薔薇と菫
今更だけど、私はマシューさんと2人でちゃんと話をした記憶がない。
マシューさんはギルに初めて会った時から知っている人なのに、個別で話をした事がない。私の従者ではないし、ギル第一の人なのでギルに関する事でしか関わりもなかったのであまり気にした事がなかった。
でも思い返せばジェーン先生とはちょいちょい話をしていた記憶もある。
元々、誰とでも身分の垣根なく屈託なく話をするジェーン先生だし、歳も近いしと納得したいたのだ。
「マシューは元々かなり優秀な人材なんだよ」
とウチに久々にやって来たアルバートが教えてくれた。
「文官とか武官とかになる為に試験を受けるのって、従属爵位を持たない貴族の次男とか三男とかーー有り体に言ってしまえば『貴族になれない』人が多いんだ。だけど彼の場合は本来なら嫡子でれっきとした貴族なのに文官試験を受けて見事2位になってるんだよね」
「見事『2位』ですか」
なんかゴロ悪いな。こう言うのって普通1位でしょうに。
「1位はレディ・ホワイトだったらしいからね・・・。新説、定説、新解釈、古典に対する異説と仮説、採点する方が教えを乞いに行きたくなるレベルだったそうだよ。武官の方で受けてればマシューも1位だったって父が笑ってた」
「ジェーン先生そんなだったんですか」
「そうそう。最初は受験すら危ぶまれてたのに受けたら誰も文句言えなかったらしいよ。ちなみに、君がロバートに調べさせたアルクィン?が3位。この3人は出来の差というよりも、アルクィンは主教の色合いが強く出過ぎていてその分がマイナスだったようだね、とはいえマシューは優秀で、しかも性格が温厚だったことと、赤ん坊だったギルをあやすのが上手かったからギル専属になったんだ」
宗教色が強すぎるって・・・進化論を認めないようなもん?とはいえこの3人は本当に同期だったんだ。
ーーマシューさんはそれで良いのか?文官希望なのに子育てしてるようなもんじゃん。
そんな事を考えていた私の頭を覗いたかのようにアルバートが補足した。
マシュー本人には配属の際にも、その後も定期的に『配属に問題はないか』ときいているが、毎度『ギル様のおそばに居るのが私の最上の幸せです!!』としか言わないから今の状況だ。ちなみに最初の配属も候補にもなかった『ギルバート付き』を言い出したとのことだ。
「ロードバーグは女性の登用が遅すぎますわ!」
おっとマリー、なんか不機嫌だ。ジェンダー的な事を気にされるタイプだったっけ。
「いやいや、別に『女性』って事でレディ・ホワイトの受験が危ぶまれたんじゃないよ」
「じゃあ何が?私の国、フォンテールはご存知のようにお姉様が女王でも誰も文句を言いませんわ!」
いいぞ、マリー様!私もそこちょっと気になってた!
「女子とか性別じゃなくて、レディ・ホワイトはホワイト子爵ーー当時はアズロワルド侯爵だけどね、その私生児であるっていうのが、いや言葉選びが悪いのは重々承知してるがこうとしか表現出来ないから言うけど、『問題視』されてしまったんだ」
「侯爵が自身の血筋だと言ったのなら、疑うなどありえませんわ」
「マリーの国ならそうだろうね。でもロードバーグじゃそうはいかなかった。レディ・ジェーンの母である『ローズ』が社交界に出て貴族と結婚していれば問題なかったのだろうけどね、そうじゃなかった。2代揃って、控えめな女性だったんだろう。表に一切でなかったし、その上やはりレディ・ジェーンの母と言うべきか、彼女も未婚で子供を産んで父親を公表しなかった」
おやまぁ・・・。身分制度がある世界観で随分先進的な考えのお母様だったのね。ーージェーン先生のお母様らしいといえば納得だけど、この世界的にはどうなのかしら?あまり耳にしないし、私のお父様とシャポー家の話を聞く限りイレギュラーなのはわかるな。
とはいえ、以前にお会いしたホワイト子爵とジェーン先生との接し方からしたら別に当の本人は問題視してなさそうだし、点数と言う明確な指標があるものでそれが問題になるって事の方がおかしい気がする。
「まぁ、それは今後2人で改善して下さい。それで、ジェーン先生がテストで誰が見ても一位で、マシューさんが2位、そして件のアルクィン氏が3位だったということですね。ーー気になるのはジェーン先生が文官を辞めたことです。普通に考えますと、それに今教えていただいた状況を
聞けばなおさらですけど、文官を辞めることってないですよね?」
自分の身分を周囲に疑問視されている状況で、宮廷で働くという社会的地位を捨てる事なんて有り得ないだろう。金銭の問題がなければ問題ないと思うタイプであればそもそも試験を受けない。
私の発言でアルバートは少し眼を見開いているようにみえた。
「たしかにそうだね。僕から言うのはアレなんだけどーー、レディ・ジェーンは鳴り物入りで文官になったんだよ。でも、働き出して3年程で自主的に辞職したらしい。理由は『私事』としか残っていないから調べようがなかった」
「アルバート、それは綺麗ごとの答えですわね?私、母国で醜聞には慣れ親しんでおりますので、ロードバーグの取り繕いには辟易しておりますの。ーーちなみにロザムンドもそうですわね。あなたの理想は存じませんが、意外に女の子の方が耳は大人なんですのよ?濁しても無意味ですわね」
眼を少し細めたマリーの表情は、とても十代が出す物ではなく。横で見ていた私もドキドキさせられてしまう。彼女の言う通りワイドショーに慣れ親しんでいた私はちょっとやそっとのゴシップじゃ驚かん。
アルバートは言いにくそうに少し眼を左右に泳がせながら、その途中でぶつかるマリーの真っすぐな視線に捕まると諦めたようにため息をついてから、口をひらいた。
「マリーの求めているようなゴシップではないよ。ただ、レディ・ジェーンはとある人との恋愛が噂になってすぐに辞めたそうだよ」
そのアルバートの言葉に対してマリーは身を乗り出した。
「ある人とは!?」
あれ?ジェーン先生ってまだ未婚だし、それに自分はそう言った事に縁がないと聞いた記憶がある。恋愛スキャンダルで辞職してそう言っているのだろうか。
ーーアルバートの表情が言いにくそうにしてるから、なんかあんまり良くなさそうだ。
「マリーもロザムンドもここだけの話にするって約束してね」
アルバートの言葉にマリーは首が落っこちそうなくらいに振り下ろしている。私もゆっくりを縦に下ろすと、アルバートが息を吐いてから言葉を紡いだ。
「レディ・ジェーンはバイオレット・ルールータンという令嬢とスキャンダルを起こした。バイオレット嬢はアルクィンと婚約直前の女性だったんだ」




