13-74 魔女は箒を使わず空を飛ぶ (1)
全てを失ってしまったマルコ様にかける言葉もありません。
今回の事件、マルコ様は被害者、あるいは傍観者でしたからね。
近親相姦を繰り返す事によって“純血”を維持した一族の中に、ごく普通な恋愛観、家庭観を持つ常人が生まれた事による悲劇。
父であるジョルジュ様から妹と結婚するように命じられ、その妹であるベアトリン、アリーシャ様から誘惑され、関係がこじれにこじれた結果が今。
自分以外の全員がいなくなってしまわれました。
救いがないとはこういう事を言うのでしょうか。
(思っていた通り、後味の悪い結果になりましたわね)
まあ、それもこれも余計な入れ知恵や策を弄したアウディオラやレオーネが悪いのですけどね。
ジェノヴェーゼ大公国を混乱に貶めるためにチェンニー伯爵家を策源地とし、利用するだけ利用した後、最後に大炎上させて撤収。
本当に許せませんわね、あの二人は!
「さて、これからどうしましょうか?」
はっきりと言えば、やる事があまりにも多すぎる。
現在、アルベルト様とゴスラー様がアウディオラを追跡中。
こちらはお任せするよりなく、上手く捕縛できれば重畳。
まあ、ここまで計算ずくの行動を取ったアウディオラですし、逃亡するための手段くらいは用意しているでしょう。
そう考えると、捕まえて尋問するという道筋は望み薄。
そもそも、アウディオラが生きていたと知れば、フェルディナンド陛下が絶対に尋問やらを許すとは思えませんので、しばらくは秘する方が得策でしょうか。
しかし、それはそれで面倒。
すでに各勢力は動いている状況。
吸い寄せられるかのように、中央大聖堂に集結するように仕向けられていると言った方が適当でありましょうか。
しかも、ジュリエッタを餌とし、アウディオラ自身の存在を誇示する事で、こちらの主だった顔触れを呼び込んでいるのは明白。
性悪なレオーネやアウディオラの考える事ですから、ろくでもない事なのは確実でありましょう。
(問題はその後……。言動から二人の“雲上人”への恨みは相当なものですので、“復讐”が完了するまではその殲滅に動くでしょう。互いに信用していないからこそ、逆に“そこ”までは裏切らないし、裏切る利もない)
その後の展開は“早い者勝ち”と言っておりましたからね。
ならば、こちらもそれに便乗するまで。
まあ、便乗というよりかは強制参加に近い。
血の宿命か、家族への愛情か、それとも世界への復讐か。
どのみち、誰も彼もが無事では済まない。
私としては程々に“反省”してもらった後、安寧に過ごして欲しいものですが。
どれを優先的に行動するべきか、あれこれ思案を巡らせていると、ふと見上げた“月”が妙に欠けている事に気付きました。
「のう、アゾット、今日は確か“半月”に近かったですわね?」
「ですね」
「ならばなぜ今、月は“三日月”になっておる?」
「え?」
アゾットも空を見上げ、月の姿を確認する。
私の目にもそう映っている様に、アゾットの目にもそれが奇妙に映ったのか、驚きの表情を見せる。
しかし、我が従者は冷静でした。
腰に下げていた望遠鏡を手にし、月を眺めたのです。
「あ、あれは、月が欠けているのではありません! 何か“黒い球体”が浮かんでいるようです!」
「黒い球体ですって!?」
「その下に大きな籠でも吊り下げられています! 人影が2つ!」
私も目を凝らしてみましたが、さすがに距離があって望遠鏡ほど見えません。
しかし、それは徐々に大きくなる。
正確には近付いてくる。
まるで夜風に吹かれて漂うタンポポの綿毛のように。
そして、それが何であるのかがようやく見えてきました。
それは巨大な布を球形にしたもので、その真下に篝火と籠がぶら下がっている物。
徐々に近づいてくるその物体の籠には、確かに2つの人影が見えます。
その片方はアウディオラであり、もう1人はあろう事かレオーネでした。
しかも、こちらを挑発するためか、あえて仮面を外して醜い素顔を晒しています。
挑発的な笑みすら見えてきました。
「魔女が空を飛んでいる!? 箒も使わずに!?」
おとぎ話の魔女ではなく、現実の世界の魔女は空を飛ぶのに箒は使わない。
少なくとも、アウディオラやレオーネは箒を必要としていない。
なんと言う事でしょうか。
見上げる私と、見下ろすアウディオラとレオーネ。
そこまで差がついてしまっているのだと、“高さ”がそれを証明してしまっている。
どこまでもこちらを嘲笑ってきますわね、この2人は!




