231 暗殺騒ぎ 上
誤字報告ありがとうございます。
対策会議から二日後の夜。
「お客さんー」
「この動きはプロか?」
自室で寝ている所をシエルに起こされる。外は三日月が出ている事を除けば真っ暗だ。急ぎ発動した【風魔法】による広域探査に四人引っ掛かる。これで全員だとは思わないが、確実に敵が侵入しているのが分かるのなら動くだけだ。
侵入経路は棚さくに開いている穴からだ。【地魔法】で必死に埋めているが、まだ2~3残っているのを使われた。この迷いのない動きから敵に情報を流した誰かがいる。内通者は直接敵対しないと言うグイード達の発言が本当だと祈る。
放火による誘導もない。数的不利をものともしないサイレントストライクでターゲットを確実に殺す動きだ。そして彼らの狙いは領主館のアメリアただ一人と見て間違いない。
どう動くのが正解だ? 騒ぎを起こせばその騒ぎに紛れ込まれて捕捉出来なくなる。
「エミール、起きろ!」
「……ん、アッシュ様……」
同室のエミールを起こす。本来なら別の部屋で寝泊まりするが、領主館には部屋が足りないので従騎士は同部屋となってしまった。こういう場合は逆に助かる。
「敵だ! 宰相家の騎士を起こせ!」
「!! た、ただ今!」
エミールは飛び起きようとするも、寝ぼけてベッドから落ちそうになる。俺が咄嗟に庇う。やはり【暗視】スキルがないとこの暗闇の中で動くのは難しいか。
「気を付けて行け」
ちっ! どうやら考えている時間はもう無いみたいだ。俺はエミールが仕事を完遂すると信じて部屋を飛び出す。目指すはアメリアの部屋だ。
「変ー」
「静かすぎる」
俺は廊下を走りながら違和感を覚える。なんで誰も起きていない? 如何に夜が暗かろうと寝ずの番をしている従者が数人は居るはずだ。広域探査でもっと味方の事も良く見ておくべきだったと後悔するが、後の祭りだ。
走りながら俺は【アイテムボックス】から槍を取り出し、天井を一突きする。
「ぐはっ!」
「天井から奇襲するつもりみたいだが、俺には通用しない!」
天井に刺さった槍をそのままにし先を進む。後続が槍の下の血溜まりを見たら俺の主張を本気にするだろう。
だが実に不味い。領主館の図面まで相手に伝えられている。となるとアメリアの部屋を変えてある事まで敵は知っているのか? その場合俺はどっちに……いや、本物のアメリアの部屋を目指そう。敵が俺の動きを追っているのなら逆に返り討ちにしてくれる。流石にそんな事は無いと思うが、プロの暗殺者の思考なんて読めないしルルブにもヒントになりそうな記述は無かった。
俺がアメリアの部屋に到着すると中から戦闘音が聞こえる。一刻の猶予も無い。勢いでドアを蹴り破る。
「死ね!」
乱入した俺に驚く暗殺者を一撃で倒す。奇襲する事に長けていても、奇襲される事には慣れていない。
「アッシュ……ゴホッ」
アメリアが脇腹を抑えて座り込む。
「アメリア! 刺されたのか!」
俺のスキルで毒状態なのはすぐに分かる。【アイテムボックス】から手持ちの毒消しを掛けるが毒状態が解除されない。
「くそ! なんかないか!?」
一般的な毒ではないのか。シーナが居れば……。
「アッシュ……死んだら仇を……」
「バカ! アメリアは死なせない。必ず助ける!」
蒼白になりつつあるアメリアの首筋を見る。俺が噛めば……。駄目だ! 人間を止めてまでアメリアは生きることを良しとしない。だが俺はそれでもアメリアに生きていて欲しい。【吸血】を発動しようと【ダンピール】のスキルセットを見る。
「そうか! 【毒耐性】!」
ルルブには毒を盛られた後に【毒耐性】スキルを得ることで毒による即死を回避出来るとある。実際リプレイでは毒殺されたと思われた重要NPCがそれで一命を取り留めている。アメリアはこの一か月のパワーレベリングで位階が3つ上がっている。スキルポイントの無断使用による責めは甘んじて受けよう。
「持ち直した-」
アメリアの顔色が少し戻る。
「ハンナかマリーメイアを待つぞ」
二人はパワーレベリングで【光魔法】レベル5に上がっている。しまった。二人が居れば【毒耐性】が無くてもアメリアを救えたかもしれない。しかしあの二人が来るまで持つか分からなかったので、たぶん間違いでは無い。
屋敷がにわかに騒がしくなる。エミールがガイルズ達に伝えてくれたか。ふと俺は敵味方の動きが気になり、【風魔法】による広域探査を発動する。影が二つ領主館から逃げている。まだ村内に居て何人か追っているみたいだが捕まえられるかは半々だ。狙えるか?
