表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は竜騎士との婚約を解消したい  作者: 水瀬
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/37

14.変化したこと 

 フェリクス様と個展へ出かけてから、一ヵ月が経った。

 その間にそれぞれの家でお茶会を二回行い、フェリクス様と交流を重ねた。


 お茶会ということは、当然会話が多い。そして、フェリクス様は元々口数が少ない方だ。

 それでも彼なりに自分の口数の少なさを改善しようと思ったのか、今まで相槌中心だったのを変えるようになった。


 そのおかげか会話も長続きするようになり、ここ二回のお茶会は以前よりも居心地が悪くないと思ったのが正直な感想だ。


「──へぇ、フェリクス様とお茶会ね」

「うん」

「ふーん、なるほどね。もう、道理で最近予定が多くて会えないなって思っていたら、そんな修羅場を繰り広げていたなんて」

「修羅場って……」


 呟くアルベルタに声が出る。修羅場って、大袈裟だと思う。

 部屋でお茶をするのは私とアルベルタで、甘いクッキーの香りが部屋を包み込む。


「そうに決まっているでしょう? 婚約者からいきなり婚約解消されるのよ? フェリクス様、絶対に驚いたわよ」

「……どうだろう。体調は悪そうだったけど」

「体調が? ……それ、エリーゼのせいよ」

「私の?」

「ええ」


 はっきりと断言するアルベルタに首を傾げる。どうして婚約の解消と体調が関係するのだろう。

 考えても分からないでいると、アルベルタが再び口を開く。


「でも出かけたのはいいけど、出かけた先がエリオットの個展だなんて。ふ……あはははっ! 他にも個展を開催している画家はいるのによりにもよってエリオットのチケットを入手するなんて!」

 

 最初は堪えていたアルベルタだったが、とうとう堪えきれなくなったのか話を聞いてついに大笑いする。


「私も到着した時『どうしてエリオットなの?』って思って固まったわ」

「ふふ、そうよね。で? 個展とレストランのお礼に茶葉を贈ったのよね?」

「うん」

「それって普通の茶葉よね?」

「健康にいいと言われている茶葉だけど、ごく普通に売られている茶葉よ」

「そのお礼がエメラルドのネックレス。いやいや、重い重い」


 セルマに続いてアルベルタも重いと呟く。やっぱり世間一般からしてフェリクス様の行動は重いと思うようだ。


「あー、面白い。私は遠目からしか見たことなかったけど、フェリクス様って面白い人なのね。高低差がありすぎて風邪引きそう」

「……それは私も思ったわ。違いすぎて、同一人物と思えないくらいで」


 アルベルタの発言に同意する。本当に同一人物か怪しくなるくらい、婚約解消を口にする前と後の違いが大きすぎて驚いてしまう。


「でもフェリクス様もフェリクス様だけど、エリーゼもよく婚約解消を決意したわね。貴族の娘が婚約を解消するのってよくないでしょう? 伯爵夫妻もよく納得してくれたわよね」

「……お父様もお母様も権力を求める人じゃないから。それに、貴族社会は腹の探り合いが多いけど、私はあまりそういうのが得意とは言えないから」


 アルベルタの問いに目を伏せて答える。

 侯爵夫人になったら社交界に多く出る必要があり、必然と腹の探り合いに参加することになる。お姉様のように権謀術数を跳ね返すくらい魔法の才能があればいいけれど、残念ながら私にはないためその点、不利になる。

 

「貴族の生活にも執着がなかったから、画家で稼いだお金で郊外に小さな家を建てて、使用人一人くらい雇ってのんびり過ごすのもいいなって思っていたの」

「なるほどね」

「その計画も、今は頓挫しているけどね」


 苦笑しながら呟く。私の勝手で婚約を解消するのだから、せめて家族には迷惑をかけまいと将来は郊外に小さな家を買うのもいいなと密かに考えていた。幸い、エリオットの活動で資金は十分貯まっていたかったから。

 でも結果的に婚約の継続となって、その計画も頓挫しているところだ。


「それで? 婚約は一応継続中って認識でいいの?」

「うん」

「じゃあ、フェリクス様は首の皮一枚繋がっている状態ってことね。もう、エリーゼったら前回会った時そんなこと一言も話してなかったでしょう。私、ちょっと怒ってるのよ?」

