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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第14章 おとぎの国の魔女

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14-5 報告 (4)

「数は必須とは言え、数を出しても無力化される可能性もある。難しい判断だな」



 状況を理解したフェルディナンド陛下は、腕を組みながら唸り声をあげます。


 こちらの軍備が心もとないというのが正直なところでしょう。



(なにしろ、我が国の優位性は“数的優位”にありますからね。それを覆される可能性をどの陣営も持ち合わせているのが難題です)



 法王聖下おにいさまの“言霊プネウマ”は、集団戦での威力が大き過ぎます。


 それこそ、一声かければ部隊が丸ごと離反する可能性があるのですから。


 兵士全員が全員、神の声を無視できるほど強靭な精神は持ち合わせていません。


 そして、レオーネの後ろにはネーレロッソ大公国がチラついています。


 あそこは“フチーレ”の量産を進めているとの話があります。


 ずらりと並ぶ銃火の隊列は、金属の甲冑すら穿うがつ優れた兵器。


 これの攻略も考えねばならないのが厄介ですわね。



「陛下、思案があるのですが、よろしいでしょうか?」



 ここで声を上げたのがヘアの隅で控えていたアゾット。


 皆の視線が私の従者に集まり、陛下も直答の許可を首肯で示されました。


 アゾットは一礼の後、口を開く。



「出撃する兵を“騎兵”で統一されるのが良いかと具申いたします」



「ほう、騎兵のみか」



「その利点は2つございます」



「聞こうか」



「まず、“移動速度”です。歩兵を随伴させますと速度が落ちます。騎兵のみであれば、あるいはジュリエッタを乗せた馬車が中央大聖堂グラン・カテドラルに到着する前に補足できるかもしれません」



「それはそうかもしれんが、“伏兵”がいた場合は?」



「そのため、“囮を兼ねた斥候役”を先行させます。それに食いついて来れば、後続の本隊でこれを蹂躙すればよろしい」



 そう言ってアゾットは私に視線を向ける。


 その瞬間、ピンときました。


 その“囮役”を私がやるのだと言いたげですね。



「アゾット、お前、主人に囮になれと言うのか?」



「我が主人ならば、どこからでも(・・・・・・)一人なら(・・・・)大丈夫・・・では?」



「そういう話ね。できれば、ギリギリまで使いたくはないのですが」



「そうも言ってられないでしょう。ジュリエッタの正体がバレた瞬間に殺される可能性がある以上、とにかく迅速に動くべきです」



「一理ありますわね、その言」



 今、私の着ている“純白のドレス”は強力な仕掛けがしてあります。


 もし相手が“初見”であれば、確実に勝てるほどの。


 あるいは、どんな危地からも逃げおおせるくらいには硬い(・・)



「陛下、アゾットの言うように、私自身が先行してジュリエッタを追いかけましょう。陛下は部隊を率いて後から追っていただければ幸いです」



「おいおい、一人で大丈夫なのか?」



「なんとかなりますし、何より“利用価値”が高いので、私自身はどの勢力も生け捕りが望ましいでしょうしね。命の心配は現段階では心配しておりません」



「大胆に動くな。確実性はあるのか?」



「ご心配なく。“絶対”に大丈夫ですから」



「そうまで言うなら先行は認めよう」



 自信満々に言う私に、陛下が折れてくれました。


 “信頼”があればこその回答。


 ここがアウディオラと私の差ですわね。


 陛下が“二人の姉”に抱く感情は、大きな隔たりがあります。


 私に対しては“信頼”を。


 アウディオラに対しては“後悔”を。


 “仮面ペルソナ”の有無がそうさせるのでしょう。



「其れでアゾットよ、他の利点はなんだ?」



「用意する騎兵を全て“軽騎兵”にする事です」



「やはり速度重視というわけか?」



「それもありますが、全員に“クロスボウ”を装備させます」



「騎射戦術か!」



「現段階で“フチーレ”に対抗する策として、騎射戦術による一撃離脱が最適です」



「なるほど。射程の長さで言えば、“銃”より“弩”の方がある。そこに“足”を加えれば空振りを誘って引っ掻き回せると言う事か」



「立ち止まって弾込めをしなければならない“銃”と、馬を走らせながらバネを巻けば二の矢を用意できる“弩”。威力には劣りますが、速度と射程で優位になれましょう」



 さすがはアゾット、目の付け所が良い。


 私も何度か“銃”を使う場面に出くわしましたが、弾込めがかなり面倒であるとの印象があります。


 弾、そして、火薬、それらを詰めねばならないのですから、走りながらでは手元が狂って上手くできないでしょう。


 弩であれば、取り回しの良い小型の物であれば、馬上でもネジを巻ける。


 逃げながら矢を再装填する事も可能です。


 あとは足の速さと射程の長さを生かして、チマチマ削っていく。


 現状では最適解でしょう。



「陛下、私もアゾットの案に賛成いたします。現状では最良でありましょう」



「そう思う根拠は?」



「銃兵は重装備ができないと言う事です。重たい鎧を着込んでは、複雑な操作がやりにくいと言う点です。現に、今まで出会って来た銃を扱う者は、皆軽装でした」



「ならば、重歩兵と隊列を組むと言う選択肢もあるぞ? 盾持ちの重歩兵を前面に配置し、その隙間から撃って来るという戦術もとれる」



「それならばそれで、余計に足が遅くなります。防衛の布陣としては陛下の言う通りの効果が発揮されるでしょうが、“機動戦”には対応できません」



「結局は“速度”か」



「ジュリエッタの確保が優先です。それこそ、“戦わずに迂回する”という事さえも選択肢に入って来るのですから」



「……よかろう。すぐに準備させる」



 陛下もすんなり受け入れてくれましたわね。


 下手な考え休むに似たり。


 今はとにかく出立の準備を整える事。


 できれば、ジュリエッタが中央大聖堂グラン・カテドラルに到着する前に追い付ければよいのですけどね。


 ここからは時間との勝負ですわ!

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