俺は咄嗟にアメリアの部屋にある窓を開けて槍を投げる。【風魔法】が乗った槍は逃げている暗殺者の足に当たり、昏倒させる事に成功する。もう一人の暗殺者は領主館からの攻撃だと気付き射線が通らない脱出ルートに切り替える。怪我をした暗殺者が自害する前に捕えられるかは追っ手に任せる。
「姫様! 姫様!」
スフィーがマリーメイアを伴い部屋に飛び込んでくる。
「マリーメイア、毒だ!」
「遅い」と言うのを必死に堪え、アメリアの治癒を最優先でさせる。
「【アンチドーテ】……あれ、治らない?」
マリーメイアがしばらく詠唱をして解毒魔法を発動する。
「なんですって!」
「【グレーターアンチドーテ】を使え」
詰め寄るスフィーを抑えマリーメイアに命令する。マリーメイアは黙って頷き詠唱を開始する。【アンチドーテ】はレベル3、【グレーターアンチドーテ】はレベル5の魔法だ。敵はマリーメイア達の【光魔法】レベルを知って【アンチドーテ】では解毒出来ない毒を使ったのか。敵が情報をアップデートしていれば危なかった。それにその場合は毒で苦しんで殺すより首筋を斬って即死させる方法を取っていた。今回は依頼主である正室の性格に救われた。だが許す気は毛頭ない。
「【グレーターアンチドーテ】!! お願い治って。余り魔力が残っていないの!」
マリーメイアが祈るように発動した解毒魔法はアメリアの毒を取り除く。
「マリーメイア、楽になりました。感謝します」
「心配させ過ぎだ」
「アッシュ、出来ればこういう姿を見せたくないのですが、また命を救われましたね」
「気にするな」
アメリアは相変わらず面倒くさいところがある。急にしおらしくなられても俺が対応に困るのでこれで良いのかもしれない。
「なら担いで。皆に無事を見せなくては!」
「姫様!?」
驚くスフィーを無視してアメリアをお姫様抱っこする。このままベッドで数日療養させたいが、無事を知らせるのは大事だ。この状況で変な噂が広まればアメリア、そしてこの領地に取って致命傷となる。
「被害は?」
アメリアは俺の胸に顔を埋めて静かに問う。
「影武者、そしてグイード夫妻、他多数」
俺は【風魔法】でアメリアにだけ聞こえる様に呟く。グイードの件は流石に驚いたのか目を見開く。俺だって嘘だと思いたい。だがグリード夫妻のベッドの周りに多くの人間が集結している。
「そこに」
「了解。スフィー、グイードの部屋まで先導! マリーメイアは傍を離れるな!」
色々言いたい事を飲み込んでスフィーは命令に従う。グイードの下に行く事が安全だと判断したのかもしれない。代官になっても使い続けている領主の寝室に向かう。道中何人かの騎士と使用人とすれ違う。その度にアメリアが声を掛けて自分の健在をアピールする。
「アッシュ卿、アメリア様!」
「ガイルズか!」
領主の寝室に到着する少し前にガイルズと合流する。こういう状況だと彼が近くに居るのは心強い。それとダレンとネイサンが外を調査していると素早く教えられる。悪い選択では無いが、既に敵はいないと分かっているので少し複雑だ。
「アッシュ、ここからは」
領主の寝室前でアメリアを降ろす。本来は歩ける状態では無いが、高レベル(位階)から来る肉体強度と貴族としての矜持がアメリアを突き動かす。部外者である俺とガイルズは部屋の外で待つ。必要とあれば即飛び込む。
「「姫様! お怪我を!?」」
「治療済みです。グイードは?」
「首を一突きです。苦しまずに死んだのがせめてもの救いかと」
老齢の執事が涙を堪え状況を伝える。グイードの息子が「父上、母上」と二人の遺体に縋りついて泣いている。彼はグイードがラディアンド籠城に参加する際に領地に一時帰還していた。そしてアメリアが滞在している間はグイードの補佐として活躍する事を期待されていた。
「ぐっ。グイードIV世! 泣いている暇はありません! 代官夫妻の葬式を急ぎ手配なさい!」
死んだ代官はグイードIII世だ。子供に同じ名前を継承するのは下級貴族ではよくある。何せ村人は「グイード」の名前を貴族と同義に扱う。嫡男とは言え、違う名前では混乱の元だ。
「ひ、姫様?」
アメリアの余りの剣幕に驚く若グイード。
「グイードIV世、貴方が父の跡を継がずして誰が継ぐのです? 役目を全うせずに死んだ両親に顔向けできますか?」
「は、はい! 直ちに!!」
それだけ言ってアメリアは退出する。そこで限界が来たのかふらっと倒れ込む。無論俺が倒れる前に体を抱き寄せる。安全な部屋に寝かせるとしよう。ここ数日はろくに眠れないと思いながらスフィーの部屋へ向かう。
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