「確定してから話した方がいいと思ったんだもの。結果的に婚約は継続しているでしょう?」


 不機嫌な様子を見せるアルベルタを宥めるために彼女の方にクッキーを差し出すと、クッキーの方を見て手に取る。

 そして、サクッと音を鳴らして味わって幸せそうに頬に手を添える。おいしいようで何より。


「でもお茶会が二回に外出が一回ねぇ。以前は月に一度のお茶会だけだったんでしょう? 飛躍的に進歩している感じでなんだかちょっと安心したわ」

「……私も、予想外の出来事に驚いている」


 クッキーを頬張りながら呟くアルベルタに頷く。

 十年以上の付き合いがあるアルベルタは私に婚約者がいることはもちろん知っている。そして――私たちの関係が冷え切っていることも。


 侯爵家の後継ぎであるフェリクス様は父親の侯爵の隣で領地運営にも携わる必要がある。だから、休みの度に会っているわけではない。

 それでも、会うことはなくても文通をするようになり、今日は何があったか、どんなことをしたかなど些細なことをお互いに便箋に綴って送り合っている。

 お茶会の日程を相談する以外にフェリクス様と文通をする日が来るなんて思いもしなかった。忙しいから、と断られると思い切っていたから。

 全ての始まりはあの日。婚約を解消しようとフェリクス様に提案してから、私たちの関係が大きく変化しているのが分かる。


「まぁ、始まりはどうであれ、お互いを理解するいいきっかけになったんじゃない?」

「きっかけ……」


 アルベルタの言葉を復唱する。……確かに、いいきっかけになったかもしれない。

 今までのお茶会は私が話題を出してフェリクス様が短く受け答えをするくらいだった。

 でも、ここ最近のお茶会はフェリクス様からも私に話しを振ってくれて、以前のような静かなお茶会ではなくなり、居心地が悪くない。

 その変化に戸惑いながらも――なぜか、胸がほんのりと温かくなる。


「あ、そういえば、この間受け取った絵だけど」

「何かあったの?」


 ここにはいないフェリクス様を思い浮かべて考えていると、アルベルタが絵の話をして意識をそちらへ向ける。この間受け取った絵、ということは前回渡した夏の避暑地の絵に何かあったのだろうか。

 心配な気持ちで問いかけると、笑いながら首を振られる。


「安心して、悪い話じゃないわ。実は買い手がついたんだけど、それが誰だと思う?」

「誰なの?」

「なんとあのウォートン公爵家よ! 公爵夫人が絵を集めるのが好きでエリーゼの絵を見てほしいって言ってくれたのよ」

「え、本当に?」


 アルベルタの話に目を見開く。アルベルタも興奮しているのか、頬が朱色に染まって嬉しそうに語る。

 ウォートン公爵夫人のことは知っている。母と同年代の穏やかな性格で芸術好きな夫人と知られていて、社交界でも影響力の強い女性だ。

 

「すごいじゃない、エリーゼ! なんでもエリオット・ケぺルの個展を見て素敵だって思ったみたいよ。次の絵も楽しみにしているって言っていたわ」

「本当? ウォートン公爵夫人にそう言われるなんて……。光栄だわ」


 アルベルタの言葉に笑みが零れる。芸術に造詣が深いウォートン公爵夫人に認められるのは嬉しい。

 同時に思う。――二年前、アルベルタが私の絵を見出してくれなかったら、こんな幸せな、嬉しい気持ちを味わうことできなかったはずだ。

 そう思うと彼女には感謝してもしきれない。私の、人生を変えてくれた友人なのだから。


「……ねぇ、エリーゼ。フェリクス様に、エリオットのこと話したら?」

「え?」


 透明にも見える淡い水色の瞳を見る。その瞳から真剣な様子が窺える。……フェリクス様に、私がエリオット・ケぺルだと明かす?


「エリーゼが趣味で絵を描いているって思っているんでしょう? それに対して特に眉を顰めなかったのでしょう?」

「それはそうだけど……。むしろ、スケッチブックを贈って来たくらいだし……」

「なら、言っても大丈夫じゃないかしら。──私はフェリクス様と話したことないけれど、あの人、顔はいいけど不器用な人に見えるもの」


 アルベルタの発言に目を丸める。……不器用? あの、世間から完璧な竜騎士と呼ばれるフェリクス様が?


「……何それ」

「私の直感よ。実際、私の勘はそこそこ当たるのよ?」


 そして優しく私に向けてそう語りかけると時間だから、と言って帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