噂のあの子
ギルと2人で出かけた翌日のこと、事の次第をアルバートから聞いたマリーが我が家にやって来た。
来るや否や、マリーは私の顔を見て不満タラタラ。
「ロザムンドったら、私に黙ってパーティに行くなんて。信じられない!」
「そう言われましても、マリーが一緒だと目立ってしまうから」
「ギルがいるなら一緒じゃない!私だって、お洒落したあなたと一緒にお話したりしたかったのに」
「こうして今美味しいお茶とお菓子で、歓談してるじゃないですか」
リリー特製のどら焼きとほうじ茶を指差すと、マリーは頬を膨らませた。
「・・・なんか違うでしょう。あなた普段着は地味も地味だから夜会でのロザムンドの様子も見たいのに。ドレスはどんなのを着たの?」
「ドレスですか?ギルが用意してくれました。藍色と銀色の刺繍の入ったのでした」
「あいつ自分の服なんて全部同じのを用意するくらいなのに、ロザムンドにはあいかわらず全力過ぎるわね。ーーそれで、目的は達成出来たわけ?」
そう聞かれて、ひくりと表情が強ばる。
質問して来たマリーの表情は愉快そうな、面白がっているようなものだった。
「ききます?」
「一応ね。気になる人はいて?」
そのマリーの一言に、ふっとエレナの事を思い出した。
ゲームのシナリオではマリーとエレナは仲は良くなかった。
マリーは大国の王女である自分と男爵家のエレナが同等扱いを受けることに不満だったものの、フォンテールでも信仰している宗教の大司教から推挙された経緯もあり表面上は波風を立てないようにしていた。
なので会話はあっても若干刺々しい物が多く、エレナはエレナで『マリー様』呼びを一貫して貫く等の反抗を見せていた。
(私も子供だった事や本人からの希望で『マリー様』って呼んでたけど、公的な場であれば『王女殿下』にしなくてはならないらしい)
「マリー、エレナ・ドニ男爵令嬢ってご存知ですか?」
「ここで男性ではなく女性の名前を出すあなたって色んな意味で凄いわね」
「いえちょっと話題の中心の女性のようで」
「・・・ロードバーグの貴族に関しては最近勉強してますのよ。ドニ男爵家っていいますと主教関係の要人を出している家柄ですわね」
「エレナ嬢と面識ってありますか?」
私の質問に、マリーは少し眉を顰めて黙った。これは珍しい。
マリーが言葉に詰まるなんてめったにないことだ。
ーーそれにしてもドニ家は主教関係の要人を出しているのに、男爵家?もっと爵位が高くても良い気がするけどーー。ただこれで大司教の推薦をもらえる理由がなんとなく分かった。
「面識と言って良いのか分からないけれどーー先日噂を聞きましたわ」
「噂?」
「『フォンテール王家とロードバーグ王家が婚姻で繋がる事を神はお喜びにならないでしょう』とエレナ・ドニが言ったそうよ」
「はぁ?!」
預言なんてエレナできたっけ?いやでも、預言だとしてもまだ妃候補でも何でもない、ただの男爵令嬢が王族同士の婚姻にケチをつけるなんてまぁ、大胆不敵。
「私自身がそう彼女が言っているのを見た訳ではないから、本気にはしていないけど、そんな事を言ったなんて噂が出る時点で周囲に敵の多い令嬢のようね」
と、苦笑しながらマリーはどら焼きを一口大にちぎって口にいれると、小さく微笑んだ。
「これ、素朴な甘さで美味しいわね」
「こちらのお茶と合わせるとよりオススメですよ」
「紅茶のような色ですけど、匂いが違うのね。ーーま、あなたから噂話が出てくるなんて、パーティに行った成果がでてきてるようね」
マリーは人差し指で私の鼻先をピンっと弾いた。




