230 密室 下
「結論から先に言う。正室様が動いた」
レイナーの口から聞きたくない言葉が出る。
「想定出来た事態だ」
アメリアの母を殺すために自分の夫まで巻き添えで殺す女だ。考えなしに暴発するのは当然。
「閣下は依頼が破棄されるように動いているが、広範囲に依頼を出したので完全に把握出来ない」
「把握出来ないとは? 離れに動かしたのは監視のためでは?」
グイードが厳しく追及する。
「そうだ。故に閣下が姫様の存在を明かした後の依頼は受理される前に全部潰せた」
「となると謎の男の件か?」
「正室様は頑なに口を閉ざしている。だが出入りの人間で怪しいのはいない」
「お手上げか?」
「そうでもない。とある日から正室様の雰囲気が暗くなった。なのでその数日前に接触があったと想定出来る」
流石に侯爵家の人間は有能だ。俺が何か言おうとするも、レイナーが続ける。
「ただその日はアッシュ卿が闘技場で悪魔モドキと戦った日みたいだ」
「待て! 時系列が合わないぞ!?」
驚きのあまり声を上げるガイルズ。
侯爵がアメリアの生存を知ったのは闘技場の後だ。その前にアメリアの生存を知っていたのはハインリックのみ。
「ハインリック卿が怪しいのでは?」
グイードが唯一時系列が合う可能性を鋭く指摘する。
「ハインリック卿は神々に誓って正室様に伝えていないそうだ」
ハインリックはお家のためにアメリアを殺そうとした。なら問題しか起こさない正室様に言う可能性は無い。
「正室様に入れ知恵した相手は不明として、晩餐会の前にどれだけの仕込みをしたかが大事です」
「そうだとするとかなり長時間仕込めたはずだ」
グイードとガイルズが揃ってレイナーを見る。
「俺を疑っているのか!?」
「レイナー以外の騎士爵だと思うぞ。特に従士連中とはどれだけ親しいんだ?」
俺が二人の懸念を代弁する。
「俺の手勢は籠城戦を戦い抜いた者達だ。信用できる。残りは……信じたい」
「かと言って送り返す事は出来ませんよ?」
沈痛な面持ちで言うレイナーと全員が敵だとしても排除できない事を伝えるグイード。
「領地の約束とか借金の棒引きで転びそうなのを注視するしかない」
「正室様では領地の約束は流石に無理だと思う」
「ギドルフが家を継いだ暁にとかはどうだ?」
「無いとは言わないが、その条件で姫様を殺すのはリスクが高すぎる」
「そうですな。借金の方も姫様を直接害するのでは無く、扉の鍵を開けておくみたいな補助的な行動でしょう」
俺の考えにレイナーがグイードが反論し、彼らなりに修正する。
「村内の派遣組が直接アメリア様を害さないのなら、屋敷内の防衛を密にすれば良かろう」
ガイルズの発言で方針が決まる。
「なら外からはどんな脅威が来るんだ?」
「正室様は昔から盗賊ギルドと関係が深いと言われています」
「そっちは基本的に閣下が潰したはずだ」
「となるとはぐれですか? ああ言うのは少人数で捕捉が困難です」
「少人数の旅人を疑うしかない」
侯爵領に詳しい二人が言う。
「モンスターが攻めて来る可能性は?」
「そんな事を出来る怪しい人間は侯都にいない」
「アッシュ卿は何か思い当たる節があるのですか?」
「アメリアの【炎神の加護】に気付けて侯爵家の混乱を望む存在の事を考えていた。一人だけ思い当たる男がいる」
「「なんだって!!」」
「俺が北の砦で戦ったラッセと名乗る下級悪魔だ」
本来なら俺自身が一笑に付すとんでも案だ。しかし【勇者の運命】スキルがその考えが正しいと後押ししている気がする。少なくても悪魔関係で外さないのがこの迷惑スキルの唯一の取り柄だ。
「「……」」
「ラッセは城塞都市ラディアンドの【闇魔法】関連の黒幕だ。少なくても孤児の首輪と違法奴隷、更にはレヴェナントの件に関わっている。俺は籠城戦の時に何故ラッセが動かないのかずっと考えていた。動かなかったのではなく、ラディアンドに不在だったとしたら?」
「正室様に入れ知恵は……出来ますか」
「待て! ならその悪魔は侯都に居ると言うのか!?」
「あの悪魔は狡猾だ。俺の知る限り有能な人間に手を差し伸べて、自身の目的を達成しようとする。あの女は悪魔が自分の存在を露見させてまで手助けするに値するか?」
「「それは無い」」
「あくまで俺の勘だ。だからこれは公言せず、モンスターの襲撃もあり得るとだけ心に留めておいて欲しい」
「「承知」」
「で、それを踏まえて棚さくを強化してはどうだろう?」
「痛んでいる箇所の修復は可能ですが?」
「開拓から【地魔法】使いを何人か抜いて石と泥で棚さくを覆うのはどうだ?」
「出来るとは思います」
「ならやるべきだ。数日【地魔法】が無い程度で開拓が止まるわけではあるまい?」
この領地に思い入れが無いガイルズが言う。
「防衛は大事だ。開拓には一人残せば進むはず」
レイナーもアメリアを守る事を優先する。
「分かりました。開拓作業の流れを見直して、【地魔法】使いが外せる日を増やします」
グイードが予定を調整する形である程度の方針が決まる。長時間話すのは疲れる。俺たちはやっと解放されると思い部屋を出る。
「男四人で密談ですの?」
「「……」」
ドアの外には明らかに怒っているアメリアが立っている。一瞬ドアをまた閉めて部屋に戻ろうかと思った俺を責められる人間はいない。
「話してくれますね?」
目が笑っていないアメリアに気圧され、俺達は頷く事しか出来ない。
本当はグイードが密会の内容を纏めてアメリアに伝える予定だったが、こうなったら手間が省けたと思う。それにギドルフの母が自分を殺すために刺客を放ったと聞いたアメリアを抑えるのはグイードだけでは心配だ。根本的な解決を図るために侯都を火の海に沈ませかねない。
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