248 ヒドラ戦
「こいつがヒドラか」
地下22階にある毒の池から蛇が九つの首で威嚇する。恐れていた通り一定期間で復活した。前回復活した時は鉱夫と護衛のDクラス冒険者しかいなかったからかなりの被害が出た。幸い地下24階を攻略していたリル達が急ぎ駆け付けたので採掘された金塊の回収は問題無かった。リルと一緒に行動していたマリーメイアが回復魔法を掛けたが人員はほぼ全滅した。それからは六日前後で復活すると当たりを付け、その日が近づくと最強戦力を張り付ける方針になった。
そして初回は俺の権限で担当の座を無理やり手に入れた。強いモンスターからは強いスキルが手に入る傾向が強いからこのチャンスを逃す気は無い。既に金鉱脈の採掘は昼夜を押して行われている。近隣の村と城塞都市ラディアンドからは狂ったレベルで人間が流れ込んできている。俺が地下22階を目指してダンジョンに入った時は採掘関係の滞在者の数が500人を超えていた。新村民を入れても250人の村が抱えられる滞在者の数では無い。それを見抜いた商人は毎日のように食糧を満載した馬車で村に来る。そして若グイードの足元を思いっきり見た値段で食糧を売り金銀の塊を積んで帰還する。俺はここまで酷くなるとは思っていなかったが、アメリアの考えでは「まだ適正額」で商売しているらしい。辺境伯はアメリアを狙っていると同時にラディアンドの再建が急務だ。餓死しない様に3割ほど割増しで商売するのが落としどころと判断したのだろう。
「【アンチドーテ】」
ハンナが解毒魔法を詠唱し、力技で毒の池を綺麗にする。毒の滝から毒が流入するので、綺麗なのは数分だけだ。それでもヒドラの全体像が見えるのなら遠距離攻撃を当てやすい。ヒドラも毒に隠れるメリットを失ったと気付き陸に上がって来る。
「上がって来る前に首を落とせ!」
「「応!!」」
俺の号令を受けてCパーティーの冒険者が一斉に攻撃を開始する。とある事情で強制参加させているベルファもちまちま投石する。これほど強いモンスターなら攻撃を当てるだけで少しは経験値が入る。俺とCパーティーの冒険者は全員最大レベルまで上がっているが、ルルブ通りなら経験値だけは加算されるはず。逆に加算されずに経験値が唯一最大レベルに達していないベルファに流れるのなら一気にレベルアップ出来る。経験則からして前者で正しいと思うが、実際に検証できるチャンスなんだ! 試さずにはいられない。
ヒドラの放つ毒のブレス攻撃を【地魔法】で生み出した壁で防御し、首を一つ一つ重点的に狙う。そしてヒドラの首が落ちれば俺か他の命知らずが松明を持ってその傷を焼く。傷さえ焼けばヒドラは頭を再生できない。頭を失う度にブレス攻撃の数が減る。しかし頭が減るごとにその巨体の動きは良くなる。司令塔が一つになる事で体のポテンシャルを完全に発揮できる。こんな面倒なギミックを持つモンスターはTRPGでも相手にするのが面倒だ。しかしルルブでステータスと行動パターンが分かっており、何回も卓上で討伐した経験があるため、本来はダンジョンボス並みの強敵ですらただの単純作業の繰り返しで倒せる。追加で言うのなら、トロールのおかげだ。再生するモンスターの厄介さを直に体験できたCパーティーの面々は再生阻害の重要性を魂レベルで理解している。
「えい!」
程なくして頭一つを残して倒れるヒドラ。ベルファはその頭目掛けて鍛冶用の鎚を全力で振る。猛毒を含む返り血でびしょ濡れになる辺り、このレベルの争いにはやはりついて来れない。俺が急ぎ水をぶっかけて毒を流し、ハンナが【アンチドーテ】で治療する。
「酷い目にあいました」
「だがレベルは2つも上がった」
やはり経験値はカンスト勢にも分配されると見て間違いない。分配率とか細かい事を気にするときりがないし、そこまで確実に計る術が無いので諦める。しかしこれでベルファは位階13だ。逃避行の後で別れた時は位階6だった事を考えると良いペースで強くなっている。ドワーフ氏族は血縁を大事にするから外に出るドワーフには位階10まではパワーレベリングを施す。ベルファの位階が低かったのは双子の兄であるモーリックを鍛えるのにリソースを費やしたからだろう。
「しかしボスの戦いを見ると自信を無くすぜ」
冒険者の一人が俺に近づいて言う。
「そうか?」
「そりゃあ、あのヒドラとダンジョンで出くわせば全員死を覚悟するんだぜ?」
「訓練すればノーダメージで倒せるんだがな」
「あはは、そこまで行ける奴はほんの一握りだ」
冒険者は引き攣った笑いを浮かべる。他の奴らも似たり寄ったりだ。良くも悪くもこれが普通の冒険者なのだろう。俺がTRPGで演じる冒険者は危険に飛び込み、死んだら蘇生を繰り返す存在だ。俺は過去に演じた冒険者に恥じない様に戦っている。現地の人間で肉体面で付いて来られる人間は多いが、精神面で付いて来られる人間は意外と低いみたいだ。俺のスキルは法則に反しない限り肉体面なら幾らでも上げられるが、精神面では完全に無力だ。
「付いて来る奴は歓迎するぞ。さて、後ろで待っている鉱夫達を呼ぶか」
「呼んでくるぜ!」
そう言って冒険者は急ぎ俺から離れる。
毒の滝が浄化されるのを見ながら、アメリアが地上で始めたサイドビジネスに思いを馳せる。眼前の光景を見る限り、やはりアメリアの言った通りなのだろう。
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