13.豪華になっていくプレゼント
フェリクス様と個展を見た翌日、手紙が届いた。
「え、フェリクス様から?」
「はい!」
元気に頷くセルマから封を受け取り、裏面を見る。
差出人の名前はフェリクス様で、彼の字だ。一応、お茶会の開催による連絡でずっと手紙を書いていたのでフェリクス様の字は分かっている。
ペーパーナイフで切って封を丸型の白いテーブルに置き、中から手紙を取り出して読んでいく。
手紙の内容は贈った茶葉のお礼で、美しい字で感謝の文章が綴られている。侯爵家の執務の時にでも飲んでほしいと思う。
「贈ってよかった」
最後まで読んでポツリとひとりごとが零れる。
天空の支配者である竜の背に乗る竜騎士は健康を求められる。いくら契約している竜の加護があっても、高度の高い空中から落下したら生命はないに等しいからだ。
フリューゲルは風を司る竜だから、竜の中でも特に空中飛行が得意だ。だけど、主人のフェリクス様が体調を崩している中で飛行するのは危険だ。
「それでエリーゼお嬢様。フェリクス様からプレゼントが届いております」
「プレゼント?」
セルマの発言に目を丸める。手紙ならまだしも、どうしてフェリクス様からプレゼントが?
「見てください、素敵な花束ですよ」
「本当。わぁ……きれい」
渡されたのはガーベラをはじめとする色とりどりの春の花束で、顔を近付けると花の香りがして気分がよくなる。もしかして、侯爵家の庭園のものかもしれない。
同時に思う。……勝手に体調を心配しただけなのに、プレゼントを贈ってくれるなんて。真面目で律儀な人だと思う。
そんなこと思っていると、セルマが微笑みながら声を上げる。
「ふふ、明るい色合いが多いですね」
「そうね。私の好きな明るい色が多いわ」
花束を抱えながらじっと見る。花束には私の好きなオレンジや黄色、淡い桃色の花などがたくさんあり、笑みが零れる。
「あとで花瓶に飾りましょう。用意しますね」
「うん、お願い」
頷いて花に長持ちできるようにセルマに花瓶を用意してもらい、日当たりのいい窓際に飾ったのだった。
***
二日目、朝食を終えて部屋に行くとセルマが嬉しそうに話しかけてくる。
「エリーゼお嬢様! 本日もフェリクス様からプレゼントが来ました!」
「……フェリクス様から?」
「はい、本日はお菓子ですよ!」
セルマが見せてきたのは丁寧に包装された缶のクッキーだ。
缶には店名が記されている。確か、貴族の令嬢や夫人の中で人気のお店だ。
それと一緒にフェリクス様から手紙を受け取って中身を読む。本日も短いながらも美しいメッセージが綴られている。
「おいしそうね。あとで食べるわ」
「それでは本日のティータイムで用意しますね」
「うん」
笑いながら呟くセルマに頷いた。
***
三日目。再びセルマからフェリクス様からプレゼントが届いたと報告を受ける。
「今日も?」
「はい。今日はスケッチブックですよ」
「本当? 少なくなっていたからよかったわ」
大きなスケッチブックに笑みが零れる。それでデッサンするのもいいなと思う。今のスケッチブックを使い切ったら使おう。
スケッチブックと一緒に短いながらもフェリクス様が綴った手紙に目を通した。
***
四日目。またしてもフェリクス様からプレゼントが届いた。
「本日はレターセットですね。見てください、かわいらしいですよ。フェリクス様へのお手紙に使ってはどうですか?」
「……そうね」
セルマの進言に相槌する。使ってみるのもいいかもしれないけど……茶葉のお礼にしては少し多すぎないだろうか。
「こちらはお手紙です。ふふ、最近フェリクス様からプレゼントが贈られますね」
「あははは……」
ニコニコと、嬉しそうに笑うセルマに対してどう反応していいか分からない。だから、曖昧に笑って誤魔化した。
***
五日目。今日もプレゼントが届いた。
「本日は茶葉ですよ。しかも王室御用達のところですよ」
「本当だ。これ、高いのに……」
