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247 採掘への道筋

 座るのが慣れた会議室の椅子にどっかりと座る。こういう生活は前世でお腹いっぱいなのだが、俺が関わる案件は何故か重大になる傾向にある。【試作勇者】スキルの宿命だとすると、とんだ欠陥スキルを与えられたものだ。侯爵家からは領主アメリア、代官若グイード、騎士爵レイナー。宰相家からは騎士爵グイードとダレン。ダレンがこういう会議に参加するのは珍しいが、宰相家との連絡を一手に引き受けている手前、直接話した方が要らぬ混乱を招かない。不肖不肖宰相派と目されているリルが最後の貴族参加者だ。残るはドワーフの隊商を率いるボウリンと採掘の指導員となったアログだ。


「夜分遅く集まってくれた事に感謝します」


 夕食は数時間前に終わり、村で灯りが付いているのはこの部屋くらいだ。耳をすませば攻略拠点で酒を飲んで騒ぐドワーフの声が聞こえる気がする。


「毒沼のダンジョンの地下22階に金鉱脈を発見しました」


「「ガタッ!」」


「リル」


「ここに」


 リルが【アイテムボックス】から布にくるまった塊を取りだす。それをアログに渡す。


「確認するぞい!」


 アログは小型のハンマーとノミでリズミカルにその塊を砕く。鑑定用のルーペで破片を確認しながら唸る。


「これが普通に出るのなら、ラディアンドでは平均的な金の含有率だぞい」


「と言う事は!?」


 若グイードが食い気味に問い詰める。


「事業として成り立つぞい!」


「おお、素晴らしい!! 早速金の採掘を始めましょう!」


 喜ぶのは若グイードとドワーフだけ。


「毒沼のダンジョンの攻略予定日は10日後です」


 アメリアは容赦なく若グイードの希望を完全粉砕する。


「な! お考え直しください、姫様!」


 詰め寄ろうとする若グイードの肩をレイナーが掴む。今の若グイードを近づけたら騎士失格ものだ。


「私は追加の開拓と銀の採掘の件でかなり貴方に譲歩したつもりです」


 アメリアはこの二点に反対している。人が足りないのに無理やり事業を拡大している。そしてこの王国が抱える病である「出来る人間を酷使する」状況が出来上がる。前世と違い求人広告を出しても信頼できる人は中々見つからない。現在の急ピッチで進んでいる状況では責任ある立場を任せられる人間を採用できる可能性はゼロに等しい。


「ですが! 金! 金なのですよ!!」


「採掘の人材は? 採掘した金塊の護衛は? 輸送は? この村で手が空いている人はいません」


「……」


 若グイードがハッとして周りを見回す。残当だが誰も味方がいない。「農民を使う」と言わないだけマシだ。これを言っていればアメリアが若グイードを更迭する大義名分が手に入った。


「姫様の言うことは尤も。ですが金鉱脈となると閣下も黙っているわけにはいかないかと」


「レイナー卿の言う通りね。だから早馬が帰って来る前にケリを付けます」


 ここと侯都は急げば最短で八日で往復できる。その前にダンジョンへ潜れば侯爵の命令を受け取る前にダンジョン攻略が完了する。これをやるとシーナ合流が間に合わないかもしれないが、そうなったら宰相家の怠慢を非難して違うダンジョンを攻略出来るように動いて貰おう。


「あうぅぅぅ」


 幼児退行しかねないほどに追いつめられる若グイード。マウントは取れたし、これ以上はただの虐めだ。


「まあ待てアメリア。グイードが村を良くしようとしたのは本当だ。俺たちの個人的努力でまだ破綻していないのは懸念だが、もう少しペースを落とせば人を増やして安定感が増すだろう」


 アメリアが絶対零度の瞳で俺を睨む。これは地雷を踏んだか。アメリアは「敵を生かす」と言う考えを持っていない。なので若グイードもそろそろ……と考えていて不思議じゃない。ここで俺が助け船を出した事で若グイードを処断し辛くなった。


「金の採掘が叶えばアメリア卿の中央での評価はさらに上がるかと思います」


 ダレンが無知故に追随する。アメリアの髪の毛近くに浮いている火の粉が激しく震え出す。良くない傾向だ。


「アメリアは落ち付く」


「リル」


 なんか分からないが鎮火した。ほぼ無条件で味方になるリルが傍に居ることが精神の安定に繋がるのか?


「金の採掘は人員に都合が付くのなら、ダンジョン攻略を少し延期します」


「姫様!」


 レイナーが抑えていなければアメリアに抱き着かんばかりに飛びあがる若グイード。


「しかし私が学園に行く前に攻略します。これは宰相家からの要請なのですから仕方がありません」


 攻略を途中で諦めて学園に行くのはナンセンスだ。いつBランクに進化するか分からない状況では現地を離れるのは攻略権を手放すも同義。そもそも学園に行くアメリアに箔をつけるのが目的で侯爵家と宰相家が結託したのが今の状況だ。金の鉱脈が出ただけで両家が基本方針を変える事は無い。


「理解している」


 ガイルズがアメリアの基本方針に同意する。若グイードが怒りの形相でガイルズを睨むが、ガイルズは華麗にスルーする。死線を潜っている数が違い過ぎて若グイードの殺気など子犬のじゃれ合い程度に感じているのだろう。


「となるとそろそろシーナに来て貰わなくては駄目だ。今は金の採掘に常時帯同できるヒーラーがいない」


 何せ金の鉱脈はヒドラが住む毒の池に流れ込む毒の滝の後ろにある空洞を越えた先にある。一時的に【アンチドーテ】で毒を無効化しないと部屋に入るだけで毒の飛沫で死にかねない最悪の戦場だ。念のために常駐するだろうハンナかマリーメイアに【毒耐性】を付与した方が良いかもしれない。


 かくして3か月ほど続く金採掘の狂騒曲が幕を開ける。



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