13-66 絶望と共感 (4)
しかし、どうにも効率が悪く感じます。
高度な共感を得る事により、相手と同化すると言う魔術自体は恐ろしいものがあります。
現に、何人もの人物が取り込まれ、アウディオラの良い様に使われています。
しかし、“今”はそれを披露するのはどうにもおかしい。
(この場にいる顔触れ、全員に“絶対的な価値観”を有する信念の持ち主ばかりですからね。とても説得に応じて心変わりするとは思えない)
アルベルト様には密偵頭としての矜持がありますからね。
裏に表に動き回り、兄であるフェルディナンド陛下を支えてきました。
“絶対の契約”がある以上、それを翻させるのはまず不可能。
例えそれが“姉”からの説得であろうとも。
ゴスラー様は軽い性格に見えて、一本筋を通される御方。
現に、マリアンヌと結婚してからは女性と浮名を流す話は一切聞こえてきませんし、それはそれは大変仲睦まじい夫婦と評判。
絶世の美女からのお誘いも、妻の笑顔に比べれば鼻で笑うがごとき小事でしょう。
ユリウス様とて、固い信念と真っ直ぐな誠実さの持ち主。
その確固たるものは“母親”からも太鼓判を押すほど。
母からの誘いさえも、妄想人の戯言として耳を貸しませんでした。
アゾットにしても、医者としての本分が最優先ですからね。
病やケガの苦しみから患者を救いあげる事を使命とする実直な医師。
そういう意味においては、欲望の赴くままに振る舞おうとするアウディオラとは、相性最悪と言えるでしょう。
心配なのはオノーレくらいでしょうが、こちらはつい先日、グノーシス様に反省を促されましたからね。
エイラとのいざこざで、多少は堪え性というものを覚えました。
私が見張っておけば、まあ誘いに乗るような阿呆な真似はしないでしょう。
(先程、アウディオラ自身が述べたように、“共感”した者の共通点は“奪われた者”だという事です。そして、この場にいるのは“守るべきものがある者”ばかり。つまり、同化した者達とは真逆の存在!)
信念があるからこそ折れない。
アウディオラがこちらの内情をつぶさに観察していたと言うのであれば、単純な説得による引き抜きは不可能だと理解しているはず。
それこそ、“お肌の触れ合い”による情報収集を行って、より深部の思考に触れ、同調しない事には話にならないのは明白。
しかし、肌に触れようと距離を詰める様子は一切なし。
にもかかわらず、どこまでも余裕の態度なのが解せません。
(アルベルト様は右腕を負傷なさっておいでとは言え、こちらにはゴスラー様がいる。いかにアウディオラが同化したルーポゥ様の剣技を使いこなそうと、ゴスラー様とアルベルト様に挟まれて勝てるとは思えません)
ゆえに、魔女の勘が背筋を張って警告を与えてきます。
まだ何か“隠し玉”を持っている。
それこそ“命綱”程度ものであったとしても、やはり警戒は怠れません。
そして、その“隠し玉”とは何なのか、と。
「……ねえ、レオーネは息災かしら?」
「ええ。忙しなく走り回っていますよ。なにしろ、十年以上の歳月を費やした計画が、いよいよ形となって動き出す際まで来ているのです。これで高揚するなと言う方が無理ですわね」
「ちゃんと連携は取れているのかしら?」
「ああ、離間策を用いるつもりなら無駄よ。レオーネとはガッチリとした“同盟”を結んでいますので」
「ほほう。“絶対ではない契約”に意味があると? ましてやレオーネ相手に」
「その点は心配してないわ。何しろ、“雲上人”を転がして、高みから引きずり下ろすと言う点では、完全な利害の一致を見ていますから」
余裕の笑みを崩さないアウディオラ。
その点では、私も同感だと納得してしまう。
レオーネにしろ、アウディオラにしろ、どちらも“雲上人”への恨みは相当なものですからね。
その点では強固な協力関係を築けていると見るべきでしょうね。
「でも、それだといずれ裏切らないという保証はないわよ」
「それはこちらもあちらも承知している事よ。所詮、“同盟”等と言うものは、利害が一致している間のお友達宣言でしかないですからね」
「そう割り切っているのに、随分と余裕な態度ね」
「いずれ同盟が切れる事を見越して、レオーネには“早い者勝ち”を互いに約束し合っていますので」
「早い者勝ち?」
「ええ。“雲上人”への復讐が完了すると同時に、同盟解消をするって事よ。そこから先は、文字通りの“早い者勝ち”というわけ」
「なるほど。欲する報酬は“切り取り次第”というわけね。それも時間との勝負」
「もちろん。私が最終的な勝者にはなるつもりよ」
「あちらもそう考えているでしょうね」
「でしょうね。レオーネもその為だけに生きてきたようなものですし」
やはりレオーネは一筋縄ではいかないようですわね。
しかし、幸いな事にここは見通しの利く牧草地帯。
身を伏せておくべき場所もなく、何かしらの武器を隠しているとも思えない。
伏兵、援軍の無い今なら強引に押し切れるでしょう。
しかし、魔女を甘く見てはいけません。
追い詰められたと思いつつ、何かしらの策や道具で状況をひっくり返してくる可能性もありますからね。
(さて、このまま強引に捕り物に及ぶか、それとも……、って、あれは?)
まだ距離はありますが、馬が近付いてくるのが見えました。
援軍?
どちらの?
周囲も馬の存在にはすぐに気付いたようなので、警戒感が一気に増す。
「いや、待て。あれはマルコ殿だな。アリーシャ嬢もご一緒だ」
夜目の利くアルベルト様が、真っ先に駆け寄ってくる馬に乗る者の姿を捉える。
やって来たのは、まさかのマルコ様にアリーシャ様とは!
(え? これ、本当にどっち?)
2人の立ち位置がよく分りませんね。
あの2人、特にアリーシャ様がレオーネなりアウディオラなりと結託し、その手引きをした事は確実!
願いが叶ったのであれば、今更何をしにここへ?
(特に、アリーシャ嬢には敵味方に関わらず、警戒ですわね)
なにしろ、父親の暗殺を企み、それが達成されると大喜びしてしまうほど。
誰も彼も病んでいますねと痛感する。
ほんと、心の病を診る専門の医者が必要なのかもしれませんね。




