236 横やり 下
「メア! そいつは死んで無いから離れろ!」
メアが距離を取るのと同時に再生したトロールの攻撃がメアの脇腹に掠る。普通のモンスターなら両断されたら死ぬが、トロールの再生力を持ってすればこの程度の怪我はかすり傷だ。
「なんで生きているんだ!?」
「トロールは火で焼かないと再生するんだ」
俺は付近のトロールの足を斬り落とし、メアと一緒にガイルズが再布陣している場所まで退く。そこにはメアと一緒に来たと思われる冒険者六人が合流している。ただ彼らはメアのパーティーの人間では無い。いつの間にかパーティーを変えたのだろうか? 事態が落ち着いたら色々聞かないといけない事が増えた。とにかく、西から来ている正体不明の部隊はメア達だったみたいだ。
「メア達が西から来たで良いんだな?」
「ああ、ここに向かっていたらでっかい火柱が見えて急いで来たんだ!」
「アメリアのあれか」
「そう、そう! で村の癖に生意気な石造りの壁に近づいたら矢が降って来て大変だったんだ!」
「それはすまん。北と南から襲われているんだ。西も敵と想定した」
「あたしが前に出たら誤解が解けたけどね!」
同じ孤児院で育った元パーティーメンバーとは言え、本来なら入村にもっと時間が掛かる。メア達がフリーパスを貰えたのは全員が酷い怪我をしているからだ。そしてその怪我を治せるヒーラーを抱えているのが依頼主の俺だと言う事が大きい。しかし冒険者ギルドが五体満足じゃない冒険者をこんなに派遣するのは変だ。ダンジョン攻略で負った欠損は治すと依頼にあるが、これでは欠損を治すに依頼内容が変わっているかの様だ。ダンジョン攻略のためにも治しはするが、これも後で聞くことに追加するしかない。
でもこんな姿で来たのは逆に良かった面もある。もし五体満足ならこのトロールの一件が終わるまで村の外で野宿させられていたはずだ。それともアメリアならもう一歩進んで「村の安全のため」と言ってメア達を焼き殺しただろうか? アメリアならやりかねない。俺が見た炎からして、攻めて来た山賊を全員焼き殺している。最終的に殺す判断をするとしても普通の人間は交渉から入る。
「そこのマリーメイアが持っている様な槍で心臓を一突きすればトロールは死ぬ」
俺の説明を聞かずともトロールと戦闘経験がある冒険者は火の準備をし出す。
「どう戦って欲しい?」
「冒険者は第四小隊としてまとまって戦え。残り三つとローテーションで休ませる」
メアの問いに俺が答える。ここで編成を変えるより慣れた形で戦った方が安全だ。
「なら第一小隊から休め!」
ガイルズが早速疲れが目立つ小隊を下げる。北から人員が南下してくればもう少し楽になる。それまでの辛抱だ。それから30分ほど無心にトロールを倒す。俺とガイルズが友軍として動くことで安定してトロールを殺せている。毒沼から距離を開けたのも正解だった。メア達冒険者が前に行き過ぎないように抑えるのが一番疲れる。
「アッシュ卿、スイッチだ!」
「了解した!」
ガイルズの声を聞いて俺は汗だくのマリーメイアをお姫抱っこして下がる。俺とマリーメイアの代わりにダレンとネイサンが遊撃に入る。北からやっと人員が回って来たみたいだ。【スキル操作】でマリーメイアの状態を確認すると位階10になっていたので【光魔法】をレベル6まで上げる。前衛なら戦場のど真ん中でやるのは狂気の沙汰だが、休憩中に息を整えたら大丈夫だ。
「北は?」
ぐったりしているマリーメイアをゆっくり降ろして、後ろに控えているアメリアに問う。「遅かったな」と言えば絶対に拗れるのは前世の経験から分かっている。
「後処理があったのよ。メア達を送ったから余裕があると言われて」
アメリアは納得していないが、トロールとの戦いに姫様を投入したくない侯爵家の騎士達の意向と推測する。稚拙な時間稼ぎが失敗に終わった事を心の中で笑う。
「こっちは交代人員がもう少し増えたら持つから、完全に間違ってはいないさ」
「どれくらい続くと思う?」
「無限湧きしてくれると良いな」
アメリアは交代人員の手配をするためにトロールがいつ諦めるか問うので、俺は正直に答える。
「冗談じゃないわよ! 太陽が沈んだら大変なのよ!」
「夜目が効く俺が出るさ。後は篝火で何とか……」
せっかくトロールから来てくれているのに勿体ない。
「アッシュ、貴方トロールが私の村を攻めている理由を知っているわね?」
アメリアの追求から必死に目を逸らす。昔から変に鋭かったけど、ここで正解を引かなくても良いじゃないか。
「2~3日様子を見たら分かるかも……」
無限湧きの経験値なんてGMが腱鞘炎でリタイアするまでダイスを振らすに決まっているだろう!
