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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第13章 死体は語らず、ただ指し示す

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13-75 魔女は箒を使わず空を飛ぶ (2)

「実に爽快な眺めよ~。ヌイヴェル、あなたもどうかしら?」



 空を飛ぶアウディオラの声が響く。


 それは衝撃的な光景です。


 翼を持たぬ人間は空を飛ぶ事はできない。


 それでも魔女は箒に跨り空を飛ぶ。


 しかし、それはあくまで“おとぎ話”での話。


 実際に空を飛ぶなど、ユラハのような人ならざる者にでもならない限りは、魔女と言えども不可能だと考えていました。


 ところが今、魔女が空を飛んでいる。


 箒ではなく、巨大な球形の布に吊り下げられた籠に乗って。



「どうかしら、ジェノヴェーゼの魔女! 私の作った“気球”は!」



 今度はアウディオラの横にいるレオーネが叫ぶ。


 ご自慢の発明品を見せびらかし、実にご満悦といったご様子。


 実際、私は呆気に取られており、見上げる事しかできない。


 それでも思考を止めないのは魔女としてのサガでありましょうか。


 知識の信奉者にして探究者なのですから、目の前の真新しい品に興味を惹かれてしまう。


 そして、それは同じく私の隣で空を見上げるアゾットも同じ。


 すぐに分析を始める。



「アゾット、“アレ”はどう思う?」



「重要なのは、あの球状の布の真下にある暖炉ではないかと」



 アゾットの指摘通り、籠の上部に火が見えます。


 そこからすぐに計算と思考を繰り返し、一つの答えを導き出しました。



「なるほど、“熱膨張”か!」



「おそらくは……。暖炉で空気を温め、体積を膨張させ、それを布で受け止めているのではないかと」



「同じ重さの物であれば、体積が膨張すればするほど、物質は密度が薄れていく。空気を熱してそれを行っているのね。そうして、布の中の空気と、周囲の空気の密度の差が浮力を生み出している」



「言うのは簡単ですが、並大抵の事ではないですな」



「そうよねね。気密性の高い布やそれをしっかりと縫合する技術。それに、火力を安定させないと、布に火が移ってしまう」



「そして、大きさもですな。軽くなった空気を詰めれば浮力を得られますが、人間を

2人分に加えて炉や燃料の重さを考えますと、あの大きさになりますか」



 熱膨張を利用するという発想もさることながら、浮かび上がらせる重さも全て計算し尽くさなくては実用に耐えられない。


 しかし、二人は本当に飛んでいる。


 これでは追跡する事もできませんわ。



「随分とまあ、呑気に考察できるわね、ヌイヴェル」



「自由な発想の下に、あれこれ考察するのが魔女というものですからね」



「その割には、“形”になっているものがないわよ」



「あいにくと、私は心の中に巣くう魔女ですから」



 まあ、これは本当にそう思っている事。


 カトリーナお婆様もそうですし、アウディオラやレオーネにしても、その“自由な発想”によって、数々の発明品を生み出しています。


 世に出れば、それこそ社会が変わるようなものを。


 慣習や法律に縛られる事なく、異端のものであろうとも、知識と技術を重んじるのが魔女という存在。


 ただまあ、私の場合は“口八丁いいくるめ”で人の心を理解し、操り、誘導する事に重きを置いておりますからね。


 発明家や思想家ではなく、“娼婦”という客商売に特化した魔女ですから。


 “形を作る”という点では、他の魔女に比べて劣ってると言わざるを得ませんか。



「それで、そんな御大層なものでどうするつもりで? それこそ、空から奇襲を仕掛けるなり、あるいは届かぬ高見から“フチーレ”を撃ちますか?」



「フフフ……。その発想にすぐに辿り着けるだけ、大したものね」



「高所に陣取るのは戦術の基本ですからね。空を飛べるとなると、戦場は平面から立体的なものへと変じる」



「そう。気球を使って一気に“山”を落としに行くのよ、これから!」



「山……。まさか、アラアラート山を!?」



「まさか空から奇襲されるとは思わないでしょうからね!」



 またアウディオラの高笑いが響き、その横のレオーネも拍手で喜びを表現。


 “雲上人セレスティアーレ”の住まう文字通りの雲の上にあるという天宮サントアリオ


 そこを目指して、空から攻撃を仕掛けるなど、なんという大胆さ!



「あ、ちなみに、こういうのもあるから」



 そう言って、レオーネが何か火の(・・)点いた(・・・)球体・・を放り投げてきました。


 何かは分かりませんでしたが、本能が告げる。


 これは危険である、と。



「全員、逃げなさい!」



 叫び、そして、球体から離れる様に地面を転がるように逃げる。


 周囲の顔触れもそれに倣い、慌てて逃げる。


 そして、僅かに遅れて強烈な爆発音。


 球体が爆ぜ、熱風、爆炎、それらが周囲を焦がす。


 しかも、あろうことかアリーシャ様の死体も巻き込んで。



「アハハハハハッ! ごめんなさぁ~い、ついうっかり! 庶民の私と違って、御貴族様は“土葬”だったわね!」



 すでに下半身は先程の仕掛けによって焦げ付いていましたが、今度は上半身もお構いなく焼いてしまった。


 衣服は焼け、あるいは敗れ、顔も見るも無残な姿。


 それを見下ろしながら、2種の笑い声が響く。


 レオーネの高笑いは実に不快ですわね。


 絶対にわざとだと分かる、一切心のこもっていない詫び文句。


 同じににやけるアウディオラも、もはやそこに大公女プリンチペーサとしての礼節や矜持など微塵もありません。



(今のはおそらく“火薬”を詰めたもの。導火線と引っ付け、相手に投げれば強烈な爆発を生む。あんなものが一斉に投げ込まれたら……!)



 気球に加えて、爆発玉、そして、“フチーレ”。


 間違いなく旧態依然とした軍隊は、これに対抗できない。


 確実に世界は変わる。


 そして、あの二人であれば“言霊プネウマ”も無視できるでしょう。


 神の言葉に耳を塞ぐ魔女が、いよいよ世界を変える。


 それだけの力を得てしまった。


 2人は間違いなく“力”に酔っている。


 どうにかしないと、本当にこんなろくでなしが新たな世界の支配者になってしまいますわね!


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