21.幸せそうな笑顔
到着した王立自然公園は国が管理していることもあり、景観が特に整えられていて美しい。
おまけに竜の休憩場所も用意されているため、竜にとっても居心地のいい場所だといえる。
「フリューゲル、ゆっくりと降りてくれ」
「ギュ」
フェリクス様が指示をするとフリューゲルが短く返事をして言われた通り、ゆっくりと地上へ降りる。
「ここで待っていて。フリューゲルを預ける手続きをするから」
「はい」
公園を管理する職員の元へ向かうフェリクス様に頷く。フリューゲルとはここで一時お別れだ。
職員がいる建物へ向かうフェリクス様を見送ると、フリューゲルが近付いて私と荷物を交互に見る。
「昼食はもうすぐだと思うわよ?」
「ギュ」
「……食べたいの?」
「ギュッ!」
確認すると頷いて元気な返事が返ってくる。時間は正午を過ぎているからフェリクス様が職員に昼食の手配を頼むはずだけど、どうやら食べたいようだ。
「ふふ、食いしん坊さんね。はい、ドライフルーツよ」
「ギュ!」
笑いながらフリューゲルがほしがっていたドライフルーツを数粒手に取って投げると、上手にキャッチして頬張る。
それをあっという間に飲み込むと、青い瞳がじっとこちらを見つめる。この様子はまだほしいようだ。
食後に食べようと思っていたけど仕方ない。結構な時間、空を飛んでくれたのだから。
「じゃあ、次ね」
「ギュッ!」
再び数粒手に乗せて投げていくと器用にキャッチし、時にはなんと風魔法で自分の方へ引き寄せて食べていく。竜はなんでも食べるからかお肉以外にも魚や果物もよく食べる。
おいしそうに食べるフリューゲルに目を細めていると、フェリクス様が腕にフリューゲル用の昼食を持って戻ってくる。
「エリーゼ? 何か食べ物を持って来てたんだね」
「フェリクス様。ドライフルーツを持って来てて」
「そうなんだ」
問いかけるフェリクス様に答えると、フリューゲルの前に昼食用の籠を置く。
「フリューゲル、昼食だよ。多めに貰ってきたから」
「ギュ」
フリューゲルの頭を撫でながらフェリクス様が呟く。籠の中にはフェリクス様の言う通り、たくさんの焼いたお肉や野菜、果物などが入っている。
「じゃあ行こうか」
「はい。またね、フリューゲル」
「ギュ!」
手を振るとフリューゲルが元気に鳴く。その返事に頬を緩めながら移動する。
ゆっくりとフェリクス様と二人で歩いていく。……歩くペースがいつもよりゆっくりなのは、初めての飛行を経験した私に気を遣ってくれてだろう。
そんなこと考えていると、フェリクス様が口を開く。
「僕たちも遅いけど昼食を摂ろうか。確か、あっちにお店があったはず」
「あ、その……」
「?」
声を上げると不思議そうに灰色の瞳が私を見る。……喜んでくれるだろうか。
緊張しながら立ち止まって私を見るフェリクス様に告げる。
「実は……お昼の、昼食を作ってきたんです」
「……エリーゼが?」
「は、はい」
間を空けて確認するフェリクス様に頷く。未だに緊張して心臓の音がよく聞こえる。
「か、簡単な物なんです。サンドイッチで、屋敷の料理人に見てもらいながら作ったのでまずくはないと思うのですが……」
早口で話すもどんどん声が小さくなっていき、顔も下向きになる。
私の行きたい場所に連れて行ってくれるフェリクス様に何かお礼をしたいと思っていた。それで思いついたのは、料理を作ることだった。
でも、料理をするのは初めてで不安はあった。
だから料理長に簡単な料理を教えてもらい、今日までずっと教えてもらっていた。それこそ、大好きな絵なんて描かずに、ずっと。
たくさん失敗した。指を切った。火傷もしそうになった。それでも、何かお礼をしたいと思ってしまった。
「ど、どうでしょう……」
提案するも声が小さくなる。当日の今日も、隣で見てもらいながら作ったから味は問題ないはずだ。
だけど、話せば話すほど不安が生まれてしまう。……お店の人が作った方がおいしいのは当然だ。……断られたら、どうしよう。
サンドイッチが入ったバックを強く握り締めると、フェリクス様が小さく呟く。
「──しい」
「え?」
聞こえなくて不安に思いながらおずおずと顔を上げる。
そしてその表情に息を呑む。……どうして、そんなに嬉しそうに笑うの?
