそうと試みる



「水族館って初めて来たけど楽しいですね。...國塚さん?」

早めに深海コーナーを切り上げて明るい場所に出たが、反応が悪い

疲れていそうだったので昼食を摂る事にした




外はほんのり暖かくて天気がいい

國塚の弁当は相変わらず美味しいし量も多かった


(幸せだなぁ...)

平和なひとときを噛み締める


早めに水族館を出てしまったので、まだ時間がある

ダラダラと話しながら時間を潰していると、國塚から質問された



「大江くんは、背の高い女の子って好き?」

いつもの話し方よりもゆるゆるした話し方をされて、ドキッとする


大江も思わず、以前から思っていた事を口にする


「國塚さんは背が高くてかっこいいと思ってます。」

「えー?かっこいいかぁー。初めて言われたかも」

ふふふ、と笑いながら寝転ぶ姿に目を奪われる


(すごく可愛いな。)



その後も國塚と話して、その可愛さの秘訣を知った

努力して可愛くなっていたのだ


自分も努力して頭が良くなったのに、そんな当たり前の事すら気付けず恥ずかしい


(きっと國塚さんも努力してない人から、良いなー可愛くて、とか言われて来たんだろうな。)


自分がいつも置かれている状況と同じだと知って、親近感が湧いた



ーーーーーーーーーーーーーーー



6月



梅雨の時期ではあるが、熱中症対策のため6月に体育祭をするらしい


クラス長が懸命に出場種目を振り分けている


いつも通り余ったところに入れてもらおうと思っていたら、借り物競走とリレーのアンカーになっていた


まぁ誰もやりたがらないからしょうがないか、というクラスの雰囲気を感じ取る


(今の俺どう見ても運動出来なさそうだもんな。)

諦めムード漂うなか、練習期間が始まった



借り物競走は練習する事が無いので、リレーのバトン渡しと全員参加のダンス練習が主だった


他の種目よりも暇だったので國塚の練習を眺める

小松と一緒に二人三脚に出るようで、懸命に練習している


(楽しそう...あと可愛い。)

男子高校生らしいことを考えながら練習期間が終わった




体育祭本番



國塚はいつもと違った装いをしており、ずば抜けて可愛いので目立っている

他のクラスや学年の男子が話しかけようと隙を窺っている


借り物競走から自席に戻っている途中で國塚が小松と走ってきた

男の先輩らしき人が、2人に声をかけようとしていたので、思わず先に声をかけた


「國塚さん小松さん頑張れ。応援してる。」

小松は手をヒラヒラさせていたが、國塚は無反応だった


(これならわざわざ声かけなくても良かったな。)

他の男を牽制するような自分の行動に、彼氏でも無いのに調子に乗ったな、と反省した



体育祭もラスト1種目になった

リレーのアンカーは荷が重かったが、バトンが回って来た時にはすでに最下位だった

クラスのみんなには悪いが気が楽だ


5位の人は、最下位がのアンカーが大江だからか、どうせ抜かされないだろうと手を抜いて走っている



(流石に腹立つな。)


本気で抜かしにかかると、焦ったようで抜かし返される

知らないうちに1位争いよりも最下位争いの方が盛り上がるレースになっていたらしい


自席に戻ると色々な人から声をかけられるが、本気で疲れていて返事がままならない


体が暑過ぎるが、冷感グッズなんて高級なものは生憎持ち合わせていない

服をパタパタさせて風を送るが、全く体は冷えなかった



リレーが終わり、結果が発表された

残念ながら総合最下位だったが、クラスの人達はそれでも満足そうに打ち上げの話をしている


予約の際に事前に参加するか聞かれていたが、節約のために断っておいた

夜ごはんの1食分で5000円なんて出せる訳ない



盛り上がるクラスメイトに背を向けて帰路に就く

しばらく歩いていると急に後ろから声をかけられた


「大江くん!一緒にごはん食べませんか!」

「え?打ち上げは行かないんですか?」

確か事前に確認されていた時は参加と言っていた筈だ


断られたと思ったのか、國塚がしょんぼりしている

どこに食べに行くのか分からないが、5000円以上になりませんように、と祈りながらOKした



「やったぁ♡じゃあ私の家で良い?」

「えっ...?」

本当に完璧に想定外の事を言われて一瞬頭が真っ白になった


(え?俺今から國塚さんの家に行くの??こんなに汗臭い状態で??)


