14-4 報告 (3)
「とにかく、状況を話せ。ジュリエッタの件はそれ次第だ」
椅子に腰かけ、ひとまずは冷静さを取り戻されたフェルディナンド陛下。
効く姿勢を取ってくれた事にはまずは感謝を。
姉アウディオラの事になると冷静さを損ないますが、それでも“もう一人の姉”である私の言葉に耳を傾けないようでは、お話になりませんからね。
そして、私は一呼吸置いてから説明を始める。
こちらが知りうる情報のすべてをです。
チェンニー伯爵家の“穢れなき血”の秘密。
その中に“共感”を使って、“異物”が紛れ込んでいた事。
そして、その異物は伯爵家のみならず、国の中枢にまで平然と闊歩できるほどに浸透してしまっていた事。
最後は引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、私の替え玉であったジュリエッタを連れて行かせる事で、こちらを誘引している事。
洗いざらい全部話しました。
陛下の面持ちは神妙。
強いて言えば、やり場のない“怒り”と、どうしようもない“失望感”がせめぎ合っているかのような、そんな顔です。
(まあ、無理もありませんわね。姉が実は自分の側近くにいて、全く気付く事が出来なかったのですから)
『処女食い』の事件の時、陛下は最前線まで出張っており、斬った張ったでヴォイヤー公爵を追い詰めました。
ところが、そのヴォイヤー公爵がアウディオラと“共感”していました。
目の前にいたのに気付けなかったのは、陛下としても自分に怒りたくもなりましょうか。
それに、オクタヴィア叔母様もですわね。
叔母様は陛下の“夜遊び”の事を知る数少ない人物。
当然、私への指名予約も叔母様経由ですからね。
その叔母様もまた、アウディオラと“共感”した成れ果て。
秘密を知ってしまった今となっては、姉(私)とイチャコラするためにオクタヴィア叔母様(中身はアウディオラ)に口添えしてもらっていた事になります。
そんな状態だったのかと、恥と情けなさに絶望してもおかしくはありません。
(まあ、オクタヴィア叔母様に関しては、完全に私の落ち度ですわね。毎日顔を会わせていたというのに、アウディオラに入れ替わっていた事に気付かなかったのですから、むしろお叱りを受けねばなりませんわ)
気付いていれば、防げていた事件もある。
近くに“敵”がいた事に気付かず、情報を“お肌の触れ合い”に由らずに抜き取られていたのですから、参謀失格です。
その点では、密偵頭のアルベルト様がより重い責任となりましょうが、それが分かっているだけにちらりと見る表情は暗い。
普段は仮面をしていても、今は人払い中ですので、それは外しております。
陛下と双子であり、その顔立ちがそっくりなだけに、落ち込む表情もまた似ておりますわね。
どちらも今は顔面蒼白と言ったところでありましょうか。
「……で、陛下、全てを知ったご感想は?」
「意地の悪い魔女だ。今の私の表情を見て分からんのか?」
「お気持ちはお察しいたしますが、“決断”していただかない事には、ここに居並ぶ者が動けませんので」
本来なら、全ての手順を飛ばし、自分で動かせる人員のみでジュリエッタの救出に向かうところです。
しかし、それでは足りない。
性悪なレオーネやアウディオラの事ですから、こちらが動けば必ず罠や伏兵でこちらを攻撃して来るでしょう。
まずはそれを弾き返せるだけの人手が欲しい。
それを用意できるのは、陛下しかいません。
アルベルト様も動かせる人員には限りがありますし、少々心もとない。
ゴスラー様も領地に戻れば相応の数を用意できるでしょうが、準備に時間がかかりすぎます。
選択の余地など、始めからないのですから。
「それで、魔女としてはどう対処すべきだと考える?」
「動かせるだけの軍を招集し、中央大聖堂に向けて進軍するべきと具申いたします」
「どう考えても、教会に宣戦布告する事になるな」
「どのみち、袂を別つのは分かり切っていた事。むしろ、単独で事に当たるよりかは、各勢力が入り乱れる今こそ立つべきでしょう」
「それすら、姉上の掌の上ではないか?」
「ですが、レオーネと結託している以上、ネーレロッソ大公国も動く事は確実です」
「少数精鋭で動いては、逆に数でやられるか」
「なので、こちらも相応の数を用意しておかねばなりません」
もちろん、数を揃える事は重要ですが、懸念材料もあります。
それは法王聖下の使う“言霊”です。
(あれは人を強制的に従わせる力がありますからね。あれの前では数は無力! しかし、数を揃えない事にはネーレロッソに利する事になります)
これにはレオーネがどれほど準備して来るかですわね。
レオーネは“言霊”の対抗手段を知っている。
それは我を忘れるレベルで“雲上人”に敵愾心を抱く事。
あるいは世の仕組みに疑問を持ち、彼らに一切畏怖しない事。
(ここにいる顔触れであれば心配はいらない。全員が明確な目的意識があり、“言霊”に惑わされる事なく、自分を見失う事はないでしょう。問題は率いていく“兵士”)
陛下の命で戦っている兵士ではダメ。
神と、その教えを統括する教会への畏怖がある限り、言葉に惑わされる。
“言霊”の前では、耐性を持たない者は無力どころか、造反の危険すらあるのです。
数を揃えなければならないというのに、数を無力にしてしまう存在も同時にいる。
なんと言う葛藤。
厄介な状況を作ってくれますわね、魔女というものは!




