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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第13章 死体は語らず、ただ指し示す

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13-71 裏切りと報酬 (4)

「父上がベアトリンに手を出していたのだ」



 マルコ様より明かされたチェンニー伯爵家内で行われていた恐るべき事実。


 父親が娘(認知せず)に手を出していたのだと。


 一族の“純血の証”である目の病を得て捨て子とされ、伯爵家が経営する孤児院へ。


 そして、分家筋への養子縁組と、“正妻ないし正妻候補”の住処である別邸に押し込めて準備完了。


 そこに次期当主であるマルコ様が通い、“契り”を交わして次世代の夫婦が完成するはずでした。



(……が、ここで大いなる誤算。身内を恋愛対象とする伯爵家において、“普通の感性”を持って生れて来たマルコ様と言う異端児・・・。結果、マルコ様は未認知とはいえ、実妹との結婚を拒否し、事態がこじれてしまった)



 “普通”を許さぬ“純血の一族”の悪習。


 マルコ様はベアトリンを拒否し、アリーシャ様もまた拒否してしまった。


 マルコ様にとっては、どこまでも2人は“妹”でしかなく、“将来の妻”にはなり得なかった。


 それゆえにジョルジュ様が“最終解決”を図ったのでしょう。



(そう。書類上の形式的のみの夫婦に留めるにしても、それでは後が続かない。絶対に次の世代に繋ぐ“子供”が必須。ゆえに、ジョルジュ様はベアトリンに手を出し、孕ませ、それをマルコ様とベアトリンの間に生まれた子として扱う。それで一族の純血を紡いでいけると)



 バカげた話ではありますが、当事者達にとっては大真面目。


 なんとしてでも世代を繋ぐ子供を欲するジョルジュ様。


 実妹を花嫁とする事を拒絶するマルコ様。


 一族の定めとして、兄の花嫁となる事となったベアトリン。


 身内しか愛せない一族の感性に抗えず、他家に嫁ぐ事を拒否したアリーシャ様。


 この複雑な家庭内事情に、アウディオラやレオーネが入れ知恵を差し込み、より事態がこじれてしまったのが現在の状況。


 全体像が見えてきたとはいえ、これでは(・・・・)誰も(・・)救われない(・・・・・)


 なんという愚かしい状況でありましょうか。



「マルコ様、チェンニー伯爵家の内部で血を交わらせてきたのは分かりました。しかし、それでもやはり“親と子”の関係は禁忌であったと?」



「そうだ。原初の人間にまつわる神話の事を考えれば、“兄妹婚”である事が望ましいが、都合よく生まれてくるとは限らない。なので、分家筋にも結婚できる範囲を広めたのだ」



「そして、その一族である事の証として、“目の病気”を拠り所としたと」



「ああ。例え分家の者であったとしても、“目の病気”を発現できた者は、次期当主やその花嫁の候補となる。逆に本家の生まれであろうとも、“目の病気”がなければ本家の嫡男になれなかったり、あるいは他家へと降嫁したりもする」



「しかし、マルコ様には“目の病気”が出ておられない様子ですが?」



「その通りだ。本来なら私は本家の嫡男にはなれないはずであった。しかし、ここで神よりの罰がいよいよ降りかかった。今の伯爵家には、分家筋も含めて、“次代を担う男児”が私しかいないのだ」



 見えざる苦痛の重圧に圧し潰されるがごとく、マルコ様が声を絞り出す。


 つまるところ、マルコ様が“純血の証”を持つ妹を娶らない限り、伯爵家は血縁的に断絶する危機にあると言う事というわけですか。


 まあ、そんなものは感傷の産物。


 マルコ様は血縁的には伯爵家本家筋の嫡男である事には変わりませんから。


 あくまで、“目の病気”が発言しなかった健康体であり、“普通”であれば喜ぶべき事なのですが、そこは家庭内の特殊事情がそれを阻む。


 病気を持つ者こそ一族の血をより濃く受け継ぐと言う発想から、マルコ様は本来不適格なれど、他に男子がいないがために特例として本家の長子ゆえに継嗣となる。


 しかし、それでは“純血”を保てない。


 そうであるならば、証を持つ妹を娶らなくては、次期当主としての責務を果たせず、お家断絶などという事態に苦しんでおられた。


 妹を妻とする事を良しとしない、という“人としての普通の感性”。


 貴族家の当主として次世代の子供を残さなくてはならない、という“貴族としての普通の感性”


 どこまでも噛み合わない特殊な家庭内事情と普通な感性。


 よくもまあ、今まで発狂せずに表面だけでも取り繕えたものだと、マルコ様の忍耐力には脱帽してしまいますわね。



(これは本当に着地点がない……! ベアトリンがアウディオラに取り込まれた以上、アリーシャ様との兄妹婚を成立させなければなりませんが、そんな事はマルコ様本人が認めませんし、事情を知ったからにはここにいる顔触れも反対しなければなりません)



 特に、アリーシャ様の“元”婚約者であるユリウス様は礼部の幹部ですからね。


 貴族の婚姻を統括する部署でありますし、“兄妹婚”は法律上、認められておりませんので反対しなければなりません。


 これがあるからこそ、チェンニー伯爵家は孤児院を利用して、身内から選出された将来の伯爵夫人を“捨て子”扱いにしてから養子縁組をして招き入れたという、かなり回りくどい方法をとって来ました。


 それもこれも、こうした裏事情を隠蔽するための工作!


 今となってはそれも無駄に終わりましたが。


 そんな事あれこれ思案していた時です。


 突如として轟音が響き渡ったのです。


 バァァァン、と。


 それは“銃声”。


 誰かが“フチーレ”を放った音。


 誰が銃を?


 それはアリーシャ様でした。


 “拳銃ピストイア”と呼ばれる小型の銃で、その銃口はベアトリンに向けられていました。


 口からなお、火薬が爆ぜた匂いと共に煙が上がる。


 姉が妹に向けて発砲した事を意味する。


 しかし、外れてしまったのか、ベアトリンは傷一つなし。



「もういい加減うんざりしてきましたし、ここらで幕引きしましょう」



 銃口を向けたまま、アリーシャがベアトリンに言い放ちました。


 しかし、姿こそ妹であっても、その中身はすでにアウディオラ。


 何を思うか、アウディオラに同化したベアトリンはただニヤリと笑うだけでした。

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