233 襲撃 上
誤字指摘ありがとうございます。
襲撃があった四日目の朝に若グイードと騎士爵一人を含めた数人を伝令として侯都に送り出す。理想を語るのなら襲撃があった次の朝に伝令を送りたかった。しかし侯爵領の平均的な村が持つ戦力の10倍近くの戦力があったとしても、とにもかくにも動かせる手勢が足りない。現場判断でまずは村内の統制と防備の充実を図るしかなかった。この決断が吉と出るか凶と出るか分からない。
侯都に馬を走らせたら最速で返事が来るのは8日後だ。もし敵が追撃を考えるのなら襲撃から8日以内に攻めて来るはずだ。だからと言って開拓と間引き、そしてパワーレベリングを休む余裕は無い。幸い開拓と間引きの責任者であるネイサンとガイルズが壮健なのでそっちの作業は襲撃前と遜色ないペースで進んでいる。パワーレベリングはハンナとマリーメイアの位階が上がって効率が大幅に落ちている。最近は専ら毒沼の浄化に専念している。
問題は元から居る村人の方だ。グイードの死は重くのしかかっている。それに若グイードが正式に父の跡を継ぐために一度侯都に行く必要があったので不在だ。その中で襲撃の可能性を肌で感じれば気が気ではない。不満をぶつける先が無く、かと言って襲撃者と戦える勇気も無い。となると村人でも勝てる弱者に目が向くのは必然だったのかもしれない。何回か俺の欠損奴隷とトラブルが発生し、最終的にはダレンを奴隷防衛に専念させる事で問題に蓋をした。何度も行っているが根本的な解決を図れるマンパワーもスキルも何もかも足りない。他人には言えないが、俺は襲撃を今か今かと心待ちにしている。全員が一時的でも外に目を向けるのなら中の問題に割くリソースを減らせる。
そして待つ事二日。第一報が狩人から入る。
「姫様、北方から山賊と思しき一団が南下しています! 数は推定30」
「北とはまた面白い場所から来ますね」
この村近くの北には城塞都市どころか村すら無い。最初から出所を隠すために北から攻めている。少なくても山賊は土地勘があるのか、領地に詳しい誰かの入れ知恵を得ている。アメリアの判断で村の北側の棚さくを強化したのが吉に出そうだ。それにしても30人とはまた微妙な数だ。こちらは頭数なら40を超えるので山賊に勝ち目は無い。俺たちが来る前の戦力相手なら二倍の頭数が機能していただろう。
「とにかく一時間後には棚さくに到着すると思います」
「なら全員を村内に入れなさい。私が迎撃に出ます」
「良し、行くか!」
アメリアが行くのなら俺が前衛を務めよう。
「アッシュは留守番です」
「!? そうなのか?」
余りにも意外な拒絶に頭の理解が追い付かない。
「捨て駒に主力二人が当たる事はありません」
「ああ、そう言う判断か。分かった」
分かっているふりをしながら、アメリアの本心が何かを考える。アメリアが最初から山賊を皆殺しにする気なら俺が帯同したら過剰戦力になる。これが一般的な山賊の襲撃なら舌戦からこちらの防御を試して、負けそうなら逃げる。他には勝てないまでも嫌がらせを継続して村から金銭を強請るかもしれない。山賊の方は本当に捨て駒なら一連の動きを知らされておらずこのパターンで動くかもしれない。そうならアメリアの思う壺だが、どう転ぶかは現時点では読めない。
アメリアが矢継ぎ早に戦力を割り振る。アメリアは村と侯爵家の戦力、そして魔法使いを全員持って行く。俺の方にはガイルズと奴隷農兵、そしてダンが残される。一連の襲撃で自信を失っている村の農兵に自信を取り戻させるための不自然な振り分けだ。敵が30人の山賊である限りアメリア一人でオーバーキルなので大丈夫と信じたい。
俺はガイルズ達を引き連れ村の南東にあるダンジョンから襲撃があった場合の防備を固める。奴隷農兵は全員自信に満ちた顔をしている。俺が購入した時はクロードと同じ「悪いのは世界だ」みたいな負け犬根性が染みつ似ていたのに驚きだ。俺がレベルを上げた戦闘スキルをガイルズが有効活用したおかげだ。ガイルズの指揮はお世辞にも上手いとは言えないが、基礎はしっかりしている。そして簡単な動きが中心な戦闘は学が無い農兵と上手くかみ合う。間引きで位階が上がれば俺が戦闘スキルを更に伸ばすのでドンドン強くなっている。一つの懸念として奴隷農兵が農民に戻りたいか分からない。村の防衛に参加する農兵は農業もやるが、実力者はその比重が戦闘に傾く。それが高じて貴族付きの従者や専属兵士に鞍替えする者も居る。ダンジョン攻略が終わる頃には王国最強の農兵になっているのは確実だ。1対1でガイルズに勝てるか不明だが、中隊規模の重装歩兵と見れば欲しがる貴族は多い。
農兵に比べてダンの方は駄目だ。【光魔法】レベル3があれば死ぬまで苦労知らずなため、上を目指す気概が無い。ガイルズが大事にし過ぎて戦闘に参加させていないから位階が上がらないのもそれに拍車をかけている。ダンはこの村で受け入れられた事が嬉しいのか、外に対する憧れは一切ない。何か確変が起きない限りダンとはこの村でお別れだ。だがダンと村の将来のためにも【光魔法】レベル5までは上げたい。ダンジョン攻略が始まったらガイルズと相談しよう。
「アッシュ卿、南東か?」
「アメリアだけで対応出来ないのはここだ」
「確かに」
毒沼を泳いでダンジョンの横を素通りしてこんな小さな村を襲撃するのは余りにも非常識だ。更にこの世界の常識として人間はモンスターを意のままに操れないと思われている。だがルルブには複数の方法が記載されている。それに特定の方向に向かって暴走させるのならそれすら必要ない。悪い方に考えるのなら、この手でモンスターに襲われた村と町は確実に滅ぶから情報がいつまで経っても伝わらないのかもしれない。
そして戦いは突然の業火と共に始まる。
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