OKした手前、家だったらやっぱり行かないと言うのも失礼な気がして渋々着いていく



國塚の家は案外学校から近かった

大江の家からもそう遠くない位置だ


どうぞ、と言われるが初めて女の子の家に来たので落ち着かない


そわそわしている内に國塚はテキパキとご飯の準備を進めている、なにか手伝わなければと思って声をかけた


「大丈夫だよ!座っててダーリン♡」

「ダ...!...いや、うん。」


もう何も言わない方がいいな、と諦めて座る

これ以上揶揄われたら余計に緊張してしまう


せめて2人きりじゃなければ、と思いそれとなく両親はいつ帰って来るか聞いたが、残念ながら帰ってこないらしい



(親が居ない家に招くって、なんか色々勘違いしそうで怖いな。)

おそらく國塚はそこまで考えていなさそうだ

のほほんと雑談している


(あー逆に意識して無さすぎて無防備なパターンか。)

それはそれで悲しい気持ちになるが仕方ない

自分で言うのも何だが、勉強一筋の人畜無害感が全身から漂っている



食事の代わりに勉強を教えて欲しいと言われたが、そんな事で良ければいくらでもやる、むしろお礼がしたいのでもっと役に立ちたかった


だが、今日もご馳走になったのに更に弁当まで作ると言われて、嬉しいが負担にならないか不安が勝る


親の許可は取ると約束してくれたので、申し訳ないがお願いすることにした



いい時間になったので、そろそろ帰ろうかと思ったら國塚がハッと立ち上がる


「そういえば!大江くんって何であんなに足速かったの??」

(やっぱり國塚さんにも足遅そうに見えていたんだな。)



特に嘘をつく理由もないので、中学時代は今ほど勉強しておらず、サッカー部に入っていたことを伝える


「だから女慣れしてたの?!」

(どこをどう見たら女慣れしてると思うんだ?)


「......女慣れどころか、彼女も居たこと無いよ...」

國塚から謎の評価をされていることに衝撃を受けた



ーーーーーーーーーーーーーー



翌日



「大江と國塚さん付き合ってるってガチ?!」

クラスメイトの本田から急に声をかけられた


本当は付き合っていて隠している、という訳でもないので正直に答えようとすると、國塚が会話が聞こえそうな位置に居ることに気付いた


「いや。付き合ってないです。」

「そうなん?いやーなんか、2人で歩いてるとこ見たとか、課外授業で手繋いでたとか色々噂されてるからさ!」


(確かに客観的に見て、そんな事してたら俺でも付き合ってるって認識するよな。)

「付き合ってないなら良かったわ!國塚さんのこと狙ってるやつ多いし!」



(...は?)

つまり付き合っていないという事実を、國塚を狙ってる人に伝えるという事だろう

止めたい気持ちはあるが、改めて現実を突き付けられた直後なので、痛い彼氏面は出来ない



朝の会話が聞こえていたのだろう、自分と付き合っているだなんて勘違いされないように、その後は昼休みまで話しかけられなかった


(このままだとご馳走になっただけで、お礼の勉強会が出来なくなりそうだな...流石にもらい逃げは避けたい。)



前一緒に弁当を食べた場所なら分かるかなと思い、教室を出る直前、國塚の方を見て「来て」と合図した


そのまま廊下に出たが、ガタンと椅子が倒れる音が聞こえたので、おそらく國塚に伝わったようだ




急な呼び出しにも関わらず國塚は急いで来てくれた

しかも弁当まで頂いてしまった


國塚は何か言いたそうではあったが、いつも通りの他愛無い話ばかりしている

(もしかして朝の話は触れられたくないのか。)


だからといって、今後も一緒に居る機会は多いので何度も聞かれると面倒...というのは建前で、國塚を狙ってる人とやらへの牽制がしたくて、付き合ってると言いたい



「朝の話、國塚さん聞こえてましたよね?」

「......うん」



これから言おうとしている事は國塚にとって気持ち悪く無いか考え、言い淀む

流石に嫌いな人なら家まで上げないだろうと結論づけて、緊張で声が震えないように深呼吸をした



「付き合ってるって言ったら迷惑ですか?」



「あ。えっと。それは...」



完全に困らせている

(あーくそ。ライン越えだったか。最悪だ...)



