245 毒沼のダンジョン 金の鉱脈
ユーグリン王国は金本位制だ。銀貨と銅貨も貨幣として扱われるので金地金本位制と言った方が正確ではある。両制度ともに金と兌換出来るのが特徴だ。即ち、ユーグリン王国の経済は保有している金塊の量に左右される。ユーグリン王国だけでなく南の帝国を始め、全てのヒューマン勢力は金本位制を採用している。帝国が定めドワーフが打った金貨1枚の重量が世界経済の基礎だ。
そんな世界の経済情勢で無限に金が取れる鉱脈が見つかった。幸いダンジョンに金の鉱脈があるのはそれほど珍しい事じゃない。だからと言って国家を左右する戦略物資なので軽々しく扱えない。若グイードならダンジョン攻略を禁止して金の採掘に舵を切りそうだ。王国法でBランクダンジョン誕生阻止は金の採掘に優先する法があるので俺とアメリアの方に分がある。毒沼のダンジョンは1年から3年以内にBランクに上がると目されている。アメリアは10月から学園。アメリアの学園行きギリギリまで攻略を引き延ばす策略を食らいそうだ。
皮肉にもこれでシーナは確実にこちらに来る。宰相家として金の採掘を見過ごすわけにはいかない。宰相家が何か出来るわけでは無いが、自身の息のかかった冒険者に採掘させる程度の芸当はやるだろう。王都と侯爵家の金の採掘に関する場外乱闘は好きにやらせておく。
「メア達は採掘か?」
これでは時間稼ぎの緘口令すら無理か。メア達が地上に帰ったら絶対に自慢する。自慢より散財を心配した方が良いか?
「ええ。今回だけは3割を税として納める事で許可したわ」
手取り7割か。普通は手取り1割かそこらだから必死に採掘していそうだ。ダンジョンで新しい鉱脈を見つけた場合、最初の一回だけは通常より採掘者に有利な税率を領主の独断で採用する事が認められている。鉱脈発見を奨励する以上に、鉱脈報告を奨励するのが目的だ。税率が高く、鉱脈が隠れた場所にあれば報告義務を怠るのは想像に難くない。
「だがどうやって帰って来るんだ? リルとマリーメイアがここに居ると言う事は地下22階で通用するスカウトとヒーラーが居ないぞ?」
メアのパーティーには【索敵】レベル3のスカウトが居たはず。ヒーラーは不在で回復は専らポーション頼りだ。
「数日後に迎えに行くわ。その時にリルの【アイテムボックス】に採掘した金塊を入れたら輸送が楽になるから」
「その前に鉱脈が枯渇したらそこから月間採掘量を割り出す気か」
「当然」
リルの【アイテムボックス】に入れるのなら不正防止になる。それにダンジョン脱出時の生殺与奪権までしれっと握る辺り、アメリアは怖い女だ。それどころか、迎えに行ったメア達が全滅していたらそれを重要な戦訓として次回に生かすつもりだ。
「しかし嫌らしいな」
「え?」
何故か慌てふためくアメリア。
「8、14、22とは」
地下8階の銅鉱脈は駆け出し冒険者が少し背伸びをすれば稼げる。その「少し」が生と死を分ける。これまで見て来た冒険者の実力から考えて、それでも二割ほどは安定的に稼げる。王国の政策である不要な冒険者の間引きまでやってくれるのだから、地下8階の銅鉱脈の採掘は本来は大人気になる。数か月に俺が攻略するから採掘しに来る価値は無い。地下14階の銀行脈は安定して稼げる中堅冒険者ご用達になりそうだ。地下10階の階層ボスを倒せるのが分水量になるからそれで採掘に参加する人を制限できる。だが一定量を採掘するには弱い人間を護送船団方式で連れて来る必要がある。そしてダンジョンはその弱い餌を積極的に狩る。そして止めの地下22階だ。一流冒険者しか到達出来ない深層にありながら、採掘者を大量に使い潰してもお釣りが来る。それとダンジョン攻略を狙う一流と金を採掘した一流の分裂を生み出す事で攻略されない状況を作り出そうとしている。俺とアメリアの旧パーティーが揃えば、それに数人追加するだけでダンジョンコアを守る最下層ボスを倒せるはずだから、今回はダンジョンが思っているほど効果的では無い。
「鉱脈の配置から生じる被害の事が心配?」
「無駄に被害が増えそうな配置だからな」
そしてこの世界は前世のブラック企業以上に人命を軽視している。俺の知らないところで人が死ぬ事には何も出来ない。だが毒沼のダンジョン攻略を主導している立場として人命を軽視した真似は看過しない。
「アッシュが奴隷を増やせば良いのよ」
俺のスキルで一流冒険者を量産すれば問題は解決する。即席培養だと解放した後に自滅しそうなのが心配だ。実際、先に解放した農民出の魔法使い達はその力を十全に扱えていない。同じ事をしたアメリアがスキルを完全にマスターしているのはハインリックのスパルタ教育と多大な実戦経験によるものだ。言わば本気で一流冒険者を量産したいのなら、強化、教育、そして実戦経験と手厚いサポートが必要だ。俺にそこまでする情熱は無い。
「これ以上抱える気は無い。それに金鉱脈ならラディアンドの冒険者ギルドが積極的過ぎるほどの支援をするはずだ。交渉を頑張れ」
領主であるアメリアは金の採掘時の税率にかなりの裁量権がある。非常識な税率にしたら侯爵の手の者がすっ飛んでくるが、それ以外だと領主権限の独立性を維持したい他の領主貴族が侯爵家の介入を止めてくれる。だからアメリアが採掘時の税率で冒険者ギルドを優遇すると指定すればかなりの援助を引き出せるはずだ。それは裏取引や癒着、そして裏稼業の人間を招く面倒事の始まりでもある。
「また面倒な交渉事? 頭が痛くなる。ダンジョンは敵を焼くだけだから楽でいいわ」
お互いがやりたくないお互いの最適解を指摘し合う。
「とにかく地上に帰るか。グイードに話す内容は考えているか?」
「それを詰めようと思っていたところ。銀鉱脈の時みたいに暴走されては溜まらない」
「あれの被害を一番受けているのがここに居る2パーティーだからな」
全員が頷く。
「メア達が混ぜっ返す前に決着を付けないと!」
俺とアメリアは地下14階で銀を採掘している者達と合流するまで最善策を協議しながら進む。そこそこ行ける策が出来たと思った矢先、西からの訪問者が俺とアメリアの緻密な策を吹き飛ばす。
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