「ふふふ」
【火魔法】使いのアメリアが絶対零度の笑みを浮かべている。どうやら俺の理屈はアメリアに通じないらしい。
「数日前の暗殺者が潜入した時に仕掛けたとするのなら可能性は複数ある。数日でトロールが来なくなるのなら専用の香水を撒いた思われる」
メストロールの発情した時のフェロモンを数百倍に強化した疑似フェロモンでトロールを呼び込んでいるかもしれない。これは非常にローテクで特定のモンスターを狩るのが生業の冒険者なら誰でも知っている。ただ村の中まで誘引すると言う考えが無いので、こういう使い方はコロンブスの卵かもしれない。
「他には?」
アメリアの勘はこれがハズレだと言っている。
「匂いと同じだが永続効果を持つマジックアイテムがある。文献だと大きさは30センチ四方で20キロほどあって中心に真紅の宝玉みたいなのが嵌っている。俺なら村の中心にある神殿かアメリアが住む領主の館に仕掛ける」
ルルブの事を文献と誤魔化すが、見た事無いのでサイズが正しいかはちょっと怪しい。それに真紅の宝玉は疑似ダンジョンコアと呼ばれる特殊な素材だ。ガングフォールとの話に上がらなかった事を考えると、この世界には無いのかもしれない。何せ悪魔がダンジョンコアを真似て【冥魔法】で作り上げたヤバすぎる物だし、一般には絶対に広まらない。ストックに【冥魔法】があるので俺は作れるかもしれない。ただルルブに真紅の宝玉のレシピが無かったので他に必要なスキルがあるとしても分からない。
設置場所の本命は神殿だ。襲撃があった領主の館は屋根裏まで徹底的に調べ尽した。そこで何か発見されたら侯爵家の騎士に裏切り者が居る事になる。裏切り者の有無は別として、襲撃されなかった神殿に仕掛けた方が発見を遅らせる事が出来る。
「レイナー! 村人を動員して神殿の屋根裏を中心に急ぎ調べなさい!」
「直ちに!」
ああ、無限湧きの経験値が……。
「ダンジョン攻略で幾らでも経験値を稼げるでしょう?」
俺がショックを受けているのを知ってか、アメリアが慰めてくれる。違う、そうじゃないんだ。
「ハンナをパワーレベリングするには外で足に火を付けるのがもっとも安全なんだ」
「ええい、このバカ! 手足を犠牲にする前提で戦うなって何回言ったら分かるのよ!」
「今回は大丈夫だ! マリーメイアに【リジェネレイト】の魔法を掛けさせる。そうしたら火で焼ける足と【リジェネレイト】で回復する足が相殺されて実質ノーダメージで火属性の蹴りを放てる! 理論は完璧だ!!」
ルルブのダメージ計算は嘘をつかない。何回もダメージが上振れして回復が下振れすればちょっと危険かもしれない。だがそうなればマリーメイアの【再生】で新しい足を生やせば問題無いじゃないか。
「あのう、ご主人様。私がハンナの腕を【再生】した方が安全では?」
激しい口論を続ける俺とアメリアにマリーメイアが控えめに割り込む。【再生】と聞いて冒険者の動きが一瞬止まるも、すぐにまた動き出す。
「マリーメイアの魔力だと両腕の再生が終わるまで魔力回復ポーションを六本はがぶ飲みする事になるぞ? ヒーラーの重要性を考えるとここでやる事ではない」
「はい」
「ハンナの右腕一本なら三本で済むのね? 私が魔力回復ポーションの代金を出すからやりなさい」
「ええと」
マリーメイアは俺の許可無しに勝手に魔法を使うのを避けたい。
「仕方が無い。利き腕を【再生】してやれ。ハンナは腕が治ったら死に物狂いでトロールを殺せ!!」
妥協しないと俺が悪いみたいじゃないか。
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