238 トロール戦の後処理
大量の誤字報告ありがとうございます。
マジックアイテムを物理的に破壊すればトロールの前進が止まると思われた。しかしその日の昼過ぎまでトロールは攻め続け、それから三日間断続的なトロールの襲撃に苦しめられた。神殿を襲った謎の爆発で奴隷農兵が立ち直るまで機能不全に陥るも、ガイルズを始めとしたラディアンド籠城戦を生き抜いた猛者が何事もなかったかのように戦い続けたので人死には出なかった。怪我人は多く出たのハンナとマリーメイアは魔力回復ポーションの飲み過ぎで痛む胃を抱えながら必死に治療に当たった。結果的にこちらの勝利を決定付けたのはアメリアの命令で四肢を【再生】して戦線復帰した奴隷冒険者だ。数人増えるだけでこの小規模な戦場のパワーバランスはこちらに傾く。ここまでの事を全て見越していたのなら、やはり俺ではアメリアには視野の広さには一生勝てそうもない。
トロールには勝てたが問題が無かったわけではない。マジックアイテムを破壊した侯爵家の騎士爵と従士数名、そして神官長が爆発の直撃を受けて死んだ。正確には判別不能な肉塊から死んだと推測するしかない。戦いで死者が出るのは仕方が無いが、神官長は村でナンバー3の権力者だ。ナンバー1のグイードとナンバー3の神官長が立て続けに死んで村人の士気はドツボに落ちている。ナンバー2の村長は右往左往して、最終的には家に立てこもって出て来なくなった。若グイードが帰ってくれば多少上向くだろうが、それまではアメリアと俺が村一つ抱えるしかない。レイナーは残っている侯爵家の手勢の掌握でそれどころではない。
更に悪い事に俺と宰相家の手勢から死者が出ていない。四肢を失うほどの大怪我をした奴隷農兵は居たが、それも全員【光魔法】で治療済みだ。メア達の怪我は全て再生魔法で治療した。残る奴隷冒険者も日を追うごとに復帰している。名目上互角だった村と攻略組のパワーバランスが修復不可能なほどに攻略組に傾いてしまった。少なくても村は15人の奴隷農兵無しでは立ち行かないほどに追いつめられた。数日なら俺の威光とトロール戦の疲れで平和を維持できるが、村に残るであろう奴隷69人は武力で村の支配権を奪えば良いと言う考えに傾いている。村と侯爵側のミスと不運で防衛戦力が枯渇しているのだから略奪されても仕方が無い。そうならない様に俺とアメリアで頑張っているが、ここまで事態がややこしくなると侯爵の介入なしに無血では終わらない。
開拓と間引きを担当しているのが健在な宰相家の騎士爵二人だったのが功を奏した。つまらない事を考える余裕を与えないように開拓と間引き、そして村の城壁修理に駆り出す。メア達と奴隷冒険者は毒沼のダンジョンの低階層攻略に向かわせる。ハンナとマリーメイアの二人も一緒に派遣しているので死ぬ事は万に一つも無いだろう。それと二人は位階上限に達した事もあり、パワーレベリングの必要は無いと伝えてある。
侯都から返事が来る最短の5月18日には誰も来なかった。トロールが一切来なくなって三日しか経っていないので俺とアメリアにはまだ余裕がある。
「20日までは現状維持で行けるでしょう」
アメリアがタイムリミットを決める。
「祭りか何かで数日稼げないか?」
「酒が入ると一気に燃え上がる危険性があります」
俺の案に一定の理解を示すも、双方の我慢の限界は近い。
「その場合は姫様は一時退去を!」
レイナーの発言にスフィーが無言で同意する。
「そんな事になったらどれだけ血が流れるか!」
ガイルズがアメリアの逃げ道を塞ぐ。
「心配ありません。最後の切り札『アッシュの妻になる』を使えば良いのです」
アメリアが自信満々に言うので俺を含めて全員固まる。
「村はそれで良いとして、侯爵閣下はどうするんだ? 焼き殺される未来しか見えない」
アメリアと結婚するのは成り行き上仕方が無い気がしないでもない。だが奇跡でも起こさないと侯爵家が同意するとは思えない。
「アッシュの隠し札なら奇跡の一つくらい起こせるでしょう?」
【風の聖戦士】だと名乗り上げたら身分的には釣り合う。準備不足でそれをやるとクロードの実家を中心にユーグリン王国南部が血みどろの宗教戦争に巻き込まれる。最悪帝国の介入を招き、それを見たラディアンド辺境伯が独立を宣言するだろう。国一つを滅ぼして意中の女を手に入れるか。自身の最適解を打つ事に余念が無いアメリアが【風の聖戦士】で俺が侯爵の孫なら間違いなくとうの昔に実行している。
「影響が大きすぎる。俺たちのシーナが生き返らせたマックスをこき使おう」
「まあ次善の案ですが、妥協しましょう」
詳細を知らない周りの者の顔面が蒼白だ。何せ第四王子をこき使うだけでも恐れ多いのに、それより強力な切り札を持っているなんて事は聞きたくないに違いない。
「そう言う事だ。とにかく一日でも暴発を引き延ばせ。双方望んではいないが、座して待つほどお行儀良くは無い」
「「はっ!」」
俺の発言にレイナーとガイルズが同意して、一連の会話を打ち切る。これ以上俺かアメリアが抱える秘密を暴露すれば胃が持たないと正しく判断したみたいだ。
「なら爆発の調査はどうです?」
「残念ながら何も残っておらず、進んでいません」
レイナーが肩を落とす。同僚の仇討ちの側面があるのでこの結果は受け入れがたい。
「アッシュはどう?」
「実物を見ていない状況では流石にきつい。姿形の報告も無いとなると、俺が文献で読んだ物かも分からない」
俺だって味方を殺されたのは怒っている。しかし侯爵家の秘密主義のせいで推論を述べるための基本的な情報すらない。
「文献的には?」
「破壊する事で何らかの呪いが発動する懸念はあった。マリーメイアなら対応できると思っていた」
呪いと簡単に言うが、破壊した者を対象にする呪いと起動した者を対象にする呪いがある。ルルブではキャンペーンボスに与えられた強力なマジックアイテムを破壊されたシナリオボスが見るも無残な形で自滅するリプレイが複数ある。適正レベルのPCだと正攻法で勝てないボスを倒すためのシナリオギミックだ。
「爆発は完全に想定外なのね」
アメリアの発言で俺が故意に黙っていた可能性は霧散する。謎と不和だけを残してこの話題は終わる。それ以降は村と攻略組が激突しない方法の模索に集中する。もはや双方が限界を迎えた8月21日に侯都から驚愕の返事が届く。
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