232 暗殺騒ぎ 下
「「疲れた」」
対面して座っている俺とアメリアは頭を机に付け愚痴る。俺とアメリアがこんな感じで一つの部屋で過ごすのは褒められた行為ではない。しかし村全体がお疲れモードのため、多少のルール破りは黙認される。あの襲撃があった翌朝から三日目の朝まで俺たちは村人総出で休む間もなく後処理を優先した。アメリアが領主の強権で「今日はお休み」と言わなければ今日も村中駆けずり回っている。
襲撃の翌日は襲撃者と被害者の死体を集めることから始めた。俺が足を打ち抜いた暗殺者は領主館の牢屋に入れられた。逃げた暗殺者については追跡を諦めた。四人中三人を殺害か捕縛出来たので悪くない。こちらの被害はグイード夫妻二人、侯爵家の騎士爵一人、侯爵家の従士三人、アメリアの影武者一人、村人四人の計十一人だ。この中で毒で死んでいないのがグイード夫妻二人と侯爵家の騎士爵一人だ。
「この三人は偶然と思う?」
「殺す事を優先しただけと思ったが?」
「それなら毒を使えば良い。マリーメイアみたいな戦略兵器がこんな村に滞在しているなんて普通は絶対に思わない」
ハンナも【グレーターアンチドーテ】を使えるが、マリーメイアが狙われた場合の保険として秘密にしてある。
「そこまで正室の怒りが激しいと確信しているのか」
俺の発言にアメリアは無言で頷く。実際アメリアの部屋で死んだ影武者を務めていた村人は悲惨な姿になっていた。穴と言う穴から血が噴き出し、部屋中に血がまき散らされていた。俺が数分遅ければアメリアも同じ感じに死んでいたと思うと静かな怒りがこみ上がって来る。
「これは口外無用ですけど、騎士爵は自裁です」
「確か棚さく強化を指揮していた男だよな?」
内通者が最低一人居るのは分かっている。侯爵が派遣した四人の騎士爵とその家中が一番怪しい。村の防衛の穴、領主館の図面、アメリアと影武者の寝室の場所、領主の寝室の場所、そして屋敷防衛のシフト割り。アメリアの寝室とシフト割りは宰相家の騎士爵達には伝えていないので彼らは除外出来る。それに襲撃の晩に夜警に当たっていた従士三人は差し入れの夜食に入っていた毒で死んだ。身内の差し入れだから食べたと信じる。それ以外で口にしたのなら彼らが底抜けの無能と言う事になる。
「侵入を許した自責の念か、それとも手引きした自責の念か。どっちでしょうね」
「本来なら前者だが……」
俺が足を打ち抜いた暗殺者は捕えた翌朝に殺された。下手人は自裁した騎士爵の従騎士だ。本人は「主の仇討ち」を主張しているが、状況証拠から言って口封じにしか見えない。侯都なら拷問して口を割らせるだろうが、こんな村にそんな設備は無い。スキルストックに【拷問】はあるから俺が秘密を明かしても良い協力者が居たら拷問できなくはない。それで得られる情報がどれだけ正確かは分からないし、限られたマンパワーは他に回したい。
「なので彼に選ばせました。事実関係が分かるまで牢で過ごすか、侯都に凱旋するか」
主の仇を討ったのなら凱旋が正しい。ただし件の騎士爵と従騎士は疑惑の渦中にある。待遇が悪くても牢に居た方が無実を主張する際に有利だ。
「どっちを選んだ?」
「凱旋です」
「と言う事は黒か」
「アッシュの荒唐無稽な話と照らし合わせるとその可能性は高いです」
「荒唐無稽?」
「モンスターにこの村を襲わせる話です」
「別にモンスターで無くても山賊団でもありえそうじゃないか?」
要は村が襲われた際に巻き添えで殺されるから離脱したいと言う事か。アメリアの考え過ぎな気がしないでもないが、グイードが死んだ今は必要以上に備える必要がある。
「私が山賊程度を焼き殺せないと思う?」
「波状攻撃とか、山賊を囮にアメリアが疲弊した時に暗殺とか」
「大丈夫。伏兵ごと辺り一面を燃やすから」
村の近隣の被害がバカにならないが、アメリアの考えは間違いでは無い。特にグイードほど村を掌握している人間が居ない状況で防衛戦は維持出来ない。未来を捨ててでも敵の撃破が最優先だ。
「待てよ! 俺達はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない」
「え?」
ルルブのリプレイでAの殺人未遂にBが巻き添えで死ぬ話がある。リプレイを進めるとBの暗殺が本命だと分かる。そしてBを殺す依頼を出したのはAと言う大どんでん返しが最後に来る。アメリアがグイードを殺す理由は無いのでラストは参考に出来ない。
「グイードを殺すのが本命だとしたら、どういう理由が考えられる?」
「私の暗殺未遂が便乗ですって!? となるとグイードの暗殺を依頼したのはあの女では無い?」
そもそもおかしな話だ。正室にグイードを暗殺する理由が無い。それでも「やりそう」と思われているのだから、どれだけ酷い女なんだ。俺が部外者で無ければ思いつきもしなかった。
「「ダンジョン!?」」
俺とアメリアがほぼ同時に答えに行き付く。グイードが死んで村が滅びれば毒沼のダンジョンの攻略が遠のく。今はCランクだが、再来年にはBランクに上がると思われている。アメリアが学園に行く前に攻略出来なければ侯爵はラディアンド地方中の貴族を総動員してでもダンジョンを攻略しないといけなくなる。俺みたいに対毒スキルを使える人間を非常識に揃えられる状況で無い場合、この村が最寄りの策源地となる。
「オークの件で致命的な打撃を受けたこの地方に誰がそんな事を?」
「辺境伯じゃないだろうが、この地方の混乱で得する勢力だろうな」
「怨敵なのに容疑者からあっさり外すのですね」
「怨敵だから自分の尻尾を食うヘマはしないと知っている。もっと無能なら籠城戦の時にぶっ殺している」
辺境伯の手勢の暴走の可能性はある。あの男自身の目的はブレないが、あの男が目的達成の要に添える人材が糞揃いだ。そして目的がブレないからこそ、この時点でBランクダンジョンの誕生は全力で止める。
「お爺様に急ぎ伺いを立てましょう。幸い明日には件の従騎士と一緒に侯都に数人送ります」
「あ! と言う事は奴隷解放の件を相談する手紙を書かないと……」
「何処まで出来ています?」
「実は草案すら……」
「はぁ、なら今すぐ書いて。スフィーが怒鳴り込んでくる前に推敲してあげます」
「助かる!」
俺はアメリア監修の下に急ぎ手紙を書く。どう見てもアメリアが書いた様な手紙を俺名義で受け取る侯爵はどう反応するだろうか? 余り深く考えない事を祈ろう。
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