我ながらダサいと思うが、急いで誤魔化して立ち去る

言い逃げだったが何とか勉強会の約束は取り付けられた筈だ

國塚が来てくれる事を信じて、放課後教室で勉強しながら待つ事にした



「ごめん!待った?」

「勉強してたので大丈夫ですよ。」

中々来なかったので、正直言ってもう来ないと思っていた


國塚の勉強したいという思いに応えられるよう一生懸命教えたが、普段勉強し慣れて居ない人にはキツかったようだ


目に見えて疲れているので声をかける


「疲れました?今日はもう終わりますか。」

「ううん。まだもう少し...次のページまでお願いしていい?」


負けん気が強いのか、よほどテストで良い点を取りたいのか、どちらにせよ好きな人が同じ土俵に立ってくれるのは存外嬉しい


こういうとこ好きだなと考えていたら、思わず笑みが溢れていた



ーーーーーーーーーーーーーーー



期末考査前、最後の金曜日



平日の勉強会は順調だが、中間考査よりも範囲が広いので、まだ完全に終わっていない


もう来週の月曜日からテストが始まってしまうので、國塚がやりたいのであれば土曜日も勉強しようと思い、誘ってみると二つ返事で了承された



勉強するなら図書館かなと提案したが、またも家に招かれてしまった


もしかして俺のこと好きなのか?という疑問が浮かぶがすぐに打ち消す


(男として意識されてないだけだろ。)



だが、大江も健全な男子高校生なので

「土曜日も両親居ないの♡」なんて言われたら勉強どころでは無くなる



「.........今度は親御さんは居ますか?」

「うん?休みだから居るよ?」


当たり前のことなんで聞くんだろうという表情をされて恥ずかしくなる


(意識してた事バレませんように...)




土曜日



遅れないように早めに家を出たので、9:45には着いていた

だが、呼んだ時間より早く来られると迷惑かどうかで悩んだ結果、ピッタリの時間にチャイムを鳴らすという結論に至った



親が居るとは言われたが、顔を合わせるかどうかは分からない

だが、万が一鉢合わせた際のため、正装(制服)で手土産も持参した


自分でもちょっと気合い入り過ぎていてどうかと思うが、好きな人の家に行くのだから仕方がない



ドアを開けた國塚はTシャツに短パンでおうちスタイルだ

普段バッチリ決めている分、ギャップで初っ端からノックアウトされそうになる


何とか耐えてリビングに行くと、國塚の両親が普通にくつろいでおり、更に緊張する


ガチガチになっていたら國塚が連れ出してくれた

有り難くはあるが、親の前で手を引かれて衝撃を受ける

(手繋いで良かった?!付き合ってるって思われない?!)



案の定下の階から國塚の母親の声が聞こえる

「ちょっとパパ!くるみが彼氏連れて来たわよ!弁当作りたいとか言うから怪しいと思ってたのよ〜」


國塚にも聞こえており、恥ずかしそうにため息を吐いた



「......俺来ても大丈夫だった?」

「大丈夫!こっちこそごめんね...男の子連れて来るの初めてだったから、想像以上にうるさかった〜」

「初めてなんだ...」


(勘違いするな、別に俺の事が好きな訳じゃ無い。)

何度も頭の中で唱えているが勘違いしそうになる


何なら意識して欲しいという下心が日に日に増していく


親が居るなら変なことしないと思ったが、結局部屋で2人きりの状態なので手を出しそうな自分が怖い


(気をつけよう。)

國塚に倣って勉強道具を並べた



なんだかんだで驚くほど集中できたようだ、國塚限定だが

大江は全くと言っていいほど集中出来ないまま昼食の時間になった


全く集中出来なかったので、食後すぐ勉強を再開しようかと思ったが、國塚が休憩したがっていたので休憩する事にした


大江も気疲れしていたので休もうと思った瞬間、國塚が隣に座ってきた



「じゃあいっぱいお話ししようよ♡」

イタズラっぽく笑いながら、至近距離で話しかけられ、顔が赤くなるのを感じる



「ごめん。お話しは良いんだけど、あんまり近いと緊張する。」

赤らんだ顔を手で軽く隠しながら正直に白状する



(マジで...!勘弁してくれ!)


だが抵抗虚しく、逸らした顔を覗き込むように近付かれた



「ねぇ...顔見たい...♡」

いつもより甘い声色で囁かれ、顔を隠している手を掴まれた



(ごめん。)


何に謝っているのかも分からない

だがこれから自分本位の行動に出てしまうのが本能で分かった



理性のタガが外れるというのは、こういう状態なんだな、とどこか冷静な自分も居る



「んっ...」

國塚の声で我に帰る



「!!!...ごめん!嫌でしたよね。」

慌てて手を引いて起き上がらせるが、潤んだ目で見つめられた

流石にそんな可愛い顔で見つめられたら、また手が出そうなので顔を逸らす



「嫌じゃなかった...よ」


凄く嬉しい台詞だが、今言われると困る

「あー......ごめん。お手洗いどこにある?ちょっと頭冷やして来る」



バタバタと國塚の部屋を出てトイレに駆け込む

(何してんだ俺....!!!訴えられてもおかしくないだろ...)


一通り反省会をして頭が冷えてから気付いた


(トイレでって言っちゃったけど、勘違いされて引かれたかも...)


せめて廊下で頭を冷やすと言えば良かったな、と項垂れた






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