14-2 報告 (1)
宮殿に参内した私達は、フェルディナンド陛下への謁見を求めました。
普段であれば、このような早朝からの謁見は有り得ないのですが、そこは近侍も察するもの。
密偵頭のアルベルト様に加え、ゴスラー様、ユリウス様が揃っておりますので、すぐに只事ではないとご理解いただけました。
「大公陛下は今、執務室におられます。あちこちから取り急ぎの報告が入っておりまして、それの処理に……」
その言葉を聞き、アルベルト様が頷く。
公都ゼーナには、諜報部の人員が各所に配置されており、昨今の情勢に合わせて情報収集や、要所、要人の監視を行わせていたはず。
そして、昨夜の騒ぎです。
寝て、起きて、報告が山積みになっている事でしょう。
(まあ、こちらが直接話した方が早いでしょう)
極秘情報が頭の中にてんこ盛りになっているのが、私達ですからね。
“替え玉”の件もそうですし、チェンニー伯爵家の内情、アウディオラ生存の話、そして、次期に起こるであろう中央大聖堂での騒動。
そのいずれも中心にいるのが、ヌイヴェル=イノテア=デ=ファルスという姿は白く、腹は黒い魔女なのですから。
そんなバカバカしい事を自嘲しつつ陛下の執務室に入ると、中にいた十数名の官吏がこちらを振り向く。
そして、その視線のすべてが私に注がれた。
陛下も含めて、全員が同じ目をしています。
「なんで魔女がここにいるの!?」と。
「あれ? ヌイヴェルあ、あね、あ、いや、その」
フェルディナンド陛下は完全に動揺しておりますわね。
他人に漏れてはいけない“姉”の文言が漏れ出るあたり、まだ寝ぼけているのかと説教の一つでもしたくなりますが、そこは我慢。
堂々とその前に進み出ました。
「陛下、話せば長くなるので、ひとまずはお人払いを願えますか?」
「お、おう。お前達、下がってよいぞ」
陛下より退出を求められた官吏達は、一礼の後、部屋を退去していきました。
執務室の残ったのは、私、フェルディナンド陛下、アルベルト様、ゴスラー様、ユリウス様、そして、アゾットの6名。
アゾットも退出させても良かったかもしれませんが、まあ、この者からは助言を受けるかもしれませんのでそのまま残留。
この場で唯一、貴族でない庶民なので、居心地が悪そうですわね。
無言でこちらを見て、勘弁してくださいと視線で抗議してきておりますが、そこは完全に無視しておきましょう。
「いや、本当になぜここに!? 中央大聖堂の連中が連れて行ったと報告を受けたところだぞ!?」
「情報を渡していなかった諜報員の方々も、まんまと騙されていたのは重畳」
「では、“替え玉”か何かか!?」
「はい。ネフ司教様やヴェルナー司祭様の手引きで、途中からジュリエッタにすり替わっておりました」
「なるほどな。……という事は、教会の連中に連れて行かれたのは赤毛娘か!?」
「そういう事になります。よもや、この時期に私の身柄の確保を強行してくるとは考えず、すり替わった時期に重なって、ジュリエッタが身代わりに……」
毎度毎度、ろくな事をしませんわね、中央の連中は!
権力闘争?
大いに結構!
足の引っ張り合い?
好きなだけどうぞ!
しかし、こちらにまで火の粉を振りかけないでいただきたいものです。
「……だが、分かっているとは思うが、助けには行けんぞ?」
「それは重々承知しておりますが……」
まあ、陛下の判断は正しい。
知己とは言え、たかが娼婦一人を助けるために“国”が動くはずもなし。
下手に動いて、睨まれる事だけは避けなくてはなりません。
教会に対しても、自国民に対しても、です。
そう、これは分かり切っていた事。
だからこそ、ユリウス様も苦い顔をしております。
明確に拒絶されたのですから。
しかし、そこは食い下がります。
「陛下! ジュリエッタを助けに行くべきです!」
「ユリウス、あまりわがままを言うなよ。チェンニー伯爵家がメチャクチャになってしまった件は聞いた。ジュリエッタと寄りを戻したいと考えるのは勝手だが、今のお前の立場はそんな子供のお遊戯感覚でどうこうできるものではない」
「それは承知しております。ですが、“母上”が関係していると言ってもですか?」
ここで切り出しますか、ユリウス様は。
まあ、アウディオラの件で陛下を動かすしか手はありませんからね。
意外な情報の提示に、陛下は目を見開き、驚かれました。
「待て、ユリウス。それはどういう事だ? 姉上がなんだと?」
「ですから、生きていたのですよ、母上が! それも今回の事件の黒幕として!」
「なんだと!?」
さあ、ここからは引けなくなりましたよ。
姉の事を知れば、陛下は確実に暴走する。
それを制御していかなくてはなりません。
ジュリエッタを助けつつ、アウディオラも抑え込む。
難しい舵取りが始まりますわね。




