表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第13章 死体は語らず、ただ指し示す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

508/520

13-77 支配からの脱却

「これでまた一つ、枷が外れましたね」



 私はしみじみと思う。


 それに対して、アゾットもまた頷く。


 この世界は地獄であり、“雲上人セレスティアーレ”によって管理されています。


 あるいは、見張られているとも言えましょうか。


 かつて存在したという神への反逆行為と、それに敗れた悪しき存在を閉じ込めておくのがこの世界。


 我々人間はその邪悪な存在の尖兵の成れ果てである、と。



「生命にとっては、無限に広がる宇宙すら狭いもの。ここが閉じた世界であるというのであれば、いずれその殻を破る時が来る」



「錬金術の極意ですな。“人間”というものへの考察。そして、その真逆にあるのが“人造人間ホムンクルス”とも」



「“作られた人間”には、限られた空間でしか生きられない。伝承にて伝わる通りであれば、人造人間ホムンクルスは限られた空間、例えば生み出されたフラスコの中でしか生きられないとも言う」



「つまり、現段階での人類は、その域に逗留しているというのが、ヌイヴェル様のお考えでしょうか?」



「そう。創造主より作られた存在から、殻を打ち破る真に独立した生命体へ。その過渡期に至ったのではというのが私の考え……。いえ、むしろ、これはカトリーナお婆様に誘導されたものなのかもしれません」



 むしろ、ここへ来て確信へと変わりました。


 人を人たらしめるのは、“意志”あればこそ。


 我思う、ゆえに我あり。


 自分を肯定し、その上で“神”を疑えと。



「疑問、疑念こそ、“盲信”を打ち破る唯一無二の処方箋」



「神への拒絶こそ、大魔女の望みであると?」



「拒絶や否定ではありません。強いて言うなれば“独立”です」



「独立……」



「魔女の奉じる神の名は“自由リベルタ”。自由とは、言い換えれば“責任を負う”と言う事でもあります。自らで考え、行動し、その結果を甘んじて受け入れる。神は祈る対象ではなく、自らの心に神殿を建て、そこに感じるという事」



「では、あの魔女二人はそれに従っていると?」



「世界が大きく変わるのです。管理者である“雲上人セレスティアーレ”を超える力を、地上の人々が身に付けつつあるのですから」



「それが”フチーレ”であると?」



「気球や蒸気機関も含めてね。要するに、神の恩寵だの魔術だのではなく、人が考えて考案した道具の数々、それが神の与えたもう奇跡を超えようとしているのです」



 それは神の用意した便利な魔術の否定。


 恩寵の篤さによって変わる奇跡ではなく、世界に潜む方程式に手奇跡を超える力を行使する。


 それこそが“変革”なのですから。



「“雲上人セレスティアーレ”による支配の要は二点」



「天王の持つ“千里眼”と、法王の持つ“言霊”ですね?」



「そう。これが強烈極まる。聖なる山アラアラート山の頂にある天宮サントアリオに天皇は座し、地上を“千里眼”にて監視しています」



「何か問題あらば、そこに祓魔師エゾルジスタを派遣し、これに対処」



「対象が“怪物”であればその通り。しかし、討伐対象が“人間”であれば、法王よりの有難いお言葉でこれを鎮める」



「統治機構としては完璧ではありますが、それもほころび(・・・・)が生じて来た」



「端緒となったのは『ラキアートの動乱』。ここで人類は“言霊”への耐性を得られる事を知ってしまった」



 百年前の事件ではありますが、今の揺れ動く時代の先駆けですからね。


 あれが無ければ今がない。


 強引に押さえ付けようとした結果、人類は逆に強くなってしまった。


 押さえ付けたバネのごとく、反発力が生じた。


 その集約された特異点こそ、“カトリーナ=イノテア=デ=ファルス”。


 すなわち、私がお婆様と呼ぶ“母”にして“大魔女”。



「そして、その娘や弟子が世界を変えていく。気球によって、もはや“雲上人セレスティアーレ”の住処はもはや高見・・ではなくなった」



「響く“銃声”は“言霊”を打ち消す血生臭くも陽気な“口笛ピスタラ”」



「そして、まだ現実世界では完成しておりませんが、蒸気機関もまた世界を一変させるでしょう。馬に乗れない者も、煙吹き出す鋼鉄の馬にその身を預ける事となる」



「いずれも魔女が生み出した、“復讐”のための道具」



「世界から、神から、“独立”せよと」



「この世が地獄であるならば、世界と言う殻を打ち破るか、それとも神の意志に反して、地獄を楽園に作り変えるか」



「私は後者を選択しました。しかし、レオーネとアウディオラは前者を選択……。その際の流血を許容した上で」



「ヌイヴェル様はそれを止めると?」



「当然ですよ。やり方があまりにも私のそれとは違う」



 自然と目をやるのは、布にくるまれたアリーシャ様の遺体。


 “目の病気”ゆえの暴走ですが、こうも無残な姿を晒すのはあまりにも不憫。


 そして、彼女をそそのかし、利用するだけ利用して、殺しただけに留まらず、その遺体にまで辱めを与えたのです。


 許すわけにはいかない。


 なにより、これを平然と成す者を、新世界の支配者などにしてはならない。


 今、明確に私はあの二人を倒す事を決意しました。


 “自由”とは、決して“混沌”ではない。


 それを教え込まねばなりません。


 たとえどれほどの時間がかかろうとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