表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/416

242 下準備 下

 本格的にダンジョン攻略を開始して10日弱が経過した。俺とアメリアは地下10階にあるボス戦の接待プレイに呼ばれた以外はダンジョンに踏み込んでいない。リルが率いる攻略パーティーは地下15階まで進んでいる。ここだけは順調に進んでいるのが救いだ。


「ダンジョンに行きたい!」


「書類仕事が終わってからにしてくれ。俺では分からん」


 俺の愚痴にレイナーが返す。準男爵にこんな仕事をさせるなと言いたいが、俺がしなければ確定で酷い事になるのが分かっている。前世のブラック企業でもこうやって貧乏籤ばかり引いていたのを思い出す。


「アッシュ様、水利権でまた揉めごとです!」


 仕事に取り掛かろうとした矢先、スフィーが息を切らして走って来る。


「そっちはアメリアの領分だろうが!」


「姫様は笑顔で『全部焼けば』とか言い出して! とにかく助けてください!」


「だから文官を増やせと言っただろうが!」


 スフィーに当たっても仕方がない。おれは建設途中の攻略拠点から重い足取りで村に向かう。


 そもそも何がどうなっているのか。一言で言うならば、実績の無い若手が大きすぎるプロジェクトに手を出して大火傷した。発案者では無いが、責任者である俺とアメリアのダメージがもっとも酷い。これ以上アメリアのストレスが溜まれば本当に村全体を焼き滅ぼすかもしれない。俺をアメリアから遠ざけるために居るスフィーが俺に頭を下げるほどだ。スフィーもレイナーももはや余裕が無いと見て間違いない。


 以前あった暗殺者の襲撃後に侯都に伝令を送った。その時に攻略拠点用の棚さくと建物を注文していた。この世界では資材を現地に運んで建設する。そこで俺は壁だけ先に作って、それを【アイテムボックス】に入れることで現地での建設時間を短縮しようと考えた。言わばプレハブ工法だ。ただ、この世界には余りにも異質な考えらしく、侯爵家が依頼した建設ギルドでは理解が追い付かなかった。俺が現地で手取り足取り説明したらもうちょっとなんとかなったかもしれない。やはり数枚の紙に書き殴った絵では説明が難しかったか。最後は見かねたハインリックが善意で建設をキャンセルして依頼の建材を揃えて村に送ってくれた。善意だと信じたい。俺を苦しめる為だけに最悪の方法を選択したのではないかと疑心暗鬼にちょっとなっている。


 建材が【アイテムボックス】に入っていれば誰の目にも止まらず急いで建設出来た。しかし歩みの遅い馬が引く複数の馬車に並々と建材が乗せられていたら誰の目にも付く。そしてこの村には新村民となった69人もの人間が家無しで生活している。新村民は「自由農民は野宿なのに奴隷には屋根付きの新築か」と若グイードに詰め寄った。「数日前までは同じ釜の飯を食う中じゃないか」と怒鳴ろうと思ったらアメリアに足を踏まれてしまい機を逸した。あの日の会話は忘れよう。とにかく棚さくは攻略拠点が貰い、それ以外の建材は第二農村が貰う事になった。


 俺が追加発注すれば良いだけと諦めたのがいけなかった。去り際のハインリックに頼んだら、「奥様の件で侯都は麻痺している。今回の輸送だけでも相当無理をした」と返されてしまった。ラディアンドは再建ラッシュの真っ最中で建材が余っているとは思えない。もはや渇いた笑いしか出ない。これが底だと考えた当時の俺を誰かぶん殴ってくれ。


 攻略拠点、第二農村、そして新規開拓。大規模な土木作業が三つも同時に進んでいる。俺が攻略拠点、アメリアが第二農村、若グイードとネイサンが新規開拓の監督をすることになった。監督できる人間が三人しかいないのに三つもプロジェクトを同時進行させる狂気のスケジューリング。俺の攻略拠点はダンジョン側にあるので問題無く建設が進んでいる。冒険者たちが寝る際に大地に寝そべるしかないのは気の毒だが、気温が温かくなっているので大丈夫な方だ。そして拠点が大丈夫だからこそ、俺が大丈夫じゃない。


 まずアメリアは第二農村の建設が上手く行っていない。俺とアメリア双方に取って意外だったが、アメリアの血筋による統治補正は予め出来上がっている物には有効だが、新規の物には何の役にも立たないみたいだ。上手く行かないので癇癪を起して頭痛になってマリーメイアが治療するのが一日に何回もあるパターンだ。アメリアには悪いが「よしなに」と言って農民に任せた方が上手く行きそうだ。家の間取りが杓子定規にならず未来の拡張時に大揉めするのはこの際諦めよう。アメリアもやっと諦めてくれたのか、第二農村の建設が進み出した。そして進むたびに若グイードの新規開拓地と水利権で争う。


 若グイードは家を継いだばかりで功績が必要だ。そのために教師役のネイサンが考えるより積極的な開拓をやっている。そしてそれの犠牲になるのが第二農村と開拓済みの農地の水利権だ。若グイードの考えが良く分かるだけにネイサンも余り強い出られない。農地の新規開拓は功績だが、農民の家の新築は功績じゃない。


 前世と違い魔法があるんだから水の支流を増やすなり対応は簡単なはずなんだ。しかし第二農村の【水魔法】使いは一人しかいないため、彼の対応力を越えている。解放せずにダンジョン攻略を手伝っている【水魔法】使いを一時的に借り受けたら一瞬で解決する。一度追い出した人間を呼び戻したら、追い出した【水魔法】使いに疑いの目が向かう。ははは、やはりアメリアの言う通りに焼くか?


「アッシュ様、キモイ笑顔を浮かべないでください」


「それは悪かった」


 スフィーのツッコミが一種の清涼剤になっていてヤバい。あと二週間くらいで落ち付く事を願う。そうしたら全力でダンジョン攻略に集中できる。


応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