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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第14章 おとぎの国の魔女

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14-1 夜明けの参内

 朝日が顔を出し、人々が寝ぼけ眼をこすりながら動き出す時間。


 一日の中で最も心地よく、そして、寝床の温もりを名残惜しみ、そこより飛び出す事を怠惰と惰眠の悪魔が縛り付ける。


 なお、そんな夢見心地は今の私には存在しません。


 なにしろ“徹夜明け”でございますので。


 しかも、私だけではなく、同じく連れ立って宮殿に参内した者全員がそう。


 密偵頭のアルベルト様は完徹に慣れているのか、動作に微塵の乱れもなし。


 職業柄、闇夜に紛れて動き回る事も多々ございますし、その点は流石。


 アールジェント侯爵のゴスラー様は、お構いなしに大あくび。


 大貴族の当主にしては品のない姿ではございますが、見栄えというものにはあまり頓着しない御仁ですからね。


 チロール伯爵のユリウス様は若さゆえか、多少表情が固いだけで、なお活力をみなぎらせております。


 もっとも、みなぎっていると言うよりかは、興奮状態で気を鎮めることができないと言った方が適当でありましょうか。


 なにしろ、9年前に事故死したと思っていた母アウディオラが生きていて、しかもジェノヴェーゼ大公国で起きてきた数々の事件に関して、裏で意図を引いていた事を自白しらのですから、さあ大変。


 私も双子の姉(正確には三つ子)が生きていた事には驚きました。


 しかし、初めて素顔を見た時、その顔は私にそっくり。


 髪型や衣装こそ違いましたが、顔はまるで鏡を見ているかのようでした。


 “気球”に乗ってまんまと逃げられましたが、行き先は既に分かっています。


 教会の総本山である中央大聖堂グラン・カテドラル


 そこで“何か”を仕掛けるつもりなのは明白。


 魔女レオーネも、アウディオラも、世界を支配する“雲上人セレスティアーレ”には恨み骨髄。


 復讐を果たさんと、あちこちの勢力を焚き付けていたというわけです。


 もしできるのであれば、入念に準備を整え、それこそ後から駆け付けて殴りつけるのが一番でしょう。


 戦場では、最後まで立っていた者の勝ち。


 それは決して“強者”ではなく、“上手く立ち回れた者”の事を指す。


 二匹の獣を相争わせ、傷ついたところに横槍を入れるのが最良。


 それは分かっています。


 しかし、私の妹分のジュリエッタが連れて行かれました。


 しかも、私の替え玉として虜になっていたところを、私と間違えられて連れて行かれたという厄介な状況。


 新しい世界の鍵である私の身柄ならばいざ知らず、ただの娼婦であるジュリエッタには価値はない。


 最悪、貴人を謀った罪で即刻処刑などという事態にもなりかねません。


 時間がないのはそういう話です。


 ユリウス様が焦っているのも、母の件もそうですし、“別れた恋人”への未練もあって、とにかく落ち着いていません。


 むしろ、冷静さを保っているだけでも大したものです。


 肝が据わっていると言う点では、とても18歳にもなっていない若者とは思えないほどに固まっておられます。



「さて、それでは皆々様、色んな意味での覚悟、よろしいでしょうか?」



 一同を見渡し、再度の確認。


 ここから先はもう引き返せない。


 フェルディナンド陛下の耳に、昨夜の出来事を入れてしまえば、もう世界の破滅は免れない。


 破滅と言うよりかは、“再構築”と呼んだ方が適当かもしれませんが、少なくとも世界は変わるのは間違いありません。


 恨み、妬み、怒り、負の感情が世界を覆うのか。


 それとも、愛と慈しみが世界を導いていくのか。


 それは誰にも分かりません。


 なにしろ、“早い者勝ち”ですから。


 時間は有限であり、“その時”は刻一刻と迫る。


 それを分かるだけに、顔触れに一人の例外なく、決意と共に首肯。


 覚悟は固まった。


 ならばと宮殿へと入る。


 私、アルベルト様、ゴスラー様、ユリウス様、あと、従者のアゾット。


 以上の五名、朝日が昇る中でも早めの参内。


 この報告がどうい結果を招くのか、いささか頭が痛いですわ。


 許されるならさっさと徹夜明けの体を寝台の上に投げ出したい。


 そんなささやかな願いを思いつつも、それを頭の隅へと追いやり、いざ決戦前の打ち合わせと参りましょうか。


 そう意気込みながら、宮殿の廊下を一歩一歩踏みしめながら進みました。

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