贈られてきたのは王室御用達の茶葉の専門店の高級茶葉で少し驚く。今日も届くなんて。
手紙も見つけて目を通す。今日もフェリクス様が自ら書いた字だ。
毎日届くプレゼントと手紙に驚くけど、それでも、そろそろ終わるだろうと勝手に思っていた。
***
立ち尽くすしかなかった。
さすがに昨日で終わりだろうと思っていたから。昨日の茶葉は王室御用達の品で受け取るのもちょっと迷ったくらいのものだった。
だけど今日の贈り物は、昨日の茶葉を大きく超えていた。
六日目。さすがに六日も連続で届いたプレゼントに狼狽えた様子のセルマと一緒に中身を開けると固まるしかなかった。
「え、エリーゼお嬢様。これは……」
「……エメラルドのアクセサリー、ね」
贈られたプレゼントは私と瞳と似た、光輝く大きなエメラルドのネックレスで顔が引きつる。ついにアクセサリーが来た。
手紙には瞳に似てきれいだったから、と流麗な字で綴られていた。……これは、さすがに受け取れない。
今までのはさほどお金のかかる品物ではなかったから拒否して返すのもどうかと思って受け取っていた。いや、王室御用達の茶葉だけは少し迷ったけど。
しかし、さすがに装飾品は受け取れない。私が贈ったのは普通の茶葉で、そのお礼でエメラルドのネックレスを貰うのは、どう考えてもおかしいじゃないか。
「返す」
机へ向かって一番上にあったレターセットを取って便箋にいらないので返す、と綴る。
ついでに記念日でもないのにアクセサリーを頻繁に贈るのはよくないと付け加える。いくらローギウス侯爵家が裕福でも何度も高価なアクセサリーをプレゼントしたら心配になってくる。
綴ると部屋を出て回廊を歩いて行く。向かう先は使用人の統括を担う家令の元だ。
「バートン!」
「お嬢様? 如何なさいましたか?」
突然の訪問に目を丸めながら尋ねるのは家令のバートン。私が生まれる前から家令をする古参の使用人だ。
驚くバートンに手紙と例のエメラルドのネックレスが入った箱を渡す。
「これは?」
「フェリクス様からの贈り物よ。でも返したいの。早急に手配できる?」
「それはできますが……よろしいので?」
「ええ。受け取っても困るから」
確認するバートンにはっきりと断言する。私はアクセサリーなんて求めていない。
「……かしこまりました。それではこちらは早急に送るようにいたします」
「お願いね」
受け取るとバートンが了承の言葉を零す。長年伯爵家に仕えるバートンならすぐに手配してくれるだろう。
長居して迷惑をかけるわけにはいかないので退室すると疲れが押し寄せる。……まさか、アクセサリーまで贈ってくるなんて。
溜め息を零しているとセルマが話しかけてくる。
「さすがにびっくりしましたね……。すごく大きなエメラルドでしたね」
「本当。竜騎士団の給料がいいのがよく分かる品だったわ」
部屋に戻ると時計の針はまだ午前中を差している。なのに少し疲れてしまった。もう、アクセサリーは贈らないでほしい。
そんなこと思っているとセルマが困ったような、不安そうな顔を浮かべていることに気付く。
「どうしたの?」
「あ、いえ。その……」
「もしかして、フェリクス様のこと?」
言い淀むセルマに問いかける。たった今までフェリクス様のことで話していたからだ。
フェリクス様の名前を挙げると、ぎくりと固まる。
「は、はい。その、ここ数日の行動を見て少し思うところがあって……」
「どんな? 秘密にするから教えて?」
迷いながらセルマが小さく口にする。なので約束をして続きを促す。
「……約束ですよ? エリーゼお嬢様からの贈り物が嬉しかったんだと思いますが……その、ちょっと重いなと思って」
「重い」
はっきりと言うセルマに復唱する。……確かに茶葉一つでここ数日の贈り物の数々。うん、重い。
切実に、茶葉のお礼にこれ以上、贈り物はしないでほしいと願った。
ちなみにエリーゼが使ったレターセット、実はフェリクスが贈ったレターセットです。本人は気付かずに一番上のものを使用していますが。