灰色の瞳は明確に嬉しいという感情を宿していて、普段はあまり表情が変化しないのに今は──幸せそうに笑っていて胸が高鳴る。
「作っているなんて思ってもいなかったからすごく嬉しい。ありがとう」
噛み締めるように感謝の気持ちを紡ぎながら笑うフェリクス様に不安が霧散していく。
同時に胸が嬉しいという感情に包まれて、じんわりと温かくなる。
「なら休憩できる場所へ行こうか。あっちに広い休憩場所があるからそこで食べようか」
「はい」
頷いて、フェリクス様と一緒に休憩場所へ向かう。
そっとフェリクス様を見上げると嬉しそうに口角が柔らかくなっていて、その様子に私も口許が緩む。作ってよかったなと思う。
そしてしばらく歩いていると休憩場所へ到着し、サンドイッチが入ったケースを取り出す。
「本当に、本当に簡単な具材しか入っていませんからね」
「大丈夫だよ。それより見せて」
「……こちらです」
過剰な期待は困るから念を押して簡単な具材だと告げてゆっくりとケースを開く。
開くと色んな具材が入ったサンドイッチが見える。よかった、四角形のケースに入れていて。形が崩れていない。
興味深そうにフェリクス様が前のめりで見る。
「どれもおいしそうだね」
「多めに作ったのでどうぞ。こちらはたまごサンドで、こちらの具材はハムとチーズとレタスです。あと、こちらは茹でた海老の──」
順番にサンドイッチの中身を説明していく。どれも、丁寧に作った物だ。
説明を終えるとフェリクス様が一つ手に取る。
「いただきます」
そして食事の挨拶をすると早速一口含む。……どうだろう。
ドキドキしながら様子を見ているとフェリクス様が微笑む。
「すごくおいしい」
そう呟くとおいしそうに再び頬張り、その様子にほっとする。……よかった、口に合ったみたい。
フェリクス様の反応に安心して私も同じたまごのサンドイッチを食べる。何回も練習したからかおいしい。
そっとフェリクス様を見る。お腹が減っていたのか、それとも元々食べる早いのか、既に二つ目に入っている。
おいしそうに食べる様子を見ながら私ももう一度食べる。……おいしい。だけど、誰かのために作る物は特においしく感じる。
それからしばらくして最後のサンドイッチを完食するとフェリクス様が笑う。
「ごちそうさま。普段から料理していたの?」
「いえ。今回が初めてです」
「そうなんだ。……嬉しい、何かお礼の品を──」
「贈り物とかは結構です。切実に、切実にお願いします」
「そ、そう……」
贈り物を口にするフェリクス様を制止していらないとはっきりと告げる。お礼の品がほしくて作ったわけじゃない。
いらないと伝えるとなぜか落ち込むフェリクス様。どうして落ち込むのだろう。
「……それでは、私のお願いを聞いてくれますか?」
「何?」
お願いするとすぐに立ち直って聞き返す。早いなと思う。
そう思いながらゆっくりと尋ねる。
「どれが一番おいしかったですか?」
「……全部かな」
「真面目に答えてください」
「本当だよ。どれもおいしくてまた食べたいくらい」
「…………」
まっすぐと向けられた視線と言葉に声が出ない。……まさか、そんな答えが返ってくれるとは思っていなかった。
次に出かけるのはいつか分からない。でも──せっかく覚えたのだから、また作るのもいいかもしれない。
「……それでは、また作りますね」
「本当?」
「はい」
目を丸めて確認するフェリクス様に頷く。次は鶏肉を使った照り焼きなども作ろう。
「ありがとう、楽しみ」
そして頷く私にフェリクス様が嬉しそうに、幸せそうに笑ってお礼を言った。




